ep.73 再会③
「神器を内蔵された人間?」
「あ?神器とは言ってもお前らが持ってる物とは格が違うぜ?なにせ女神様が直接触れられこの身に施されたんだ。そして俺達は適合した選ばれし人間ってわけよ」
「…女神?狂信者か。どのみち能力が効かないなら直接殺ればいいだけだ。前に戦った奴らと同じようにな」
風での攻撃は効果が薄いとみて、ラグナはトライデントの出力の殆どを身体能力の還元に集中させる。前回もヴィクトリアの能力封じに接近戦で対応し仕留めたのだ。
更に、今回はそれだけではない
「追い風だぜ!」
自身の背後に突風を作り出し、さらなる加速を可能にさせた。憎悪の肉塊の範囲外であれば能力は使える。二重の加速による神速の突き。
これがラグナによる第二の絶対貫通
修行の成果だ
—展開魔法 暴風
「なに!?」
接近するラグナと待ち受けるファブリソの間に突如として巨大な三つの竜巻きが発生した。そこに生まれた破壊空間により、隣接するビルは容易く砕かれ、周囲の形ある物は全て飲み込まれていく。
「くそが!」
ラグナは接近を諦め、真後ろに飛び退いた。竜巻きはただの風じゃない。窓ガラスや瓦礫など様々なものが含まれている。いくらラグナといえど、あれらに巻き込まれたら、たちまちミンチと化してしまうだろう。
充分に離れたところで竜巻はその場から消えた。だが、その威力はほんの数秒で街の景観が変わってしまうほど絶大だった。
ファブリは情けなくも逃げに徹し背を向けたラグナに対し、不気味な笑みを浮かべた。そして羽織っているスーツを脱ぎ捨てシャツの袖を捲る。
「な!わかったか。これが格の違いだ」
「お前も風を…あれが能力か!」
「能力?ちげぇな。魔法だよ。お前に合わせて風魔法を使っただけだ。こんなの遊びでしかねぇ」
「…魔法だって?」
「俺達から言わせりゃ、お前らは一つだけの魔法をせこせこと使ってるだけなんだよ。見ろ!」
—侵食魔法 毒雨
ファブリソの手の掌から緑色の液体が出現し、粒状になった液が周囲へと拡散されていく。液体が触れた地面や建物が溶け出すのを目撃し、ラグナは咄嗟に風を展開させ防御を取った。
「やっぱ初期の魔法は弱いな。インパクトに欠ける。じゃあ次はこれだ」
—破壊魔法 炎嗟ノ狼煙
ファブリソの身体を中心に炎が波のように出現し、地面が赤一色で埋め尽くされていく。
「次から次へと新しい能力が…」
ラグナは地面からビルの窓枠へ飛び移り
炎の海を回避する
「だから能力じゃねぇって。それにしても狼煙を上に躱すとは…バカなヤツだ」
「なんだ?…頭が」
〜
「悪いミア、ちょっと待っててくれ」
「ここにいればいいのか?」
「ああ!すぐ戻るから」
楓はミアと共にまずは自宅に寄っていた。例え使えないとしても、グレイドが無ければ話にならない。
「力はなくてもって言ったけど…これは必要だ」
壁にかかったグレイドを手に取り急いで部屋を出る。が—
「地震!?くそっ…こんな時に」
突如…家が無事なのが理解できないほど大きな揺れが発生した。楓は亀のように丸まり地震が終わるのを待つ。揺れは数分程続いた後、ようやく収まった。
「うっ…気持ちわるっ。あ、ミア!無事か!?」
慌てて階段を降り玄関のドアを開くと、
外で持たせていた筈のミアの姿が無い。
「ミア!どこだ!?」
辺りを見回してもそれらしき姿はない。楓は瞬の時のことを思い出し、頭から血の気が引いていくのを感じた。
「…いや、先に向かったのかも知れない。ミアも栞もお願いだから無事でいてくれ」
楓はグレイドを背中に装備すると、街の中心に向かい走り出す。
〜
大地の揺れが収まると再び討伐を再開する。邪種達ですらあの揺れには抗えず動きを止めていた。
「なによ…今の地震」
井上 栞は現在神器科の同級生達と共に、街に現れた邪種を殲滅するため現場へ派遣されている。
前線にはプロの聖隊員達が隊列を組み、学生達はその後方支援だ。出現した邪種はどれもレベル3。この国で見られる最大脅威度のレベル3が最低ラインなのだから、並の学生では太刀打ち出来ないは当然の事だ。
「援軍はまだなのか!?」
神器で目の前の邪種を牽制しながら隊員が叫ぶ
「六角家と成城家の当主が純正神器を装備し、こちらへ向かっておりますが、あと一時間はかかるようです」
「くそっ…手薄な時期にこんな事態が発生するとは…」
他国と比べ日本は邪種の出現頻度、脅威度が低い。なので定期的に戦力が不足している国に協力として、純正神器の適正者や聖隊員を送り出している。
特に今の時期はアメリカ周辺の邪種達の動きが活発になるので多めに人員を派遣していた。
『これより2km先レベル5出現。レベル5出現。その約30体』
周囲からどよめきがあがる
「レベル5?…嘘でしょ…」
その情報を聞き、栞も同様に顔を青ざめる。
「君は…カエデくんの妹だね?」
「え?」
栞が横から聞こえた声の相手に視線を向けると、
一人の美青年の姿があった。
「僕は北条 凪。カエデくんのよ…友達さ!」
「北条先輩!勿論知ってます!」
「おや?カエデくんったら…既に家族にも僕の話を…」
「神器科二年で成績トップの!私達一年生達の憧れです!」
「そうか…。とにかく義妹のことは僕が守るから安心して」
「北条先輩…」
これが吊り橋効果というやつか。
栞は無意識の内に胸の鼓動が速くなっていた。




