ep.72 再会②
絶望は突然。雲一つ無かったはずの青空が漆黒の何かに埋め尽くされた。飛来したそれらは、大地を貪り、人々を喰らう。邪種の襲来だ。
街では直ちに厳戒態勢が引かれ、楓達の通う学校は避難所となっていた。校内は命からがら生き延びた人々で既に溢れかえっており、パニックによる怪我人が出てもおかしくない状況だ。
「カエデ待ちなさいったら!」
「駄目だ…おばちゃんが…山にいるおばちゃんは車も持ってない…ここまで避難できないんだ!」
「私が行くに決まってるでしょ。今ラグナとエイタンも現場に向かってる。落ち着いて」
「落ち着いていられるかよ!妹も…」
突如として街に出現した邪種。その数は未だ不明。すぐさま聖隊員達が現場に駆けつけ討伐に当たっているが手が足らない為、神器科の生徒達にも出撃要請がかかった。つまり楓の妹…神器科一年である栞も、現場へと向かっているのだ。
「どの道神器を起動出来ないカエデじゃ邪種を討伐出来ないわ」
「くそっ」
「私はもう行くけど…変な気は起こさないでね。わかった?」
カリサは無線を聞きつけ現場へと向かう。彼女が今まで学校に居たのは民間人の避難誘導に当たっていたからだ。どれだけの命が救われたのかは計り知れないが、救えなかった命も数えられない。
(くそ!こんな時に俺は…)
「カエデ。大丈夫か?」
「ミア…?よかった無事だったんだな!そういや一番早く学校に来てるもんな」
こんな状況でもミアはいつもと変わらず無表情のままだ。
「栞は無事なのか?」
「それが…」
「私が行こう」
「へ?」
「妹の身が危険に晒されてるのだろう?」
「そうだけど…俺もついていっていいか?」
「…私は構わないが危険だぞ?」
「ああ。わかってる」
〜
グレアは車を走らせていた。向かう先は邪種が出現した街の中心。このままでは主が動かざるを得なくなってしまう。
「ミア様…私にお任せください!」
「あら?逃げずに向かってくるから何者かと思ったけど、グレアじゃない」
「!?」
グレアは声を掛けられるまで助手席に人が乗車していたことに気付けなかった。そもそも走行中の車に、それもドアや窓も空けずに人が侵入するなどあり得ないことだ。
グレアはブレーキを目一杯踏むと、ドアを蹴破り外へ飛び出す。声からするに助手席に乗っていたのは女性。車がクラッシュしても平然と座っている。
「あなた…まさかイリアなの?」
「うふふ。そう言えば認識阻害のアイテムを身に着けていたのよね。これでいいかしら?」
助手席から降りた女性が髪飾りを外すと、グレアの見知った人物が姿を現した。700年前と容姿は何一つ変わっていない。
「イリア!街中にこんな数の化け物達を放つなんて…何を考えてるの!?」
「久しぶりの再開なのに…そんなに叫ばなくてもいいじゃない。もっと楽しいお話をしましょうよ」
「そんな暇はないわ。私が全て蹴散らしてあげる」
「うーん。それは困るわね。止めてもいいのかしら?」
「へぇ…あなたが私を止める…ですって?」
言動とは裏腹にグレアは焦っていた。
(不味いわね。イリアは一筋縄では行かない。時間が無いっていうのに…)
「とは言っても私が暴れるわけには行かないの。この子達に相手をしてもらうわ」
「なんですって?」
イリアがいくつかの宝石を地面に放ると姿を現すのは
炎帝ザイラスが3体
水帝ヒョドリオが3体
風帝カイベルが3体
「三魔将が9体とは皮肉がきいてて面白いわよね。念の為にたくさん復元したの。あ、これらはもうワンセット用意してるから。貴方も退屈せずに済むでしょ?」
〜
「ひぇ〜ラグナ先輩!この量はグロいっスね」
「何を言っている。悪魔の川で散々見てきてるだろ」
「でも街中っスよ?世も末ってやつッスねぇ!あ、レベル5発見!あれは…オーガっスかね…50体くらいはいそうッス」
「次から次へと…きりがねぇな」
既にエイタンとラグナが駆けつけた際にいた邪種の半数は討伐している筈だ。だが、一向に数が減る気配は無く、徐々に脅威度が高い個体も姿を現し始めていた。
「あれは…人か?」
「逃げ遅れたんスかね?」
戦闘の最中ビルの間に人影が見えた。
大きな身ぶりでこちらへと手を振っている。
「おい!早く逃げ…」
刹那、救助に向かうラグナの頬を何かが掠めた。
「チッ。外れたか」
男の手には銃が握られ、銃口から小さく煙が立ち上っていた。
「危ねえな。お前…ヴィクトリアの人間か?」
「お!よくわかったな。ちなみに俺の名前はファブリソだ。お前じゃねぇから。覚えとけガキ」
ファブリソと名乗る男、肩幅は常人のそれとは思えぬほど広く、体重は100kgを下らないであろう巨漢。だが、スーツの上からでも浮き上がる上腕、下腿がただの脂肪ではないことを物語っていた。
「エイタン!」
「サーセン!こっちにもヴィクトリアっす」
「なんだと!?」
「あっちはハーベルだな。お前ら暴れすぎだから俺たちがお仕置きしてやるよ」
ハーベルと呼ばれる男は反対にスラッとした佇まいで、体型だけなら一見ただのサラリーマンのようにも見える。だが、頭髪はなくスキンヘッドで頭全体に波模様の入れ墨が刻まれていた。
「…じゃあさっさと邪徒化しろ。それと憎魔の肉塊だったか?既に対策済みだがな」
「はん。そんなものは部下達の戦力増強にすぎねぇ。俺等幹部クラスには必要ないんだよ!」
「お前らがヴィクトリアの幹部だと?」
「はは。ガキ共にちと教育してやるか」
「神器も魔の種もなくオーフィス騎士団3番隊副隊長の俺に抗えると思ってんのか?」
「お前みたいなガキが副隊長?ロイヤルも余程人手不足なんだな」
「貴様…!」
ラグナはトライデントを起動させ、目視不能、絶対貫通の風をファブリソ目掛けて放った。だが、放たれた一撃は胴を貫通すること無く、壁にぶつかったように散っていった。
「どうなってる…」
「そんなもんが効くわけないだろ。俺らは普通の人間じゃねぇ。1000年前女神の神殿で改造を受けた…いわば人の形をした神器、いや神器を内蔵された人間といったほうが正しいかな?」




