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君が選ぶのは〜過去と未来の勇者〜  作者: ぬしぽん
第四章

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ep.71 不屈

 「カエデ。朝から気になってはいたが…何があった?」


 「これは…ちょっと躓いただけ」


 食堂でミアの目の前に座る楓の左腕にはギプスが大袈裟に巻かれ、顔も紫に腫れ上がり酷い状態だった。


 「それより食おうぜ」


 「ああ」


 熱い料理を口にした途端、激痛が走る。


 「ってぇ」


 楓は今まで喧嘩すらしたことがない。これまでの戦闘も大怪我もせずにやってこれたので、このような状況に耐性はなかった。


 (カツ丼…冷めるまで食える気がしねぇな…)


 「今日は凪は居ないのだな」


 「ん。北条はテストが近いとかで忙しいらしいぞ」


 「そうか」


 普段食事を済ませるまでは言葉を発さないミアが、話しかけてくる事に楓は違和感を覚えた。


 「ミア…もしかして気遣ってくれてる?」


 「…カエデ」


 「なんだ?」


 「君と同じだ。話したくないのであれば話さなくても良い。だが、あまり一人で抱え込むな。友達なのだろう?」


 ミアはいつも通り無表情で淡々としているが、こちらを心配してくれてるのは痛いほど伝わってくる。


 (そういや、ミアとグレアさんがいるんだったな…この二人がいれば俺なんて…)


 楓の脳裏に浮かぶのは敵を圧倒する二人の姿。正直、ロイヤルの面々よりよっぽど心強く思える。


 「…」


 「おい、大丈夫か!?」


 楓がそんな事を考えてた矢先、突然ミアの鼻から大粒の真っ赤な血が滴り落ちた。


 「食事中にすまない」


 「俺は平気だ。それより保健室に…」


 「いや、心配は不要だ…」


 ミアはポケットから取り出したハンカチで鼻を抑えるが、真っ白な布は瞬く間に赤黒く染まっていく。


 「いいから来い!」


 強引にミアの手を引きながら楓は保健室へ向かった。




 楓はミアを保健室のベッドに座らせると、不格好だが鼻に綿を詰め、両側から抑えさせた。


 「先生呼んでくるからちょっと待ってろ」


 「いや、そこまで大袈裟にする必要は無い」


 楓はカーテンに手をかけるも、ミアが立ち上がろうとするので脚を止める。


 「休んでろって。はぁ。クリームパンばっかり食べてるからだぞ」


 甘いものを食べ過ぎると鼻血が出るのは迷信だろうが、ミアの食生活を鑑みればあながち嘘でもなさそうだと楓は考えた。


 「それよりカエデ。手を貸してくれないか?」


 「いいから。座ってろよ」


 「そうではない。右手を見せてくれ」


 楓は観念し右手を差し出すとミアは救うように手に取り、凝視し始めた。そして唇を近づけ—


 「まてまて!」


 「すまないが、こうするのが一番正確なんだ。少し我慢してくれ」


 「そうじゃなくてだな…」


 ミアは構わず楓の右手の甲に唇を押し当てる。手を介し柔らかく温かい感触が伝わってきた。


 (これは何かの儀式なのか…?そう言えば俺が能力を使う時右手の甲から光が出るよな…それと何か関係が……はぁ!?)


 ミアが唇を離すと少しだけ楓の右手の甲から光が漏れ出した。拡散された光は収束していき、口へと吸い込まれるように消えていく。


 「これはいったい…」


 そしてミアはゆっくりと目を開くと、

 楓に目線を合わせた。


 「なるほどな」


 「ミア…?今のは?」 


 「カエデ…これは友としてではなく、力を持つ者としての忠告だ」


 力を持つ者…その意味はよくわからないが、ミアはいつにも増して神妙な面持ちをしているように見えた。


 「よくわからんが…聞かせてくれ」


 「君の力、これ以上使うと命を減らすことになるかもしれない」


 「…は?」


 ミアが何故そう言ったのか、本当だとして何故それを知っているか楓にはわからない。


 「出来るだけ君の意志は尊重したい…が、そうなれば立場上、私は君を止めなければならない。これは友達だからではないぞ。理解してくれるだろうか?」


 「お前…何言って」


 「確実ではない。あくまで可能性の話だ」


 「…もしかしてグレアさんからの忠告も…」


 「グレアか。グレアの真意はわからないが、恐らく私とは別件だろうな」


 「そうか…」


 「カエデ。先ほども言ったが一人で抱え込みすぎるな」


 「…悪いな心配かけさせて。これからは」


 二人は会話の途中だったが、予鈴のチャイムが鳴り、昼休みが終わる5分前を告げていた。


 「やばっ教室に戻らなきゃ。先生には俺が言っとくから、ミアはまだ休んでろよ!」


 「すまないな」


 楓は保健室を去り、残されたミアはゆっくりとベッドに横になる。


 「恐怖の呪言か。グレアは容赦が無いな…」


 気づきはしたものの敢えて解除はしない。どの道分からないのであれば、力を使うべきではないからだ。


 「女神の加護が継承されたのか…それとも私の契約か…後者であればよいのだが」


 女神が姿を現さない現在、確証が得られるとすれば楓の魂の消耗を確認するしかない。今までは平気だったが今回は確実に消耗の兆候があった。


 楓は教室に向かいながら思う


 (この街のことを他人に…ましてやミアに任せようとするなんて…俺はどうかしてた。あいつはあいつ。俺は俺だ)




 「なぁ、ラグナ」


 「話しかけるなゴミ。気が散る」


 ラグナは手合わせの場に姿を見せた楓を見るや、トライデントを収め地面に胡座をかいた。


 「やらないのか?」


 「ああ。時間の無駄だからな」


 楓はムッとする気持ちを抑え、ラグナの横に移動し同じように胡座をかいた。


 「ラグナ。お前は強いよな」


 「うるさいな。どっかいけよ弱虫が感染うつる」


 「弱虫か…」


 「なぁラグナ。戦いで死ぬの怖くないか?」


 「なんだよ急に…僕が死ぬわけないだろ」


 ラグナには芯がある。自分が強者であるという芯。

 楓はというとそうでは無い。今まで流れに身を任せていただけだ。


 「命を減らす…か」


 「何言ってんだお前」


 それから数分程沈黙が続き、隣にいるカエデを煩わしく思ったのか、ラグナは姿勢を荒っぽく崩すと空を見上げた


 「カエデ。お前には二つの借りがある。手合わせの時と、ヴィクトリアとの戦闘の時だ」


 「ん?手合わせの時はまぐれだし、あの時のは…借りなんかじゃないだろ…」


 「…ボス以外ではお前が初めてだった。僕にこの先どれ程努力しても敵わないかもしれない。そう思わせたのは」


 「ラグナ…お前」


 「僕はお前をライバルだと思っている。あまり失望させるな」


 強者であるラグナを前にして気づけた事がある。彼は情けない姿を見せようが、自分を天才だと常に信じ、その上研鑽を怠ることは無い。


 素直に自分の立ち位置を見据え、ひたむきに努力し続ける。楓が今までやって来たことは形だけだ。


 (そうだよ。俺は元から強い人間なんかじゃなかった)


 怖かった。戦えない自分が。誰も救えない自分に戻るのが。だが、己のありのままの弱さを認めた途端、気が楽になった。


 「ラグナ」


 「なんだ?」


 「任せとけ!」


 楓はその場から走り出し、自転車を跨いだ。左腕のギプスを取り外すと勢いよくハンドルを両手で握る。


 「痛っってぇけど!負けてられるかあああ!」




—ぶっ殺す



 「あら、楓くん?どうしたのこんな時間に」


 「なんだかおばちゃんの顔が見たくてさ」



—命を減らすことになるかもしれない



 「楓?悪いがもう閉店の時間だ」


 「あ〜違う違う。おっちゃんの顔が見たくて」



—残ったところで守れると思えないけど



 『お兄ちゃん?どうしたの急に』


 「いや、新しい寮で上手くやってるかな—って」



—お前は世界を救ってくれよな



 『珍しいな電話なんて』


 「悪かったな。どうしてもお前と話したい気分だったんだ。しんゆうよ」


 『よくもまぁ恥ずかしげもなく』



—信念を



 殺すだの、命を減らすだの散々だ。

 でも、俺はこの人達をこの街を守りたい。

 例え命を削ることになろうが…いや—


 「力なんて無くても、俺が全員守ってやる!」



—どんな小さなことでも構わない。

 せめて自分の手の届く範囲の人達の役には立ちたい


 楓は再び自身に誓いを立てた。

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