ep.68 再起の為に
放課後、ミアとハーリィが共に下校するのを見送って、一度帰宅した後楓はある場所に向かっていた。
(このままじゃ駄目だ。俺はきっと後悔する)
目的地へ向かい自転車を漕ぎ続ける。いつぶりだろうか、背中にはグレイドを装備していた。
1時間ほどかけて到着したのは、いつもの修行の場所…あの森だ。楓は倒れている木の一つを椅子代わりに腰掛け、集中する為に目を瞑っていた。
—ぶっ殺す
(負けない…俺は…)
何度も自分の心に答えを探すが、やはり身体の震えは止まらない。一度グレイドを手放すと横の木に立て掛け空を見上げる。
「駄目だな…俺は…いつからこんなに弱くなったんだ?」
オーガとの戦闘、ゴウラ達の襲撃、ミドラ、ザイラス…今まで命の危機を感じるような機会はあった。それなのに
「グレアさんのたったひと言の脅しでここまで…」
心体的な苦痛を伴うものもあったがそれ程でも無い。なのにグレアへの恐怖は消えない。
「立ち止まっても仕方ねぇな。とりあえず筋トレだけでも…」
「あら?カエデじゃない。一人でなにしてるの?」
声の方に視線を向けると、楓の同居人カリサの姿があった。
「カリサの方こそ。任務は?」
カリサは組織からの招集で学校を休んでいた。楓には声をかけられなかったので、ベテランだけの難しい任務なのだろうと認識していた。
「…任務ってほどではないわ…ただ…」
「どうした?」
俯くカリサの表情は今まで見たことの無いものだった。悩んでいるようにも、落ち込んでいるようにも捉えられる。
「カエデが気にすることじゃないわよ。気にしない気にしない」
「そうか?何か困ってるなら言えよな」
「バッ…カエデは自分の心配してればいいの!」
カリサは何やら顔を真っ赤に染めている。情けない姿を見せ続けている楓に、心配されるのは余程悔しいのだろう。
「それもそうだよな」
「まったく。いいわ私も付き合ってあげる」
「付き合う?」
「ち、違う!そうゆう意味じゃないから!しゅ.ぎょ.う!!修行によ!」
「ああ。ありがとう」
ここまで怒りっぽい性格だったか?と楓は疑問を持ちながらも、カリサと共に身体を動かした。
〜
「ミア様…本当にお弁当はこれで大丈夫です?」
「ああ。問題ない。いつも通りだ」
ハーリィはグレアから手渡された献立を見て困惑していた。というのも主の学校がある日の昼食がクリームパンのみという部分がどうも奇妙だ。
(これはグレア姉様からの試練でしょうか?あたしがちゃんと意見できるかどうか…)
ハーリィは穴が開く程の勢いでマニュアルを凝視する。正直なところ一人で主のお世話と家事を全て熟すのは不可能だ。これが出来るのはグレアくらいのものだろう。
だが当然ハーリィに合わせて無理のないようにスケジュールが組まれているし、いざと言う時の対応方法も示されている。
(でも流石にこれは…)
食事に関してハーリィは詳しい訳では無い。それでも、家で提供するものはバランスの考えられた献立、高級な食材、主の好みをよく考慮して作られたものだというのは理解できる。だからこそ昼食だけ…クリームパンのみなのはどうにも…
「ハーリィ?なにか悩み事か?」
「いえ、問題ない…です」
ハーリィはマニュアルの指示通り弁当箱へクリームパンを詰め込む。だが完成した物を見てもやはり違和感しかない。
「ミア様…いかがでしょうか?です」
「どれ。よく出来ているじゃないか。流石だなハーリィ」
(え…本当にこれでいいの?)
ハーリィはより一層困惑した。もしもの場合に冷凍庫にはグレアの作り置きの料理が用意されている。いくら自分の仕事が遅いとはいえ、昼食がクリームパンのみなのは低く見積もられ過ぎな気がしていた。
「ミア様…あたしは今幸せです。全てはミア様のお陰です。だからあたしなどの為に我慢するのはおやめくださいです」
「ハ、ハーリィ?急にどうしたのだ!?」
突然泣き出すハーリィにミアは驚き駆け寄った。いつも無表情で動じない主の意外な一面を見れたハーリィは、涙を必死に拭いその姿を記憶に収めようと躍起になった。




