ep.67 将来
楓は自転車で学校に向かう途中、友人の姿を発見した。なにやら隣に赤い帽子を被る女の子の姿も見える。
「お、ミアじゃん!」
「カエデか」
ミアは1週間近く学校を休んでいた為、楓はとても心配していた。しかし彼女の顔色をみると、血色の良い肌に戻ったようで安堵した。
「体調はもう大丈夫なのか?」
「ああ。心配をかけたようだな」
隣にいる女の子に目を向けるが、ミアの身体で隠れるように楓からの視線を遮り続けている。
「…その子は?」
「新しい同居人のハーリィだ」
楓が覗きこむように少女の姿を見ると、見覚えのない顔だった。妹よりも歳下だろうか。容姿だけでは小学生か中学生か判別はつけられない程幼くみえる。
「ハーリィね。俺は楓だ。よろしくな!」
「よ、よろしくです」
ハーリィの帽子には認識阻害の効果が付与されている。顔を見られたとしても問題は無い。だとしてもミドラ達と共に居た事が楓にバレる可能性は0ではない。
「グレ…」
楓はその名前を口に出すのを躊躇った。
「カエデ?」
「いや、何でもない。それにしても珍しいな、ミアがこんな時間に登校するなんて」
ミアが学校に来る時はいつも一番最初に教室にいる。登校する姿など余程早起きしなければ見られないだろう。
「それは」
「あたしのせいです!あたしがその…寝坊しちゃって…」
「ハーリィ。グレアが居ない中、君はよくやってくれている。気負いすぎて疲れが溜まっていたのだろう」
(グレアさんが居ない?…!)
楓はグレアが居ないと聞き、
少し安心してしまった自分に嫌気が差した。
「二度とこの様な失敗はしないです」
「気にするな。それより私はカエデと登校するから、道案内はここまででいい」
「そんな…グレア姉様から断られても送り迎えするようにと…」
楓は少女に近づくと、小さな声で耳打ちをした。
『今日は俺がいるから大丈夫。でも俺が居ない時は必ずミアを送ってくれよ』
ミアは超がつくほどの方向音痴だ。
なのでグレアの指示も一概に過保護だとは言えない。
「でも…」
「グレアさんには俺が言っとく。任せとけ!」
とは言ったものの、それを聞いたグレアにこの後何をされるかはとても恐ろしい。
「ハーリィ。大丈夫だ」
ミアからのダメ押しで観念したのか、ハーリーはトボトボと反対方向へ歩いていった。その姿が見えなくなるや、ミアは歩きながら隣にいる楓に話し始める。
「カエデ。色々考えはしたが…話さなくて良いという君の言葉に甘えさせてもらおうと思っていてな」
「そうか」
話したくないなら大丈夫。友達として
楓が以前ミアに掛けた言葉だ。
「隠したいという訳では無いのだ。ただ…」
ミアが珍しく言葉に詰まっている。
楓は黙って続きを待った。
「君の将来にも関わる話だから…もう少し見極めてから…」
「俺の将来?それって…」
—カエデくん!学校を卒業したら…僕との間に子供を作ってくれないかい?
「は!」
「カエデ?」
「いや、別に」
何故だかあの時の北条の言葉が楓の脳裏を過ぎった
(ミアも…?まさかな)
将来という単語に反応してしまったのだろうか
「そういや北条の奴、今日はいないな」
「北条…、凪の事か」
「ああ。最近、学校に向かってたら偶然会うんだよ」
「そうか」
楓はキョロキョロと辺りを見渡すが、今日はそれらしき影は見当たらない。二人はそのまま学校を目指し歩き続けた
「カエデくん。ミアさん。僕は構わないよ。僕だって旦那さんの他に妻も娶るんだ。それくらい許してあげないとね。自分がよくて相手は駄目だなんて筋が通らないじゃないか。本当はミアさんを僕のお嫁さんに、カエデくんが旦那さんというのが理想だけど、あれだけ綺麗な人が子を残さないだなんて人類の損失だよ。だからカエデくんが望むのであればそれでいい。もしそうじゃないのなら…」
〜
「ミア?何かあったか?」
「…いや。なにも」
ほんの一瞬…物陰から二人を覗く北条はミアと目が合った気がして咄嗟に隠れた。双眼鏡まで持参し、距離もかなり離れているので、そんな筈はないだろうが。
〜
楓が下駄箱から上靴を取り出そうとすると、
一枚の手紙が落ちてきた。
「なんだこれ」
中身を開くと何やら紹介状と書かれた紙が入っている。
「レストランか?いったい誰が…って、え!?」
下の方に刻まれていたのは真城 咲の三文字。
楓は慌ててバッグの中にそれを収めた。
「どうした?」
「いや。たぶん見間違えだろう。早く教室行こうぜ」
楓の苦難は続いていく。




