ep.64 それぞれの想い
今日の楓宅の夕飯はスパゲッティだ。麺が茹で終わると皿に盛り付け、温めたインスタントのミートソースを上からかける。簡単かつ美味しいので重宝している。
「なぁ、カリサ」
「む、はひ?」
両の頬を膨らませ豪快に麺を頬張るカリサに、
楓は気になっている疑問を投げかけた。
「子供ってどうやって作るんだっけ」
「んぐっ!ゴホッゴホッ!はぁ!?」
「あ、悪い…忘れてくれ。どうかしてたわ」
楓は目の前にいるカリサが異性であることを、すっかり忘れていた。どれだけ親しくとも超えてはならないラインがある。
「なんなのよ…」
「本当に悪かった…」
気まずい空気が居間に流れる。
冷静に考えるとあれは完全にセクハラだ。
(え…北条って男じゃ、え!?)
だが、楓の思考はまとまらない。先ほどの北条の言葉が呑み込めずに何度も脳内を駆け回っていた。
「カエデ…本当に大丈夫?アンタ最近色々とおかしいわ」
「そ、そうだよな。反省してます」
「別に謝って欲しかったわけじゃ…」
息を深く吸い込み、落ち着きを取り戻す努力をすると、少しずつ記憶が鮮明に蘇ってきた。
—僕は男のフリをしている
(男のフリ?フリ…ふり…おとこの…ふり?)
「あっ!」
楓は記憶をたどり、ある一つの答えにたどり着いた
「きゃっ!今度はなんなの!?」
「な、何でもない…なんでも!」
(北条って女だったのか!?でも男子の格好してたよな?どうゆうことだよ…)
答えは出たものの、楓の疑問は止まらない。
「はぁ…一度病院に行くべきだと思うわ」
ふと、呆れるカリサの顔をじっと見つめた
「な、なによ?」
「いや、カリサは可愛いよなって」
「は、はぁ!?」
楓が思うにミアとカリサ、学校でも大人気の美女二人。そのどちらをも異性として見れていない自分の感覚がおかしいと結論を—
(まてまて。他の奴らだって北条を男として認識してるだろ。実際あいつは女子達からは凄い人気が…)
顔を真っ赤にしているカリサには目も向けず、
楓の思考は回り続けた
〜
「なんてことがあったのよ…」
「へぇ〜。カエデさんもやるッスね!」
カリサの相談を聞くエイタンは腕を組みながら目を瞑り、深く頷いている。
「なんのこと?」
「春っスよ。春。カリサ先輩にも春が来たってことっス」
「意味がわからないわよ」
「男が女に可愛いだなんて…脈アリ確定じゃないっスか!」
エイタンは小指をピンと立て、
自信満々といった表情でカリサにウィンクをした。
「は、はぁ!?エイタンそれは早とちりじゃ…」
「いやいや。普通子供の作り方なんて聞かないッスから。これはもう告白超えてプロポーズッスよ!」
「そ、そうだったの!?」
(知らなかったわ…カエデがいつの間に私の事を…)
「アタシとしてはカエデさんは悪くないと思うッスけどね。実力も伸び代だらけ。出世頭ッスよ!」
「いやいやいや!まだそうと決まったわけじゃ」
「じゃあカリサ先輩はどうなんスか?」
「え!?私は…」
顔を赤く染めるカリサを、
エイタンは満足そうな笑顔で見守っていた。
〜
「咲お嬢様、本当によろしいのですね?」
「ええ。自分で言ったことは守るわ」
「ではこちらで井上 楓さんとのお見合いの場を設けさせて頂きます」
〜
「っくし!」
「カエデくんどうしたんだい?」
「いや、なんだか寒気が…」
「風邪でも引いたのかな?心配だね…風邪といえば僕は自分が弱ってる時、側にいて欲しいタイプなんだ。相手が弱ってる時も側にいてあげたい。もちろん嫌だと言うなら我慢するけど邪魔にならない程度には看病させて欲しい。それがパートナーというものじゃないかって僕は思うんだ。風邪が移ったとしても構わないよ。好きな人から貰ったものならなんだって嬉しいじゃないか。というのは…」
(…北条ってこんなにお喋りだったか?)
楓は早口で喋る北条に相槌を打ちながら
目の前のラーメンを食べ進める。
(これから俺はお前と…どう接していけばいいんだ…)
気まずい思いをかき消すかのように
楓は一心不乱に麺を啜った




