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君が選ぶのは〜過去と未来の勇者〜  作者: ぬしぽん
第三章

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ep.62 忠告


 もうすぐミアの家に到着する。北条については純正神器を持ち出したのが色々と不味いようで、その場で別れた。なので今は隣を歩く彼女と二人きりだ。


 「ミア…あの…」


 楓はその先の言葉に詰まる。嫌がられてまで詮索するつもりはないが、あまりにも突然の事だったので何から話せばいいのやら。


 「カエデ。何を聞きたいのかはわかっている」


 「そうだよな」


 「だが今は、君の身体を厭う事が先決だ。私の家で少し休むといい」


 「いや…ありがとな」


 それから話題はなくなり、沈黙が続く。


 しかし楓は決心したかのように胸をドンと叩いた。少し歩く速度を上げると、ミアの前に出て振り向き、彼女の目をじっと見据えた。


 「ミア」


 「どうした?」


 「話したくないなら大丈夫だ。俺はお前の友達だからな」


 これだけは言っておかなければならない。そんな気がした。何があってもミアとは友達、いや親友だと勝手に思っている。


 「カエデ」


 「なんだ?」


 「感謝する」


 楓はミアが見せたその表情の変化に驚いた



 (ミアって…こんな風に笑えたのか)



 それからミア家の玄関に着くと、気が抜けたのか楓は膝から崩れ落ちた。意識が薄れていく中で何者かの腕に支えられた感覚がある。


 (なんだ…?凄く…いい匂いだ…)


 そして楓の視界は遮断された。




 


 「ここは…ミアの家か」


 楓はソファの上で目を覚ますと、まるでカフェのような見覚えのある室内が広がっていた。


 「あら、カエデさん。目を覚まされたのですね」


 「グレア…さん?」


 部屋を見渡すとこちらに笑顔を向ける女性…グレアの姿があった。楓が身体を起こす際、額から冷たいタオルが落ちる。


 「これは…」


 「凄い熱だったんですよ?季節のかわり目は体調を崩しやすいですから、気をつけてくださいね」


 どうやら彼女が看病をしてくれたらしい。楓は申し訳なく思いつつも、タオルを拾いグレアへと手渡した。


 「色々とありがとうございました。あの、ミアは?」


 一瞬、楓からの質問を受けたグレアの表情が強張った気がしたが、変わらない笑顔のままだったので、楓は言葉を続けた。


 「俺…ミアに」


 「現在、ミア様は寝室で休まれております。何かご用があれば後ほど私の方で伝えますね」


 「…そうですか。なら大丈夫です」


 ミアも体調を崩してしまったのだろうか。楓もこれ以上迷惑をかけてはならないと、帰宅する準備をする為ゆっくりと立ち上った。


 「あら?まだ休んでいても良いのですよ?」


 「いえ、いつまでも居座るのは申し訳ないので」


 楓はグレアに見送られ、玄関へと向かう。


 「ではお気をつけて〜」


 こちらに笑顔を向けるグレアを見ていると、楓の脳裏には様々な記憶が巡ってきた。夢で見た彼女の姿、それから魔族を一方的に討ち取った彼女の姿を。


 「あの—グレアさん!」


 「はい」


 何故だか聞かねばならない気がした。自分がおかしいのはわかっている。でもどうしても確認したい。


 「アレス」


 「はい?」


 「アレスという名前の人物を知っていますか?」


 グレアから即座の返事はなく、玄関は静寂に包まれた。すると、彼女はゆっくりと手を顎に当て、何かを考えるような素振りを見せる。


 「もしかすると知人にいたかもしれません。とは言っても国外にはなるでしょうけど。何か特徴などを教えてもらえれば、お調べする事は可能かと」


 「いえ、そこまでしてもらわなくても…」


 (やっぱり俺の夢の中だけだよな…)


 概ね予想通りの返答だった。以前も思ったように夢で貴方を見ました。なんて異性から言われても気持ち悪いだけなので、詳しいことまで話す必要はない。


 楓はグレアを背に玄関のドアノブに手をかけた。しかし、ある人物が脳裏をよぎり、その手を止める。


—アレス。お前は世界を…


 「—グレアさん」


 「はい?まだ何か?」


 (やめろ。その名前は)


 「レト…」


—救ってくれよな


 楓はグレアを背に言葉を続けた


 「では、レト・オリバーと言う人物は?」


 背後にいるグレアが今どんな表情や反応をしているのかはわからない。しかし、彼女からの返答は無かった。


 「闘技大会4位、好きな食べ物は鹿肉のシチュー、出身地は—」


 突如—楓は浮遊感に襲われ、背中に強い衝撃を受けた。顔を上げると、こちらへゆっくりと歩を進めるグレアの姿。その顔にいつものような笑顔は無く、虫を見るような冷たい目をしていた。


 「グレアさん…なにを…」


 背中に走る痛み、そしてグレアの背にある玄関のドア。状況から察するに首元を捕まれ、玄関とは反対の廊下の壁に投げ飛ばされたのだろう。


 「なにを…じゃねぇんだよ。それも加護の影響か?てめぇこそなにをしやがった」


 いつもの丁寧な口調ではない。まるで二回目の夢の中で出会った時のような荒い態度。


 「俺は…」


 「いいか?オレ…私は前からアナタを殺したくて堪らなかった」


 今、グレアが何を言っているのか、何を思っての発言なのか楓には理解できない。しかし冗談などでは無いと確信できた。


 (こ、殺され…っッ!)


 逃げ出そうとした楓にグレアは容赦無く蹴りを放ち、倒れた身体をそのまま踏みつけた。


 「動かないでください」


 すると楓の右手の甲から何かが放たれ、床にはなにやら文字が刻まれる。少なくともそれは日本語では無く楓には読めないものだ。


 「これは…アンディの仕業ね」


 グレアは床の文字を注意深く見つめると、冷静さを取り戻すかのように深く息を吐いた。


 「カエデさん、いいですか?最後の忠告です。アナタのその力…二度と使わないようお願いします」


 「それは…」


 「言い訳は不要です」


 グレアは踏みつける脚を退かし、楓の耳元に顔を近づけると、吐き捨てるかのように次の言葉をポツリと囁く。


 「次はぶっ殺す」


 

 グレアは楓の手を引き勢いよく立ち上がらせると、玄関から出る彼をいつもの笑顔で見送った。




 「なんだよレト…お前は存在したっていうのか…?」




—じゃあ、アレスは?

第三章〜完〜

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