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君が選ぶのは〜過去と未来の勇者〜  作者: ぬしぽん
第三章

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ep.61 一線

 楓の夢の中—


 アレスはアンディを連れて馬車に乗る。そして後ろを行進する兵士達の数は万を下らない。前進するその足音だけでも、心臓の奥深くにまで響くほどの迫力があった。


 馬車の中はアンディと二人きり。特に会話をすることも無く時間だけが過ぎていった。楓は身体を動かせず、只々アレスと視界を共有するのみ。


 (暇だな…とにかく暇だ)


 もう何時間経過したのだろうか…窓からの景色を眺めるだけでは、時間が途方もなく感じる。既に数時間は経過したかと思われるが、日の位置がそこまで変わらないところを見ると、楓の体内時計が狂っているだけだろう。


 ようやく馬車が停車すると、大きな街らしき場所に着いた。再び大勢の兵士や市民に迎え入れられる。だが、先頭で頭を下げる人物に目を向けると


 (あれは…グレア?)


 以前、夢の中で見た時より少し大人びたグレアの姿があった。髪も伸びており、もはや現実で見る彼女の容姿にかなり近い。


 「久しぶりだな。グレア」


 「は!お待ちしておりました。アレス様」


 (…はい?)


 楓はアレスに対するグレアの態度に驚いた。あの時の夢では言葉遣いも荒く、喧嘩腰だった筈だ。それがこの夢では完全に主従関係の様子。


 「来い」


 「はい!アレス様のお側に」


 自分のやや後ろ両隣にグレアとアンディを付き添わせ、アレスは歩き始めた。市民達はまるで通路を作るように横一列に並び、その間をアレスと兵士達が行進する。


 (アレス…お前はいったい何者なんだ…?)


 「グレア。イリアは何処だ?」


 「はい。イリアもこの街に。現在は負傷兵らの看護にあたっております」


 「そうか。では案内しろ」


 「は!」


 (おっ。イリアもいるのか)


 グレアがアレスより前に出ると、目的地まで先導し始めた。街外れのテントが立ち並ぶ場所。そこに青髪の女性、イリアの姿を見る。


 「久しぶりだな。イリア」


 「あら?うふふ。アレス様…いらしてたのですね。お迎えできず、申し訳ございません」


 イリアは小走りでこちらまで来て深々と頭を下げた。


 「行くぞ」


 これで全ての…レト以外ではあるが、あの夢の仲間が揃った。これから何が始まるというのか。楓はアレスと視界を共有しながらも少し感傷に浸っていた。


 アレスを先頭に四人は兵士を引き連れ、道の真ん中を闊歩する。まるで大名行列のように。


 (すげぇ…なんだよこれ)


 その光景に楓も思わず興奮を抑えきれなかった。楓の住む街はそこまで田舎では無い。それでもここまで沢山の人間を見たのは初めてだ。


 そのまま馬車に戻ると、アレス、アンディ、グレア、イリアが乗車した。しかし、馬車が走り出すと楓は再び退屈な時間が続くのかと憂慮する。


 「お前ら」


 (お!アレスが喋り始めたぞ)


 先程、アンディと二人でいた時は無言だったが、

 アレスが言葉を発した


 「覚悟は出来てんのか?」


—は!

—勿論です

—うふふ。当然です


 (覚悟?)


 その一言だけでは、楓は意味を理解できない。


 「俺様と同じで馬鹿な奴らだ」


 アレスがポツリと呟いた。とても小さな声だが身体を共有しているので、楓にはよく聞こえていた。


 それからは再び無言の時間が続き、アレスは窓の外を眺めるだけだった。


 (暇だな…もっと話すこと無いのか…仲間だろ)

 

 結局、沈黙のまま馬車は進み続けた。

 しかし、それもすぐに終わりを告げる。


 (あれは…神殿か?)


 視界に映り込んできたのは、以前夢で見た建物ではないが、いかにも神殿らしい真っ白な巨大建造物。門の前には大勢の兵士達が隊列を組んでいる様子だ。


 それを見た一同は馬車を降りた。そして4人は横一列になると、後ろから同行していた兵士達の前に立つ。アレスが一歩進むと兵士達は一斉に敬礼を始めた。


 「お前ら!覚悟は出来てんのか」


ーは!


 兵士達の返答は一言だけだが、その数から発せられる声ときたら。楓もアレスの身体じゃなければ、鳥肌が総立ちしそうなほどの衝撃を受けていた。


 「じゃあ行くぞ。神を…この世界から追い出す」


 (へ?)


 次の瞬間、アンディとイリアの手から何かが放たれ、神殿と思われる建物の屋根が爆発し、特大の炎が立ち上った。


 それを合図に兵士達は前進する。すると神殿の前で隊列を組んでいた兵士達と衝突し、目の前で大乱戦が繰り広げられた。


 (は?…なにやってんだよアレス…)


 アレスは味方の兵士達の間をすり抜けながら、敵の兵士達を容赦無く斬り伏せていく。後ろをチラリと覗くとグレア達も同様に攻撃を開始していた。


 (お前等…それは人間だろうが!)


 楓の声は当然アレスには届かない。凄まじい速度で通った道に死体が転がっていく。


—やめろ


—やめろ


 何百…いや何千の死体を積み上げたのだろうか

 アレス一人でも相手の被害は甚大だった。

 もはや虐殺と言っていいほど圧倒的な力…



 長く続いた殺戮の後、アレスはついに脚を止めた。



 「ようやくおでましか…」


 視線の先には…


 (あれは…あの時の)


 「アレス。考え直しては下さいませんか?」


 楓の視界に映ったのは、真っ白な髪と肌。そして純白のドレス。以前神殿で出会った女神の姿だった。


 しかし、言葉遣いや表情は以前と全く異なり、真剣そのものといった様子だ。まるで同一の存在とは思えない程に。


 「女神…お前はやっちゃならねぇ一線を越えた」


 アレスが右手を前方に突き出すと、手の甲から赤い光が溢れ出した。光は収束していき、1羽の鳥の姿へと形を変える。


 鳥はこちらに頭を下げると、翼を広げその影を伸ばした。すると地面から伸びるように赤い剣が姿を現す。


 「—勇者の剣ソードオブアレス……本気なのですね?」


 「ああ。終わりにしようぜ」


 「わかりました…そこまで言うのであれば」


 女神が天に手をかざすと、空から純白の剣が羽毛を散らしながら女神の手へと舞い降りた。


ー貴方の加護を…契約を剥奪します



 両者は同時に前方に駆け駆け出し、

 アレスの剣と女神の剣が交差したー


 そして世界に亀裂が走り、楓の視界は閉ざされた



ー井上くん


 「井上くん!起きて!」


 「んぁ!?」


 楓は視界を取り戻すと正面にはこちらを見下ろす美男子の姿。そして後頭部には柔らかい感触…


 「え…どうゆう状況なの…」


 「そんな事よりミアさんが…!」


 「え!?ミア!」


 楓は慌てて身体を起こすと、武器を持った邪徒が今にもミアに襲いかかろうとしていた。


 「やめろ!」


 しかし、楓は何故だか身体を思うように動かせない。


 「ミア!!」


 叫びも虚しく、男達は容赦無くミアを斬りつけた。


 「…は?」


 楓が目撃したのは、振り下ろされた筈の武器が跡形もなく消えていく光景。目の前の二体の邪徒には関心のない様子で、ミアはこちらに視線を向けた。


 「カエデ、なぎ。怪我はないか?」


 「なんだこの化け物!」


 邪徒達は困惑しながらも、空いた手を握りしめ拳を作る。そしてミアへとー


 「お前達には…生きる価値がない」


 次の瞬間、男達の拳は標的を捉えることなく—それどころか姿さえもその場から消え去った。何故だか男達が居た場所には無数の赤い羽毛だけが散っていた。


 「ミア…どうなって」


 「カエデ」


 「あ、はい」


 「すまないが、ここは何処だろうか」


 「ええ…」


 楓は地図を受け取ると、少し休んだ後、

 ミアを家まで送り届けた。

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