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君が選ぶのは〜過去と未来の勇者〜  作者: ぬしぽん
第三章

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ep.59 三度目

 ミアの家に老人が入っていく姿を見送ってから20分ほど、楓は街中を駆ける一人の男を追いかけていた。周りの人達は不審者を見る目で遠巻きに見物しているものの、誰も止めようとはしない。やがて男は人気の無い場所に到着すると立ち止まった。


 「しつこいな。なんの用?」


 「ハァ…ハァ…アンタだな?さっき危ない気をこっちに向けてきてたのは」



 男は黒いジャンパーを身に纏い、フードで顔は見えない。それでもただならぬ雰囲気を感じ取ったので、とりあえず声を掛けてみると突然逃げ始めたのでここまで追跡した。楓は息を整えると構わず男に詰め寄る。


 「アンタ…もしかしてヴィクトリアか?」


 「はぁ?なんだよ。ったく仕方ないな」


 男は懐から魔石を取り出すと地面へ放った。すると三匹の邪種が姿を現す。修行の際訪れたエリア3で遭遇したのと同じ、通称リザードマンだ。その脅威度はレベル3。


 (やはりヴィクトリアの人間だったか…)


 丸腰の楓にリザードマン達は容赦無く襲いかかる。爪での攻撃を躱しつつ、蹴りを入れて何とか距離を保ち続けた。


 「へぇ〜。神器とやらを持ってない癖に、生身で戦えんのか」


 (不味いな…こいつらを倒す手段が無い)


 邪種を神器以外で倒すのは、ほぼ不可能と言っていい。このままでは体力を削られるだけ。だが、リザードマン達は突然、楓の前で斬り伏せられ姿を消した。


 「井上くん!大丈夫!?」


 「北条!」


 北条の右腕には薙刀なぎなたが握られている。あれが彼の純正神器。先程別れた北条は殺気に気づいていた。用事があるふりをして、自宅にある神器を取りに戻ったのだ。


 「どうしてこんな所に邪種が…」


 「北条、あの男から目を離すな」


 二人は目の前にいるフードの男を凝視する。


 「そいつは純正神器か?…一応試さなくちゃな」


 男は再び魔石を取り出し、邪種を呼び出す。そこから現れたのはいつものお馴染み、3体のオーガ達だ。


 「あれは…レベル5!?」


 楓は三度目の遭遇になるが、本来この国で脅威度レベル5のオーガを見ることはない。北条が驚くのも仕方のない事だった。


 「北条…大丈夫か!?」


 よく見ると北条は震えていた。授業以外で邪種と遭遇するのは先程のリザードマンが初めてで、その上オーガだ。無理もない。


 (北条を巻き込むわけには…)


 楓は一つひらめいた。


 「北条…その神器を俺に貸してくれ!」


 「な、何言ってるんだ?そんな事したって…」


 オーガ達が高速移動を始めた。時間はない。楓は目の前にいる北条の神器を、無理矢理の形で手から譲り受けると即座に起動させ―


 「ありがとな」


 そのまま薙刀でオーガ3体の首を撥ねた


 「どうして…僕の…北条家の雷切を」


 北条が目撃したのは、自分の家系でしか起動できないはずの神器が、楓の手によって力を発揮されている現実。更には、薙刀の刀身に今まで見たことのない、無数の赤い線が走っている。


 「…悪いが、詳しい話はあとでだ」


 楓はフードの男を見据え構えを取った。グレイドとは違う形状の武器なので少し不格好ではあるが。


 「お前達…神器をシェアしてんのか?血縁は…あるように見えないけど」


 「やかましいっ!」


 敵の言ってることは大体想像がついた。美男子の北条とそこそこの楓。比較するなんて月とスッポンだ。


 「仕方ねぇな…俺が直接やるか」


 フードの男がジャンパーを脱ぎ捨て姿を見せた。髪はオールバックでツヤツヤと光沢を放ち、目は鋭くつり上がっている。両目の横には涙マークの入れ墨があった。


 「俺はクロだ。井上くん。それから北条くんだっけ?」


 クロと名乗る男は、楓達の会話をしっかり聞いていた様子だ。それから錠剤を口に放ると歯で噛み砕いた。肉体が黒く染まり始め、目は血走り、爪も常人ならざるスピードで伸びていく。


 「なにあれ…」


 「あれは…邪徒か!北条下がってろ」


 クロが変化を終えると、黒い毛をした二足歩行のヒョウのような姿へと変貌を遂げていた。


 「俺の変身はかっけぇだろ?なぁ!」


 そう言い放ち、駆けだしたクロの速度はオーガ達、いや邪徒化したミドラとも比べ物にならない速度。そのまま目の前にいる楓を片手の爪で切りつけた。


 「ぐっ…」


 楓はなんとか反応し爪を神器で防ぐが、北条の雷切は楓のグレイドより身体能力への還元率が低く、反応速度の底上げにはあまり期待出来ない。


 「今のを防ぐとは流石純正神器の使い手だなぁ」


 「北条…この神器の能力は!?」


 クロの爪を押し返しながら楓は叫ぶ。クロの力はそれ程でも無さそうだが、厄介なのはあの速度。今のままでは勝機はない。


 「雷切は…電撃だよ!切っ先から電撃を放つ」


 「それは…かっけぇな…」


 雷で戦うというのは男の浪漫ロマンだ。楓は例にも漏れず気分が向上した。

 

 「へぇ〜。じゃあその神器の電撃と、俺の脚…どっちが速いか勝負するか!」


 「何言ってんだあいつ…イかれてる」


 クロは楓の周りを自慢の脚で駆け回り始めた。既に目視出来ぬほどの速さだ。楓は可能な限り身体能力向上の恩恵を受ける為、雷切に力を注ぎ込んだ。


 「ここ…だ!」


 気配を察知し雷切を前方へと突き出すと、赤いいかずちが放たれた。それをクロは猫が驚いたときのように跳びはね、華麗に躱す。



 「ハズレ〜」


 「くそ!なんだよあいつ…ムカつくな!」


 「井上くん…冷静に」


 再びクロが駆け回り始める。しかし—


 (なんだ…意識が…)


 戦いの途中にも関わらず、楓は両のまぶたにただならぬ重量を感じ始めた。


 「俺の勝ち!」


 そんな矢先、クロは駆ける方向を変え、楓へと襲いかかる。だが、爪が獲物を捕らえることは無かった。



 「…魔族?また物騒な状況だな」






—アレス様


 (なんだよ。また寝たのか?って事は今の俺は)


—アレス様。時間です


 「ああ」


 (俺じゃない…俺は返事をしていないぞ?)


 楓が視界を取り戻すと、目の前には知ってる大男の姿。そして—


 (アンディ…?なんだ…?)


 建物のベランダを見下ろすと、大勢の鎧を着た兵士がこちらへ手を上げ雄叫びを上げている。そして兵士だけではなく一般人と思われる人間も多数。


 「アンディ。行こうぜ」


 「は!」


 (身体も言葉も俺の意思じゃない…まさか)



 楓は三度目の夢の世界に迷い込んだ

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