ep.5 助ける
あれから1週間。特に変わったことは無かった。期末テストが近いので勉強に追われてはいるが、それ以外は平和な毎日だ。
(瞬来ないかなー)
昼休み、あれから楓は親友がこちらの校舎へ訪れるのを期待し、食堂付近を彷徨くようになっていた。まるでストーカーか恋する乙女のようだ。そうゆう趣味は無いし、自分のクラスに友達が居ない訳でも無い。ただ、近々実戦演習があると聞いていたのでここ数日心配していただけだ。そして今日の夕方に行ってしまう。
神器科の生徒達は基本的には寮生活だ。それも隔離に近い環境で過ごしている。携帯電話などでのやり取りは制限されているし、長期休みも無いので会うことは非常に難しい。
「今日も居ないかぁー」
実戦演習で生徒から死者が出た例は聞いたことがない。演習は比較的脅威度の低い邪種しか出ないエリアで行われるし、実力のある教師も数人同行するらしい。
「誰を探してんだ?」
顔を上げると瞬がいた。なんて間のいい奴。人を小馬鹿にするような態度で、こちらがわざわざ説明しなくても心情を察しているようだ。
「今日、初陣だろ?お前は大丈夫だろうけど一応顔だけは見ておきたくてな」
(言葉にしてから気づいたが、これじゃ死亡フラグじゃないか。そもそも心配するだけでもフラグになる気がする)
「死なないさ。家族が俺の帰りを待ってんだ」
死亡フラグで切り返してきた瞬に、なんだか感心してしまった。本当に何かあったら洒落にならないが
「なんだか本当に心配になってきたな」
「おいおい。辞めてくれ」
この後実戦だというのに瞬はとてもリラックスしているようだ。邪種と戦うのは初めてだろうに、恐怖は無いのだろうか。深く聞いて不安にさせたくはないので口には出さない。
「そうだ!ほれ」
瞬が鞄から何かを取り出した。迷彩色のハンドガンのような形をした複製神器だ。当然生徒が気軽に持ち歩いていい代物ではないだろう。
「はぁ!お前これなんで!?」
「ちょっ。声でかいって」
驚いて大きな声を出した楓を瞬は慌ててなだめる。これだけ焦ってるということは楓の予報通り駄目なことなのだろう。2人はそそくさと人気の無い場所へ移動した。
「今日支給された俺用の神器なんだ。どうしてもお前に見せたくてな」
「バレたら停学もんだろ。バカ」
自分の為に変なリスクを負うのは辞めて欲しいと、楓は心底怒っていた。
「うわっ。本当に危ないって!」
瞬が神器を投げ渡してきた。見た目以上にズッシリとした重さを感じた。自宅にあるものを除くと神器を触ったのも間近で観察するのも初めてだった。
「かっこいいだろ。デザインも俺が考えたんだぜ」
瞬が得意げな顔をして楓の反応を伺っている。
「デザインまで自分で決めれるのかー。かっこいいけど、神器って言うより兵器だな」
先程のまでの怒りも忘れ、神器を観察する。神と名がつくくらいだからもっと神聖な物なイメージがあった。
「神器も兵器だろ。まぁ、純正神器は無理らしいけど、複製神器は結構自由にカスタマイズ出来るぞ」
「へぇー!」
武器というものは男心を擽る。楓も戦うこと自体に興味は無いが、こうゆうものは大好物だ。例に漏れず興奮を抑えきれなかった。
「これの使い方って見た目通り銃みたいにー」
銃のように弾を放って戦うのか。何となく浮かんだ疑問を楓が投げかけようとしたその時-
『小林ー!そこでなにをしてる!早く戻れ!』
楓と瞬は肩を跳ね上げた。神器科の教師が校舎の窓から大声で注意してきたのだ。楓は咄嗟に制服の中に神器を隠した。
『走れ!』
「はい!」
神器を返す前に瞬は走って行ってしまった。非常に不味い。夕方から実戦演習があるというのに、持ち出したのもアウトだし、失くしたと言い訳しても当然許されないだろう。
(あのバカ。とりあえずあいつが学校を出るまでにはどうにかしないと)
親友が入学以来最大ピンチを迎えているのだ。何としてでも救わなければ。とりあえず授業が始まってしまうので、楓も自分の教室へ走った。
色々、タイミングを伺ってはいたものの結局放課後になってしまった。クラスの友達に確認したところ、実戦演習はバスで向かうようだ。神器科は2クラスに分れ30人ずつで構成されている。少し厳しいが教師達の隙をうかがって60人の中に紛れながら瞬に接触するしかない。
(バレたら終わり。バレたら終わり)
普段は楽観的な楓も流石に震えていた。親友の人生がかかっているのだ。もし神器の無断持ち出しが発覚したら⋯停学で済めば良いが退学だってあり得る。
(とりあえず外で待機しておくか⋯)
「井上くん。もう神器科出発するみたいだよ」
「は?」
クラスの友人からとんでもない情報が舞い込んできた。楓が窓の方へ走り身を乗り出すとバスに乗り込む神器科の生徒達の姿が見えた。
「えええ!」
走った。全力で。それでも間に合わなかった。校舎の外へたどり着く頃には煙を上げ小さくなっていくバスの後ろ姿が見えた。もう走っても自転車でも追いつかない
「⋯電車だ。電車ならまだ間に合う。家の財布から電車代だけとって〜」
ぶつぶつと呟きながら自転車に乗りペダルを回し始めた。まだ騒ぎになってないところを見るに瞬が神器を持ち出した事はバレてないのだろう。それでもいずれはバレるだろうし、そもそも丸腰で向っているのも事実だ。
「瞬ー!待ってろよー!」
思考が纏まり自転車のペダルを全力で回した。クラスの神器オタクに実戦演習が行われる場所を教えてもらっていたのは幸いだった。家に帰る時間を考慮しなければ先回り出来たかも知れないがそれは諦める。
〜
「小林くんどうしたの?もしかして緊張してるんだー!」
「ん?まぁ、初めての実戦だし緊張くらいするよ」
バスの中でクラスの女子に話しかけられた瞬は自分が動揺を隠せてない事に気づき反省した。今から手ぶらで実戦に向かうのだ。普通に考えれば先生に正直に話すのが良いだろう。停学や退学を気にするより命のほうが大事に決まってる。ただ、楓を巻き込む可能性を考えるので言い出せなかった。
「瞬ー。いつもの自信はどうしたんだ?」
「心配すんなって。どうせたいしたことないよ」
神器科の皆がフォローするように声をかけてくれるが、そうじゃない。隠し続けたところで邪種を目の前にした時、神器を出さなかったらどうせバレる。
「皆のお陰で緊張もほぐれたよ。ありがとう」
神器を紛失したことにするのも不味い。複製神器でも国の宝な事には変わらない。大騒ぎになるだろうし最悪の場合、楓も瞬も退学どころじゃ済まなくなるかもしれない。
(悪あがきでもギリギリまで隠すしかないな)
瞬は窓の外へ視線を移し遠い目で景色を見据えた。
〜
家に着いた楓は財布へ手を伸ばし札を何枚か抜き取った。そのまま玄関へ走り出そうとしたが、これから何処へ向かうのかを考えると手ぶらで行くのは不味い気がした。当然鞄の中にある複製神器は瞬の専用なので自分には使えない。
(気休めだけど、お守りにくらいにはなるか)
部屋に隠してある神器かもしれない灰色の物体も念の為持っていくことにした。当然神器として扱う事は出来ないが、木刀などよりは頑丈そうだし相手に思いっきりぶつけるくらいは出来るだろう。
(あまり考えてる時間は無い。急いで駅に行かないと)




