ep.55 魔族
修行場所はというと、ミアの家…廃墟があったあの森だ。人気も無く運動するには最適な場所だったので、あれから勝手に利用させてもらっていた。
楓はカリサから借り受けた神器を両の拳へ装着し始めた。特注で作って貰ったベルトにより、グレイドは背中で固定されている。
「本当に上手くいくのか?」
「わかんないけど。まぁ、やるだけやれね」
倒れた木を椅子代わりにし腰掛けるカリサを横目に、楓は神器の起動を行う為の集中状態へ移行する。すると、右手の甲から光が放たれると同時に、拳に装着されたグラムドに赤い無数の線が血管のように走り出し…
「起動出来ちゃったよ…」
「ゲゲっ!カリサ先輩から聞いたときは信じられなかったっスけど、本当に起動できてるっスね」
万が一の為に、側で控えていたエイタンもその様子に驚きを隠しきれなかった。
「それで身体に異常は無いの?意識は?」
「特に問題は無さそうだが…あれ?」
楓が身体を見回すようにチェックしていると、背中にあるグレイドまでもが起動されていることに気がついた。
「手に持ってなくても反応するのか」
「次はこれね」
カリサから手渡されたのは二本のナイフの形をした、純正神器べガルダ。これが起動できれば、楓の【全ての神器を起動させる能力】は確固たるものだと言えるだろう。
楓はグラムドを拳から外し、べガルダを両手に持つと、やはり同じ現象が起きた。二本の刀身には血管のように赤い光が張り巡らされ、起動している。
「…起動できてるわね」
「…信じられんっス。これならアタシのクリセイオーだって…」
「能力を使ってみて。あの木を的にして」
「能力ったって…グレイドですら使えないのに」
楓はカリサの戦闘を思い起こす。風の刃を操り、前方の敵へ斬撃を放つべガルダの力。
「ふん!」
楓はグレイドのエアブレイクの容量で刃を振るうと、風の刃が発生し、的にしていた木は容易く両断され、その場に倒れた。
「出来ちゃったよ…」
「どうやら能力まで使えるようね」
「はい!はい!次はアタシのもっス!」
「エイタンのクリセイオーの能力は、私のべガルダと違って複雑だからカエデには厳しいと思うわ」
〜
カリサの言う通りクリセイオーの能力は深い理解が必要なようで、起動はできるものの楓が上手く扱うことは出来なかった。その後、散々二人の神器を試用させてもらい今は休憩中だ。
「お疲れ様。意識は大丈夫そう?眠気とか」
「うーん。特には無いかな」
「無いならそれが一番だけどね」
楓のもう一人の人格、恐らくアレス。については姿を現す気配は無かった。それでも他人の神器を起動させることが彼を呼び出す条件では無かったと、一つの答えが出せたのは収穫と言えるだろう。
「エイタンは?」
「ラグナから呼び出されたって」
「ふーん。二人はいつまでこの街に居るんだ?」
「なんとも言えないわね。ヴィクトリアの狙いが判明するまでは離れられないとは思う」
ゴウラ、そしてミドラ達の襲撃。彼等の目的はよくわかっていない。とはいえザイラスと呼ばれた魔族の召喚さえ無ければ、ラグナ達だけで対応可能。と言えるだろう。
「またあんなのを召喚されたらたまったもんじゃないな。それに純正神器の能力を阻害するアイテムも厄介だ」
「ええ。でも今回の一件で組織の上層部では対応策を練られている筈よ。サンプルも手に入ったし」
「イタチごっこにならなきゃいいけど」
楓は、ふとザイラスが召喚された際、ミドラが口にした言葉を思い起こした。
「なぁ。あの時…ヴィクトリアの奴がザイラスを、1000年前この世に存在していた本物の魔族。って言ってたけど何のことかわかるか?」
「魔族…ね。私が幼い頃、組織の上官…育ての親のような人から聞かされた話だけど。遠い昔、邪種の元になった化け物がいたそうよ。それが魔族」
「昔って…邪種が現れ始めたのは120年前だよな?」
「ええ。だからそれよりもっと昔。魔王って存在がいて、手下である魔族を送り出し、世界中を支配していたって。まぁ、おとぎ話みたいなものね」
「それから世界はどうなったんだ?」
「女神の加護を宿した一人の勇者が立ち上がり、魔王をやっつけて世界に平和が訪れたとさ。めでたしめでたし」
「まるっきりゲームだな」
「ええ。でも火のない所に煙は立たない。世にある神話も、全てがただの作り話な訳ではない。上官の口癖だったわ」
現代に語り継がれている話は、どれも無から生み出された訳ではなく、元ネタがある。とその上官は言いたいのだろうと楓は推測した。
「女神の加護か。そういや、夢で女神に会ったな」
「へぇ〜。それじゃ聞かせもらえる?」
「聞かせろったって。あの時の…二回目の夢は恐らく半年くらいかかってるからな」
「はぁ!?夢で半年ってどうゆうことなの?」
「仲間達と旅をして…辿り着いた先の神殿にいたのが女神。純白のドレスを着た、髪も肌も白い女性だった」
楓の言葉を聞き、カリサは手を顎に当て何やら考える素振りを見せた。
「女神…現代では色んな名の女神が語り継がれているけど、私達オーフィス騎士団が信仰している女神に名前はない…」
「名前がないと他と区別が難しくないか?」
「組織の中で“女神”と言われたら他は無いわ。邪種に対抗する武器を世界に広めた女神。いわゆる神器の始祖となった女性ね」
「俺、宗教とか興味ないけど大丈夫かな?」
「信仰って言っても、皆特別に崇めたりはしていないわ。シンボルとして認識しているって感じね」
「案外適当なんだな」
「世界を邪種から守れたらそれでいいのよ。女神についての言い伝えや情報も殆ど残ってないし」
「ってことは、多少残ってるのもあるのか?」
「有名なのは手紙の噂ね」
「手紙?」
「かなり貴重な物だから、ボスが個人で保管してるらしいの」
「そうか…女神が書いた手紙だなんて、実在するならとんでもない価値になるだろうな」
「信じて貰えたら。だけどね」




