ep.48 本物
「なぁ、アレス。お前の強さはどこから来てるんだ?」
―本当にわからないんだ。アレスの強さの理由も、どんな人物なのかも
「でも、なんか違和感あんだよなぁ。敵を前にした時だけ別人みたいになるだろ?」
―それは俺のせいです…すみません
「グレア?あいつも子供じゃないんだから少しは女の子らしくしたらいいのに…」
―あれ?レトってもしかしてグレアのこと…
「お、おい。アレス!なんだそのニヤケ面は…!?」
…
〜
「あ、つい余計な事まで思い出してた…」
ミドラは目の前にいる少年の実力を測りかねていた。油断ならないと見て、胸の衣嚢から錠剤を取り出し、口に放り込むと歯で噛み砕いた。
「ガキが…すぐに殺してやる」
砕かれた錠剤が喉を通過すると、ミドラの肉体が膨張していき肌の色も黒く染まっていく。
(あれは…ゴウラの時と同じ。邪徒ってやつか!?)
あの時のゴウラとの戦い。楓はすぐに気絶してしまって、邪徒の戦いや実力は見ていない。だが、カリサが成す術も無く敗北したというのは知っている
(アレス。都合のいい時だけごめん。今は…俺に力を貸してくれ)
―俺様を呼んだか?
身体と脳を隔てるように意識を切り離す
「すぐに終わらせる。神器だけ手に入りゃいいからな」
ミドラの変化が終わると、その姿は化け物へと変貌を遂げていた。側頭部から角が生え、顔は原形を留めていないが、首から下は巨大な人間。まるで神話のミノタウロス。森で見たオーガや、ゴウラの邪徒化より禍々しい姿。
ミドラは前傾姿勢を取ると、脚部に力を込め一気に前進した。その速度は身体能力を向上させた咲の突きより速く、威力は掠りでもすれば致命傷になりかねない。
「遅せぇ」
しかし、楓に衝突したミドラの右腕は撥ね飛ばされていた。切り口から多量の血が噴き出す後、地面へと滴り落ちる。
「どうやらただのガキじゃねぇな」
ミドラは即座に切られた部分を再生させると、腕の皮膚を幾枚もの鎧のように硬質化させ始めた。
〜
「カリサ先輩!カエデさんは本当に大丈夫っスかね!?」
「エイタン今は前の敵に集中して!」
対峙しているのは、二足歩行のトカゲのような姿の邪徒が一人と、邪種を操る小さな少女。実力差を踏まえ、エイタンが前線に、カリサは後方から援護に回っていた。
「流石はロイヤルの一桁副隊長です」
「なにより途中から出てきたカスがうぜぇな。ハーリィ。頼めるか?」
「わかったです」
ハーリィが小さな宝石を砕くと、地面から石のような肉体をした巨大な人形が召喚される。
「ゴーレム。後ろの女をこーげきするです」
「させねぇっスよ!」
ゴーレム達がカリサの元へ駆け出すが、エイタンが神器の能力を起動させ‐
「くっ!さっきからなんスかこれ」
「これが純正神器への対抗手段…憎魔の肉塊だ」
エトの手に握られていたのは、ウネウネと動く紫色の物体。心臓のように鼓動を打ってるようにも見える。
(あれが神器の能力を阻害するアイテムっスか?カリサ先輩のべガルダは問題なく使えてるッスから、効果範囲は狭そうっスね)
だが、エトはエイタンとの距離を保ち続けている為、中々引き離すことが出来ない。
「いくら副隊長とはいえ、能力無しで俺達に勝つなんて無理だな」
カリサが間合いに入ったゴーレムの迎撃を試みるが、べガルダの風の刃が発動しなくなっていた。
「なによ…これ!」
「肉塊はそのゴーレムにも組み込まれてるです」
「今の研究だとその特殊能力だけだが、そのうち神器の力の還元も打ち砕くものが作られるだろう」
「ッ!」
エイタンは戦慄した。ヴィクトリアは滅多に表舞台に姿を現さない。しかし、ただ隠れていた訳ではなく、裏で着実に準備を進めていたのだと。
「…生かしておけねーっスね。」
クリセイオーに力を注ぎ込み、敵へと振るう。だが、邪徒化したエトにはなんなく防がれてしまう。
「どうした?その程度か?」
エトがクリセイオーの刀身を掴んだまま、拳を振り上げた。
「くそっ!」
だが、拳が振るわれる前に、エトの腕は切断された。
「よぉ。ヴィクトリア共、死ぬ準備はいいか?」
「ラグナ先輩!」
「ラグナ…?お前はギルとバルドロが相手してたはずじゃ…」
「はっ!あんな奴らが僕の相手になるかよ」
ラグナは楓との手合わせの後、自身の戦い方を徹底的に見直していた。能力に頼らない彼なりのやり方。それをこの短期間の内にやってしまうのだから、彼は天才なのだろう。
不敵に笑うラグナ…すると、轟音と激しい揺れが起き、控室の方から煙が上がった。そこから飛び出してきたのは、ミノタウロスのような化け物と楓だ。
「チーフ!」
角は片方折れ、身体の至る所に斬撃による深い傷が出来ている。ミドラがあそこまで追い込まれている光景など、エトのこれまでの記憶にはない。エイタンとの距離を離し、慌ててミドラへと駆け寄った。
「チーフ、ご無事ですか!?」
「ああ。だがあのガキ、能力も使わず俺とやり合いやがる…」
「そんな…」
当然、ミドラも憎悪の肉塊を携帯している。それでも圧されるということは、純粋に相手の戦力が上だということ。身体能力の向上のみでは、邪徒化した者に対抗出来るはずがない。それがミドラ相手であれば尚更。
―おい!今ので決めろよ
「うるさいなぁ」
楓は先程から聞こえる声と会話していた。声の主はアドバイスをくれる事もあれば、今のように耳の痛い小言を投げつけられる事もある。
「もっとこう…具体的に意見をくれると」
―仕方ねぇだろ。こっちからじゃ見えねんだ。伝わってくる感覚に頼るしかねぇからな
「なるほど…目では見えてないと。なぁ…お前は誰なんだ?」
―俺様か?強くなったら教えてやるよ。カエデ
その正体は何となく予想がついているが、今は敵に集中だ。
「ハーリィ!邪種を増やせ」
「了解です。十体ほど増やすです!」
ハーリィがバッグから宝石を取り出し、地面へと叩きつけた。が―
「ハーリィ…それは…」
「あ、間違った…です」
地面に叩きつけられた宝石は、今までの小さなものでは無く、クイーンから渡された特別製の魔石。砕かれた破片から紫色の霧が立ち上がり辺りを覆い尽くす。
「なんスか…あれ?」
「ええ、見たことないわ。あんなの…」
ゴーレム達を下したエイタンとカリサは、召喚された存在が放つオーラに気圧されていた。
「まぁいい。この国は終わりだ…あれは邪種などといった紛い物では無い。1000年前この世に存在していた、本物の魔族…」
〜
「ミア様…この気配は!」
「…魔将?」




