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君が選ぶのは  作者: ぬしぽん
第一章
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ep.4 廃墟再び

 放課後、楓は少女の家に行く前に一度帰宅した。流石に砂まみれの身体とボロボロの服のまま行く訳には行かない。


 シャワーを浴び自分の部屋へ戻ると、机の下に隠されたスイッチに手を伸ばし独特なリズムで数回押した。父が生前に教えてくれた、今では自分だけが知ってるこの部屋のギミックだ。壁の一部が回転し現れたのは、剣の形をしている灰色の物体だった。何も知らない人が見ると子供の玩具やガラクタかと思うだろう。


 「俺に適正は無いし、国に渡したほうが絶対良いだろうけど。一応形見だからな」


 父親も祖父もこれに適正があった訳では無い。が、先祖代々受け継がれてきた神器らしい。誰も使えなかったのであればそもそも神器では無いのでは?なんて思ってはいるが本物だったら一大事だ。国の研究機関に見てもらおうにも個人が気軽に所持して良いものでは当然無いし、使えないのであれば剥奪される可能性も高い。純正の神器はそれほど貴重な物で国にとっての宝なのだ。それに知れ渡ってしまうと売買目的の犯罪者達に命を狙われ続ける事だってある。適正者であれば返り討ちに出来るだろうが、所持してるだけの一般人には危険すぎる。


 過去に妹にも神器とは言わずこっそり試してもらったが、やはり適正は無かった。もし使えたのならこれ以上に無いプレゼントになっただろうに。


 神器の適正は絶対では無いが遺伝する場合が多い。純正の神器に適応した者は名門一族として社会的地位を築き、その純正神器を代々独占し続け莫大な富を築いている。要は生まれながらの勝ち組だ。


 「よし。日が暮れる前に行くかー」

 

 気合を1つ入れると神器かもしれない物体を元の位置に戻した。


 今さらだがあの状態で寝てたベッドは大丈夫なのだろうか。部屋も汚してしまっただろうし。少女の親が出てきて怒られるのではないかと急に心配になってきた。


 (インスタントコーヒーでも買っていくか)


 少しでも許して貰えるよう気持ち程度の手土産と、新しい自転車を途中のお店で買うことにした。一番安いママチャリならおばちゃんから貰った小遣いで買えるだろう。



 少女の家の前に到着し玄関の前に立った。見渡してもドア付近にチャイムのボタンは見つからない。


 「すみませーん!」


 大きな声を出しノックをしても反応が無い。仕方なく庭の方へ迂回するとリビングの窓を見つけた。室内を覗いてみると窓際の椅子に腰掛ける少女の姿が見えた。


 「スマホ忘れちゃって。キッチンにありませんか?」


 窓を軽く叩きながら声をかけたが、少女は一切反応しない。大きな身振り手振りでアピールはしたが、視線すらこちらに向けないのだ。玄関に戻りドアノブに指をかけると鍵が閉まってない事に気づいた。


 (勝手に入るのは不味いかな?でもスマホが無いと)


 「鍵空いてますよー!スマホ取ったらすぐ帰るので入ってもいいですかー?」


 返事も無いし、こちらに来る様子も無い。


 「入りますよー!」


 しびれを切らし玄関のドアを開け家の中に入った。朝と変わらない廊下はよくある普通の家と同じだ。そしてリビングのドアをノックし数秒待ってからゆっくりと開いた。勿論声もかけながら。


 「失礼しまーす…」


 少女からやはり反応は無い。身動き1つというかこちらを見ようともしない。もしかすると朝からずっとあの体勢のままなのだろうか。


 「あのー。俺のスマホ知りません?」


 やはり微動だにしない。なんだか怖い。そう思いつつも、ふとテーブルの上を見た。中身を飲み干されたカップがそのまま置いてある。


 「またコーヒー作りましょうか?」


 少女がこちらを向いた。余程コーヒーが好きなのだろうか。それとも日本語がわからない外国人でコーヒーという単語しか伝わってない可能性もある。


 楓はティーカップを下げキッチンで丁寧に洗うと、手慣れた手つきでコーヒーを作り、朝と同じように提供した。少女が一口飲んだ時僅かに表情が歪んだ事に気づいた。


 「ブラック飲めます?甘いのもありますよ」


 一応インスタントコーヒーの他にスティックシュガーとミルクも手土産として持ってきた。少女から特に反応は無かったので、コーヒーをもう一つ作り差し出した。少女がミルクと砂糖入りのコーヒーに口をつけると、元の飲んでいたコーヒーは無言で楓の前に差し出された。


 (やっぱりブラックは飲めなかったか)


 勿体ないのでテーブルを挟んだ正面の椅子に座り、少女と一緒にコーヒーを飲むことにした。



 十分程経っただろうか。時間を忘れ静かな時間を過ごしていると、突然玄関のドアをノックする音が室内に響き渡った。


 「あのー。お客さんが来たみたいですけど」


 少女はやはり無反応だ。気になって仕方がないので自分が出ることにした。急いで玄関まで向かい恐る恐るドアを開けると20代後半くらいだろうか。黒髪の綺麗な女性が優しい笑みを向けながら正面に立っていた。


 「こんにちは」


 女性は礼儀正しく挨拶をしてきた。声色やその自然な対応から警戒心や敵意などは微塵も感じられない。


 「あ、こんにちは。ご要件は?」


 どう対応していいかわからないが、怪しい人では無さそうだし楓も丁寧に返した。自分も客人ではあるのだが。


 「知り合いが居るかもしれなくて。中に入っても?」


 女性は少し考え、困ったような顔をしながらそう答えた。知り合いがいるかも。という言い回しが引っかかる。家には少女しか居ないが、知り合い。と呼んでるところや年齢的にも友達という訳ではなさそうだ。


 「あぁ。俺、この家の人間じゃないのでなんとも」


 今さらだが自分の行動に違和感を覚えた。どうして部外者が来客の対応をしているのだろうか。


 「ではこの家の人をご紹介頂けますか?」


 女性からの提案は納得の行くものではあった。少女を直接玄関に呼ぶのが最善なのは当然のことだ。しかし彼女がこちらに来る気配は一切無い。こうなったら女性を少女の元へ連れていこう。


 「ではご案内します」


 (相手は女性だし何かあってもパワーで解決出来るだろう。これでも毎日筋トレはしてる)


 楓は深く考えるのが面倒になり、得意のお気楽思考モードに切り替えた。元から鍵は空いていたし、セキュリティなんて無いようなものだ。通しても通さなくても変わらない気がする。


 女性をリビングまで案内すると、今までコーヒー以外には無反応だった少女がこちらに視線を向けた。


 「グレア・モルペンデル?」


 少女の声を初めて聞いた。どうやら知り合いのようだ。追い返したりしなくてよかった。と安堵した。それよりも

 

 (お前喋れるのかよ)


 今日何度も話しかけたが一切反応が無かった。喋れないのかもとか色々気を遣っていたのに単純に無視されてたという事実に心が痛む。


 「ミア様。ご無事だったのですね」


 連れてきた女性が言葉を発した途端、片膝をつき号泣し始めた。とてもツッコミを入れれる空気では無い。


 (これどうゆう状況なの?)


 楓は思考をこねくりまわした。とりあえず少女はミア様と呼ばれていて、この女性とは知り合いらしい。敬称をつけられているので少女は実は偉い人なのかもしれない。


 「あ、俺スマホ取りに来たんだった!こんな形の。知らない?」


 理解できない状況で頭が真っ白になり、寧ろ冷静になれた。スマホはキッチンには無かった。もしこの家に無ければとんだ無駄足だ。


 少女が何処からかスマホを取り出しテーブルの上に置いた。間違いなく俺のスマホだ。なんで先に出してくれなかったの?


 「それそれ!ありがとう。じゃ、目的も済んだから帰るわ」


 文句の1つでも言いたいところだがこの状況から逃げたい一心で手を伸ばした。忘れ物さえ回収できればもう関わることもない。が、少し焦りすぎたせいで勢い余りスマホを持つ少女の指に触れてしまった。


 「ッてぇ」


 強烈な雷に撃たれたような衝撃が楓の右腕全体に走った。ライトを眼球に直接当てられた後のように視界もチカチカと点滅していたが、それもほんの数秒で特に身体に異常は感じられなった。恐らくただの強めな静電気だろう。


 「ごめん。大丈夫か?」


 少女は驚いたように目を見開いていたが、どうやら平気そうだ。無事も確認できたことだし急いで玄関を飛び出した。




 「ちょっと。待ち」


 グレアが青年を呼び止めようとするのをミアが手の動き一つで制止した。


 「ミア様。あれはまさか…」


 ありえない事ではあるが、絶対では無い。もしもの場合は青年を隔離、最悪の場合は命を奪う必要性すら考慮しなければならないとグレアは焦る。


 「大丈夫だ。心配はいらない。と思う…」


 ミアは無表情のまま淡々と答えたがティーカップへ伸ばした指は小刻みに震えていて、明らかに動揺しているのがわかった。グレアも何かを察しそれ以上の追及はしなかった。


 「何故今までお姿を隠されていたのですか?」


 話題を変えた。先程の青年の事も気になるが、そもそも聞きたいことが多すぎる。勿論ミアが無事だっただけでも充分だが聞けるのであれば全て聞いておきたい。


 「隠れていた訳では無い。女神によって眠らされていたのだ。つい先程目を覚ました」


 グレアは驚愕の表情を浮かべ口を手で覆った。驚くのも無理はない。何故なら


 「そんな…では700年もの間眠り続けていたと!?」


 ミアは700年前の戦いの後、忽然と姿を消したのだ。仲間達は総動員で世界中探し回ったがその痕跡すら見つからなかった。この数百年の間に殆どの者が捜索を諦め、それぞれの道を歩み出した。


 「700年…」


 想像を絶する年月の経過に流石のミアも言葉を失っていた。お互いに聞きたいことが多すぎた。何から話すべきだろうか。両者沈黙の時間が続いた。


 「目を覚ましたのに女神からの接触は一切無い。信仰は?世界は今どうなっている?」


 一先ずミアはグレアに座るよう促しこれまでの世界の動きを聞くことにした。

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