ep.44 懸念
中学神器科。一月中旬で冬休みも既に終わっており、寮生活に逆戻りだ。しかし、今日は祝日。この日の予定は毎年決まっている。皆で食堂に集まり、大きなテレビで神器トーナメントの観戦。
「あの人、井上って…栞のお兄ちゃんだよね?普通科って言ってなかった?」
「どうして…どうしてお兄ちゃんが出てるの!?」
第一回戦。栞は画面越しに、信じられない光景を目の当たりにした。喧嘩もできないどころか、神器の適正はない筈の兄が出場しているのだ。
試合が始まると、あろうことか勝利まで収めてしまった。それも一撃…いや一瞬で。
「栞のお兄ちゃん…普通科だよね?…どうなってるの?」
「私も…意味わかんないよ…」
〜
楓が試合を終え控室に戻ると、先程までとは選手達からの視線が変わっている事に気がついた。敵意丸出しの殺気立った視線では無く、用心深く警戒するような目だ。
(油断を誘うためにも、すぐに決着つけたのはマズかったかな…)
楓はロイヤルの面々と行動を共にし、経験の濃さでは一人前だが、普段から神器を学び、実習も熟している生徒達の専門性は侮れない。
考え事の最中、控室のモニター目をやると次の選手の試合模様が流されていた。
(こうしてみると皆強そうだな…あ、真城先輩だ)
もう一つのモニターでは別会場の試合が。そこに映るのは二回戦の相手、真城 咲が映し出される。
彼女の試合も勝負は一瞬。次の相手を意識しているのか、能力も使わず頭部への一撃で終わらせていた。控室の選手達から歓声が上がる
(あの人…本当に強いな。能力抜きにしても勝てるか怪しいぞ…)
「カエデ。ちょっと」
突然の呼びかけに反応すると、そこにいたのはカリサだった。彼女が選手の控室に入れるのは、ロイヤルの特権を使った為だろう。
カリサに連れられ控室を退室する途中、他の選手達からの舌打ちが聞こえた。寮生活の彼等にとって男女の関係は難しい。誤解ではあるが嫉妬しているのだろう。
「カリサ。こんなとこまで来て…何かあったか?」
「次の相手…真城 咲についてだけど」
彼女はなにか助言しに来たのだろう。確かに他の選手達と違い、普通科の楓は相手の情報を知らない。
「いや、いいよ。俺は実力で勝ちたいから」
しかし、それは他の選手達も同じ。相手も自分の事は知らないのだ。
「はぁ?何か勘違いして…」
「気持ちだけ受け取っておくよ。じゃあな!」
カリサの言葉を遮り楓は控室に戻る。
「どうしよう…もう充分って伝えに来たのに…次の試合、もしカエデが勝ったら面倒なことになるわね」
二回戦で真城 咲と対戦する事になるのは誤算だった。勿論、楓がこの日の為に頑張ってきたのは知っているので、出来ることなら行けるところまでは勝たせてあげたい。だが、組織の本来の目的であれば先程の試合のみでも充分なのだ。
―真城 咲は前年、一年生ながらトーナメントの優勝者。生まれてからこれまで敗北というものを知らない。
「ま、まぁ…流石に楓でもまだ勝てないでしょ!」
湧き上がる不安を振り払い、カリサは会場へと戻る。真城 咲の持つ神器【スサノオ】は、組織からも恐れられる異質な能力を宿している。いくら強くなったとはいえ、楓が勝つのは厳しいだろう。
「真城 咲…あの子は以前から“自分を負かせた男と結婚する”って宣ってるらしいけど…大丈夫よね?」




