ep.39 お買い物
「カエデ。これあげる」
「え、何これ」
ある日の朝、カリサからバッチのような物を手渡された。全体は銀色で、そこに赤や青などの小さな宝石が装飾されており、中心には自らの尾に噛みつく蛇の姿が描かれている。
「このバッチはオーフィス騎士団 調査隊員の証よ」
「…はい?」
カリサが上着の内側を開くと、そこには同じバッチがつけられていた。楓の胸中は嫌な予感で埋め尽くされる。
「ちょっと待て…どうゆう事だ?」
「あ、でもカエデは仮隊員だから、まだ身に着けちゃ駄目よ。失くさないように保管してなさい」
この時、楓は珍しくも勘が働いた。カリサ再びが碌でもない計画を立てていると。
「…とりあえず説明を」
「全校神器トーナメントって知ってる?」
「ああ。二週間後に行われる神器科の全国大会だろ?毎年テレビでやってる…」
楓の答えを聞き、カリサはニヤリとした表情を浮かべたのを見て、楓は何かを察した。
「おい、まさか…」
「私とエイタンで、カエデを組織に推薦したんだけど、その前に実績が欲しいって言われたのよ」
「ちょっと待てぃ!推薦ってなんだよ!また勝手な事を…」
推薦はカリサの嘘だった。楓が見せたラグナの神器を無効化した能力。組織の上役達は興味を持ったものの、少年は無所属で素性の知れぬ人物。
今回大会に出場させるのは、少年を一度公の場に出すことで、他に反応する組織や国がないか確認する為。言わば様子見だ
「決まったものは仕方ないじゃない♪」
「そもそも俺は普通科なんだぞ…出れるわけないだろ!いや…どうせロイヤルの権力でどうにかするんだろうな…」
「わかってきたわね。とりあえず一週間後に選考があるから、本戦に出れるように頑張って」
「はぁ。どうすんだよこれから…テレビに出たくねぇよ俺」
「眼鏡とか掛けてみる?」
〜
「…なぁ、妹よ。まだ終わらないのか?」
「次はあっちの店」
複合型施設のショッピングモールは年も明け、冬休みと言うこともありセールなどのイベントも盛んで、人で溢れ活気立っている。この日の楓は、妹の荷物持ちだ。
「服なんか買っても寮生活で殆ど制服だろ?まだ背は伸びるかもしれないし、金が勿体なくないか?」
「わかってないな。てかお兄ちゃんも少しくらい服買ったら?そんなんだからいつまで経っても彼女出来ないのだよ」
「やかましい」
楓もお洒落に興味がないわけでは無いが、日々の節約生活で財布の紐が固い。それに比べ栞の神器科では給料を貰いながら学校に通える。なので楓とは違い手持ちに余裕があるのだ。
「カリサさん…は釣り合わないか…誰かいい人いないの?」
「いい人か。最近女子とは…」
ふと、思い浮かぶのはいつも無表情のミア。そして、その保護者のグレアくらいか
(ミアか…カリサが釣り合わないならもっと無理だな。グレアさんも同じく…)
「あ、花子と寧々だ!」
栞が突然少し離れた場所にいる二人組に気づくと、大きく手を振り始めた。恐らく同じ歳くらいの女の子に見える。
「花子〜!寧々〜!」
「友達か?」
「うん。神器科で同じクラスなの」
「話してきたら?俺はその辺で時間潰してるから」
「ありがと!」
寮生活で家族より友達の方が一緒にいる時間が長いとはいえ、外出先で会うのとはまた違うだろう。楓は妹に気を遣って大荷物を持ちながらその場を後にした。
〜
「さっきのがお兄ちゃん?」
「そうだよ〜」
「流石に栞の兄なだけあってかっこよかったね」
「でしょでしょ!」
「やっぱり栞と同じでお兄ちゃんも強いのよね…?」
「まさか。お兄ちゃんに神器の適正は無いし、喧嘩もしたこと無いよ。私の足元にも及ばないんだから〜」
〜
独りぼっちになった楓は人混みに疲れ、カフェに入ることにした。店内で空いてる席を探していると、偶然にも友人の姿が。
「ミア?」
「カエデか。奇遇だな」
「ミアも買い物か?一人?」
「いや。グレアは用あって席を外している」
「なるほどな。他に席空いてなさそうだし、俺も座っていいか?」
「ああ。構わないとも」
ミアの席はソファが二つあり、スペースに余裕がある。奥に荷物も置かせてもらい、楓は彼女の正面の位置に座った。テーブルの上を見ると食べかけのパンケーキとコーヒーが二人分置いてある。
「カエデの分も頼もうか?」
「いや。俺はコーヒーだけで充分だよ」
「そうか」
「あら?カエデさん?」
楓が声の方へ目を向けるとグレアの姿があった。用を済ませ丁度戻ってきたというところか。
ミアが猫を呼ぶように自分の横を手でポンポンと叩くと、グレアは頭を下げそこへ座った。
(これじゃ三者面談だな。何を話せば…)
「カエデくん。何も食べないのですか?」
「あ、はい。妹と来てまして」
「カエデに妹が…そうか。今は一緒に居ないのか?」
「友達と話してるよ」
その時、楓は一つこれは言うべきかと悩み始めた。まだ乗り気では無いが、友達には話しておくべきだろう。
「そうだ。俺二週間後くらいにテレビに出るんだ」
「…」
覚悟を決めたカミングアウト。しかし、ミアからの反応は一切ない。
「テレビですか!それは凄いですね」
「グレア。テレビとは何の事だ?」
「確かにミア様のお家には置いておりませんね」
(ミア…今度はテレビも知らないのか…)
グレアがテレビについて説明を始めた。ミアは、そんなものが…等と相槌を打ちつつ素直に聞いている。
「カエデさん。二週間後、ということはもしかすると、神器トーナメントに出場するのですか?」
「あ、はい。出ます」
「でしたらテレビでなく、現地で観戦するという選択肢も取れますね。ミア様。いかがなさいますか?」
(現地観戦…当然のように言ってるけど…。これが金持ちか)
トーナメントのチケットは一年前から販売されており、当然、今から取れるはずはないのが普通だ。
「せっかくだ。テレビで見よう」
(なぜ…)
「ではこの後、ミア様に相応しいテレビを選びにいきましょう!」
「ありがとうグレア。カエデ、楽しみにしているぞ」
「…ああ。頑張るよ」
その後、妹からの連絡を受けミア達と別れた。




