ep.37 かくれんぼ
邪種包囲エリア32 通称 荒地の海
そこは楓の住む街から電車とバスを乗り継ぎ三時間程の場所。平均脅威度2〜3レベルの邪種が出没するホットゾーンの海岸。この国に現れる最大レベルが3までなのだから、聖隊の者でも余程の実力がなければ近づく事は出来ない。
「ここを特別に一時間だけ借りれたわ」
「お前等って何でもありだな…」
「カエデさん!もっと感謝して欲しいっスね」
カリサは組織を介して国の上層部に働きかけ、楓の修行の為にエリアの一部を貸し切った。五番隊 副隊長であるエイタンの同行が条件として提示されはしたが、最重要防衛エリアですら一言で借りられるのは、彼女等の組織くらいだろう。
危険区域なだけあって次々と邪種が出現する。見た目は二足歩行の蜥蜴や六本腕のゴリラのような化け物など様々。
「カエデさん実戦なのに落ち着いてるっスね。邪種とは戦い慣れてるんスか?」
「いえ…私が知る限りは無い筈だけど…」
楓はグレイドを起動させると、次々と邪種の首を刎ねていった。だが、その表情は冷静というより、何処かつまらなそうだ。
(カエデってあんなに強かったかしら?まだグレイドの身体能力向上すら使ってないみたいだし…)
楓はあの時の夢と同じ—敵を前にすると身体が勝手に動く感覚を体験していた。
「なんだこれ…」
敵の次の動き、弱点、こちらの攻撃が当たるタイミング。それらを何となく理解できる。
—気持ち悪い…これじゃまるで…
アレスじゃないか
〜
冬休みが近いせいかクラスメイト達は浮足立ち、休み時間の教室は賑やかだ。楓はというとそれとは反対に、机に突っ伏し体力を温存していた。
(あの夢から覚めて以来疲れてるな俺。せめて学校では—)
『—これから全校かくれんぼを開始します。10分後に鬼が放たれますので、生徒の皆さんは見つからない校内外の敷地全体を使ってへ各々隠れてください。なお神器科の校舎には立ち入り禁止です—』
「は!?」
楓はその突拍子の無い放送内容に驚き、顔を上げた。
その様子を見たクラスの友達が話しかけてくる
「カエデ知らなかったのか?一年に一回の全校かくれんぼ。ほれ、お前の分の引換券。見つかったら委員会の人に渡すんだぞ」
「知らねえよ!なんだ全校かくれんぼって…小学校じゃないんだから…」
「とにかく、最後まで見つからなかったら有名店の高級プリンアラモードが貰えるんだよ!」
「いや、別にいらないけど…」
「じゃ、俺は先に隠れてくるわ!」
友達が行ってしまった。景品にしてもイベントにしてもやる気が出ないので、気にせず眠りにつきたい—
「カエデ。少し聞きたい事がある」
「んぁ?ミアか…どうした?」
「プリンが貰えると聞いてな。何処に行けば良いのだ?」
—が。やる気はあっても何も知らない人間に阻止される
「…なぁミア。かくれんぼってわかるか?」
「先程の放送で言っていたな。もしかするとそのかくれんぼ。とやらが、プリンと関係しているのか?」
「…」
ミアはいつもと変わらない無表情だが、何故だか瞳の奥が輝いてるように見えた。余程プリンが好きなのだろうか…
「あーもう!わかった!行こうぜミア。上着も忘れんなよ」
「ああ。君に同行しよう」
〜
「カエデ。何故このような場所に?」
ここはかつて瞬の神器を見せてもらった校庭の陰だ。神器科の校舎の教室からは見られてしまう恐れがあるが、向こうはかくれんぼに参加しないようなので、最適と判断した。上着を着てるのも外で待機する為だ。
「ミア。かくれんぼっていうのはなー。隠れる側と見つける側に分かれて勝負すんの。んで時間まで見つからなかったたら今日はプリンが貰えるの」
「隠れる…そうか。それでここに」
「時間までゆっくりしてようぜ」
「ああ」
沈黙の時間が続く
(ミアを見ていると夢で出てきたグレアさんと同じ顔をしたグレアを思い出すな…)
何故だか彼女に会って確認してみたいと思ってしまう。しかし—
(好きでもない異性に、夢で貴方を見ました。なんて言われても、キモっ!て思われるだけだよな…)
「カエデ」
「ん?どうした?」
「いや、この頃の君は浮かない顔をしていると思ってな。何かあったか?」
「あ…ごめんな。話すような事でもないんだ」
「そうか…修行の方は順調か?」
—修行。順調といえば順調だが…
「最近俺が俺じゃないみたいなんだ。なんというか勝手に強くなってしまうというか…」
「勝手に?そんな事は無いだろうに。直接見てはいなくとも、君がいかに努力しているかを私は知っている。憂う事は無いさ」
—そうじゃないんだ。ミア。
「カエデ。君は何処まで強くなりたいのだ?」
「何処まで…そういや、考えたこと無かったな」
楓はゆっくりと目を閉じ、自身の心に問いかける
—せめて自分の手の届く範囲の人間は
—信念を
—お前は世界を救ってくれよな
「…やっぱりわかんねぇや」
「そんなものだ。一人で出来る事など知れている。何かあれば私も協力しよう」
「その前にミアは自転車をだな」
ミアは相変わらず自転車に乗れない。あれからもう一度教えてはみたが、全く乗れる気配は無かった。今はグレアさんとも練習をしているらしい。
「自転車か…最近グレアが補助輪なるものを—」
「しっ!誰か来た」
人が来る気配を感じ取り、
楓は話すミアの口を手で覆って塞いだ。
—顔も身なりもいいし、こいつは高く売れそうだな
—へへっ。まだガキですが物好きなじじいが…
「おーい。そっち居たか?」
「いや、見当たらないな」
委員会の生徒達だ。奇跡的にもこちらは探さずに他へ行った様子だ。
「ふぅ。危なかった…ああ!ごめん!」
楓が慌てて口から手を離す。
—な、なんだ貴様は!ぐわぁあ
—クズどもめ…
—なぁ。アンタお姫様なんだって?
—あん?俺様か?俺様は…
…ァ
…ミア
「ミア?大丈夫か?」
「ああ…すまない。少し呆けてしまったようだ」
「はぁ。びっくりした。こっちこそごめんな」
—『これにて時間切れです。見つからなかった生徒は食堂にてプリンを食べることが出来ます。カウンターの担当者に引換券を渡してください』—
「おっ!よかったな!プリン食べに行くか」
「ほう。食べれるのか?それは楽しみだ」
二人は無事かくれんぼを制し、
その後食堂にてプリンを存分に堪能した。




