ep.35 神殿
それからの食糧問題は、満足とまではいかないが、多少はマシになった。理由は考えたくもない。そして、魔族との遭遇もない。アンディが言った通り、神殿に近づいているのだろう。
「どうしたグレア。起きてても腹が減るだけだぞ」
「寝れねぇ。少し焚き火を眺めさせてくれ」
「…ああ」
あれから夜営は一人だけ。魔族が現れなくなったからというのもあるが、少しでも体力を温存したい。目の前にいるグレアも、別人のようにゲッソリとしているし、限界なのは明らかだった。
「おい、アレス」
「ん、なんだ?」
「オレ達、なんの為に旅をしてるんだっけ」
「…」
返す言葉が見つからない。
「こんなになってまでよ。何の意味があるんだよ…神殿ってなんだよ。ふざけんな」
普段、強気なグレアが涙を流し始めた。旅を始めてから今まで、彼女のこんな姿を見ることになるとは思いもしなかったのに。
「俺にもよくわからない…けど…」
—アレス。お前は
「世界を救うんだろ」
〜
それから三日後の夜、森を抜けると信じられない景色が広がっていた。まず、辺り一体が白い塀で囲まれ、それを見下ろすかのように巨大なドーム型の建造物がそびえ立っている。月の光を反射し辺りを照らしているように輝いていて、まるで神話から飛び出してきた様な建物を見た一同は息を呑んだ。
入り口らしき門を見つけ、その前に立つ兵士に話しかけると許可書を求められたので、アンディが対応した。
「3890番か。一人足りないようだが?」
「…それは…その」
「そうか。構わない。だが、お前達の汚れた身なりでは通す事は出来ないな。向こうに川があるから身体と衣服を清めてから来てくれ」
「すまない。その前に何か食糧を分けてはくれないか?」
アンディが兵士に交渉すると、自らの装備をいくつか手渡し、それと引き換えに、食べかけの干し肉を貰った。四人分に小さく分け、齧りながら川へと向かう。
衣服と身体を洗い、布一枚に身を包んで焚き火にあたる。もはやそこに男女は関係なかった。服も乾かないし遅い時間なので、今日はここで一晩明かす。
皆一言も話さない。だが不思議な事にそれを心地よく感じていた。
〜
「お前達は運がいいな。先程女神様が降臨された」
次の日、同じ兵士に話しかけた。何やら機嫌が良さそうだ。各々兵士達に武器を預け、門の中へと進む。
「あいつらから適合者は出ると思うか?」
「俺は0に賭けるぜ」
「あ、ずりー!じゃあ、一人でも生き残れたら俺の勝ちな」
他の兵士達が後ろで何か言っている気がしたが、とにかく休みたい。洗礼を早く済ませたい。その一心で神殿の中へと進んだ。
案内された扉の前に立つと、その荘厳さに圧倒された。ここまで大きな扉など、誰がどのように作ったのだろうか。
「この先に女神様がおられる。ご無礼のないように」
案内してくれた兵士が横に移動すると、扉が独りでに開き始めた。まるで魔法のようだ。
「進め!」
四人は進み始める。絨毯の横に兵士達がズラリと1列に並んでおり、道を作っているようだった。
正面には噴水があり、その前に真っ白な衣服に身を包む女性が座っている。この世のものとは思えない美しさだ。あれが女神だというなら頷ける。
「あら〜。よくぞいらっしゃいましたね〜」
女神は立ち上がると端から一人ずつ握手を交わしてきた。そして最後の…俺の前に立ち—
「ん〜。あなたは…」
握手をするでもなく、ジロジロと観察を始めた
「うん。決めました〜!この子にします〜」
兵士達からどよめく声が上がる
—おお!
—ついに勇者の器が!
「は?…なんの話だ?」
「貴方に加護を授けましょう〜。他の方々はいつも通りお願いします〜」
兵士達が駆けつけ、グレア、アンディ、イリアを拘束する。疲労が溜まっているせいか抵抗することも出来ないようだ。
「待て!皆を何処に連れていくつもりだ!」
「お気になさらず〜。そんな事より名前を教えてもらえますか〜?契約に必要なんですよ〜」
「ふざけんな!皆を離せ!」
グレア達の元へ駆け出そうとしたが、何故だか身体は動かず、それどころか女神の方へと勝手に顔が向いていく。
「はぁ〜。名前を言え人間」
—俺は
〜
「アレス…」
「あ、やっと起きた」
声の方へ視線を向けると、見慣れた女の子がいる
「カリサ…?」
「寝ぼけてんの?夕飯作っといたわよ」
急に涙が溢れ出した。夢の中では一切出なかったのに
「ええ!?ちょっと、どうしたの?」
「ごめん…本当にごめん」
—レト
楓は現実の世界へ帰還した




