ep.33 仲間
楓の夢の中—
レト・オリバーなる青年に手を引かれ、街の門をくぐると、そこには人が溢れ、野菜や薬などの露店が立ち並んでいた。
「すげぇ…」
「なに言ってんだ?ここは何回も通ってるだろ」
心奪われる楓をよそに、レトは先へと進んでいく。人混みをすり抜け、見失わないように慌ててレトを追いかけた。
「そう言えばレト…酒場って何のことだ?」
「もう忘れたのか?皆で作戦会議するって王との面会の後で約束したじゃんか。アレス以外は揃ってるよもう」
「王…面会?」
当然、何のことだかさっぱり分からない。
「もう一ついいか?どうして俺の事をアレスって…」
「そりゃー、アレスは優勝者だからな。4位の僕と違って有名人。名前くらい知られてて当然だろ?」
レトの皮肉まじりの返答は質問の意図とは違っていたが、自分が再びアレスという人物になったと楓は自覚することが出来た。
「着いた。皆怒ってないといいな」
立ち止まった建物に目をやると、西洋のカウボーイ映画で観たような胸から腰までの扉があり、上から室内を覗くと、まさにといったような酒場の内装が見えた。
「おーい。連れてきたぞー!」
レトが声を掛けた席に目をやると、そこには
(え…?あれって)
楓がよく知る女性。実物より髪は短く、少し若く見えるがその顔からはっきりとした面影を感じる
「グレア…さん?」
「ああ?オレを馴れ馴れしく呼ぶんじゃねーよ」
(いや、完全に別人だ。グレアさんはもっとお淑やかで品があってそれから―)
しかし、頭から拭えないのは、こちらが呼びかけた名前に反応したという事実。
「流石にグレアの事は覚えてんのか。決勝で戦った相手だもんなー。僕は準決勝だからなー」
「アレス調子のんなよ。次やったらオレが勝つ!」
恐らく名前が同じで顔が似てるだけ。それにこれは夢なのであって、深く考えても仕方が無いと楓は正気を取り戻した。
(それにしても決勝って…)
「優勝者のアレス様は皆のこと忘れてるだろうから、僕が紹介してやるよ」
どうやらレトという人物はかなりの世話焼きのようだ。だが、今の状況では非常に助かる。
「あの仏頂面の大男がアンデロ・イ・ハンクス。僕等はアンディって呼んでるけど」
「…好きに呼べ」
「お坊ちゃま育ちの癖に、勘当されてまで闘技大会に出場したんだぜ。変わってるよな」
「アンディね」
楓は頭の中でしっかりとメモを取る。レトの発言から汲み取ると、アレスとこの人物達は、まだ関係が浅いようだ。今回は許されているが、次からは無いと思われる。
「それとグレア・モルペンデル。あいつは–まあ知ってるからいいか」
「ちっ。それはそれで気持ちワリィな」
「グレア…さんね」
何か彼女の名を呼ぶのには抵抗を感じる。現実世界の方と混合しているせいだろうか—
「それとイリア・バージス」
(あれ…?あの人何処かで…)
こちらへと微笑む青髪の女性。現実世界での記憶には居ないが、何故だか見覚えがある。
「うふふ。よろしくねアレスさん」
『グレアも顔はいいけどあの性格がな…僕は断然イリア派』
レトが耳元で囁いてきた。楓も同じような事を考えていたが、口には出さず心の中に留めた。
「アレスが1位だろ?そんで2位がグレア、アンディが3位で、4位が僕。5位がイリアな」
「ちっ。腹の調子さえ良ければオレが優勝したのによ」
「はいはい。そんでだ、今後の事は優勝した奴が決めるってのはどうだ?」
「ああ?なんでだよ!」
グレアとレトの掛け合いに、楓はうんうんと頷くのみだったが冷静に考えると優勝者はアレス。何も分かっていない自分だ。
「悪い。まずこの集会の目的を教えてくれないか?」
『はぁ!?』
楓からの突拍子もない質問に、グレアとレトは声を上げた。すると、呆れたような態度でアンディが解説を始めてくれた
「闘技大会の上位5名は旅の前に、洗礼を受けるのが決まりだ。王の命令でな」
「うふふ。困ったものね」
「アレス…なんの為に大会に出たんだよ。僕達これから魔王退治の冒険を始めるんだぜ?」
「は!?」
突拍子もない話に言葉を失った。
(魔王?ゲームじゃないんだから…いや、そもそもこれは夢だったな。そうだ。うん)
「うふふ。アレスさん。とりあえず座ったら?」
「ああ。そうさせてもらうよ」
イリアに促され一同と同じテーブルを囲む。
「それじゃ、アレスはポンコツだから皆で決めるか…」
「はぁ!?さっきの理屈で言えば、2位のオレに決めさせるのが道理ってもんじゃねぇのか?」
「それは一旦無しで」
(こいつら…仲いいな)
喧嘩するほどなんとやら。あれが正しいのであれば、この2人はマブダチだろう。実際幼馴染みであることを、後ほどレトの口から聞かされた。
それから会議の内容を聞いていると、神殿までのルート、道中の食料の確保はどうするかといった話し合いが行われていた。
当然、楓には土地勘どころかこの世界について何も知らない。ただの夢である筈なのにやけに具体的だなと感心していた。
話し合いが終わると、レトに連れられ宿屋に入り、そこで一晩を明かした。
「夢の中なのに寝るなんてな」
翌朝再び集まり一同は準備を進めた
三日後には旅立てるように—
「夢なのにまだ覚めないのか」
そして、三日後。
街を後にし神殿へと向かう旅が始まる
「おいおい。これって夢じゃ…」
—それから1ヶ月が経過した。
ep.32.33あげました




