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君が選ぶのは  作者: ぬしぽん
第二章
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ep.28 天才

 ラグナ・ファルゼン 17歳という若さでオーフィス騎士団三番隊副隊長の地位に就いている。実績としては脅威レベル9の邪種を単独で討伐。


 楓は戦いの場へと向かう途中、隣にいるカリサから相手の情報を聞き込んでいた。しかし、聞けば聞くほど不安は募るばかり


 「9って何…邪種ってレベル7までじゃなかったの?」


 突拍子の無い情報に頭を抱える。勿論、楓も脅威レベル5のオーガを討伐。という輝かしい過去はあるものの、まぐれだと本人は認識している。それに実戦はあのオーガ一体のみで、それ以降はカリサとの訓練のみなのだ。実戦経験は無いに等しい。


 「まぁ、私も悪魔の川には行ったことがないから知らないけど。聞いた話によると、その時相手にしたのは巨大なドラゴンらしいわ」


 「ドラゴンって。御伽噺の世界に入っちゃってるよ」


 5と9。そう聞くと大した差がないようにも聞こえるが、レベルが一つ違うだけでも脅威度は信じられない程に跳ね上がる。それは一般人でも認識しているような常識でもあった。


 今回の敵は間違いなく師匠のカリサより強い。それも人類最強の組織の中で、天才と呼ばれている男が相手なのだから、勝てるイメージが沸かないのは無理もない。


 「これ以上教えてもやる気を無くすだけだわ。殺される前には止めてあげるから」


 「…自分が何を言ってるかわかってます?」


 カリサはというと完全に他人事だ。


 「安心して。ラグナはプライドが高いの。素人に本気は出さないわ。保証はできないけどね」


 「はぁ。どうせやるしかないもんな」


 今からドラゴンを倒した人間を相手にする。狂気としか思えない愚行だ。手加減はしてくれるだろうと祈るしか無かい。そうして二人は約束の地へと歩を進めた。




 目的地に着くと、ラグナは既に準備を終えているようで、寒い中真っ黒な半袖姿になっていた。そして拳にカリサが所持しているものと同じメリケンサックの形をした神器がはめられている。


 (どうやら手加減はしてくれそうだ)


 カリサの情報によると、ロイヤルに所属する者には自身の純正神器の他にもう一つ、あのようなグラムドと名付けられた複製神器が支給されている。勿論、適合できない者もいるので全員では無い。


 少なくとも使用するのが純正神器で無いのであれば、相手は本気ではないという証明になるので充分だった。


 来る途中、軽く走っていたので楓の身体も問題無い程度には温まっている。ラグナの元へ向かう前にカリサに上着を預けた。


 「いい?あまり挑発しないこと。アイツが本気になれば私でも止められないの」


 「挑発した張本人がなんか言ってますね」


 思わず悪態が口から飛び出てしまった。それでもこれから戦いに向かう楓にカリサも怒るような真似はしない。


 ラグナの元へ十メートル程の距離まで近づき、自身の前に両手で神器グレイドを構えた。


 「そいつは純正か?勿体ねぇな。今土下座して謝るなら、僕の弟子にしてやるぜ?あ、やっぱ忙しいから無理だな」


 常に薄ら笑いを浮かべたラグナは、挨拶がてら楓に挑発し始める。小細工の必要は無い程の実力差があるので、恐らく本心からの言葉だろう。


 「そいつは残念だ」


 楓も動じない。こんな無茶振りな戦いでも断らなかったのは、自分の信頼している師匠カリサを侮辱されたからだ。乗り気とは言えないが引き下がる気も無かった。


 「カリサ先輩も思い切ったッスねー!」


 カリサとエイタンはこれから戦う二人を、離れた位置で見学している。巻き添えを受けないかつ、止めに入れる絶妙な距離だ。


 「そうかしら?」


 「ラグナ先輩は戦闘面だけならガチっすよ!アタシでも勝てるかわかんねーッスから」


 「ええ。よく知ってるわ」


 ラグナが神器グラムドの起動を始めた。拳に緑色の光を纏い、大気が微かに揺れ始める。カリサがグラムドを使用した時はあのような現象は起こっていなかった。本来の武器ではないとは言え、やはりロイヤルの副隊長クラスは並ではない。


 続いて楓も神器グレイドの起動準備を始めた。


 (久しぶりだな。でも前にコツは掴んだんだ)


 ―己の内にある欲望、否。最も強く望む感情。それを引き出し外界に放出するように―


 「来た!」


 楓の右手の甲から赤い光が溢れ出し、神器グレイドが起動される。剣の形をした灰色の物体に血管のような赤い光の線が無数に伸びる。その姿は禍々しさすら感じさせた。



 「なんスか?あんな力、見たことねーっスよ」


 楓の神器の起動を、エイタンは食い入るように観察していた。オーフィス騎士団五番隊副隊長である自分ですら見たことの無い現象に、興味津々と言った感じだ。


 「あれがカエデの力。私の一番弟子であり、観察対象よ」


 カリサは何故だか誇らしそうにしている様子だ。




 「カエデと言ったか?そいつはどうなってんだ?」


 「知らん。寒いし早く始めようぜ」


 季節は冬だ。運動で身体を温めたとはいえ、外で悠長に話していると、あっという間に冷えてしまう。


 「いい根性してるぜお前」


 両者はジリジリと探るようにその距離を詰め始める。その様子を見てエイタンが溜息をついた。


 「んー。カエデさんとっくにラグナ先輩の間合いに入ってるッスよ。その気になれば既に十回は殺されてるっす」


 自分も実力者であり、ラグナという男の実力も知っているからこそ出る感想だった。既に勝負にならないと見てオーバーに両腕を天に挙げ背伸びを始める。


 「いいえ。あまりカエデを嘗めないほうがいいわ」


 彼女はそうは思ってないらしい。副隊長のエイタンと、調査隊ざつようのカリサ。どちらの言葉の方が説得力を持つかは言うまでもないが、やけに自信がありそうだ。



 「バカが!」


 先手を打ったのはラグナだった。神器グラムドによって身体能力を向上し、最速の拳を放つ。とっくに間合いに入っていた上に充分引きつけていたので、躱される筈は無い。しかし‐


 「お前…今のが見えたのか」


 ラグナの最速の一撃は躱されていた。

 防がれた訳ではなく、身体ごと横に。


 「はぁ?見えなかったら躱せてないだろ?」


 楓が相手の間合いに動じなかったのは、自分であればまだ躱せると思える距離だったからだ。



 「調子に乗りそうだから本人には秘密にしてるけど、能力無しの接近戦なら‐カエデは既に私より強いから‐」

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