ep.2 廃墟での出会い
楓は状況に戸惑いつつもベッドから出た。とりあえず状況を確認する為に外へ出なければ。窓から外を眺めても森しか見えず、ここが何処だかは全くわからないのだ。とりあえず玄関を探すことにした。
ドアを開け廊下に出ると、右手側の奥に玄関が見えた。想像してたような広い建物ではなく、普通の家のようだ。寝室だけ気合いを入れてた作りなのか?そんな事を考えていると、玄関のすぐ手前、右手側のドアの中から何やら食器を扱うような音がした。間違いなく人の気配がする。
(あそこがリビングか)
ドアの前に立ちノックをしてみる。反応が無い。2、3回ノックを繰り返したがやはり返事は無い。確かに人の気配はする。
「すみません。怪しいものでは無いです。何故か迷い込んでしまったみたいで」
声をかけたが返事は無い。帰ろうか悩んだが、不法侵入をした可能性があるのに、挨拶も無く去るのは普通に駄目だろう。そもそも不法侵入なのだろうか。廃虚に入ったのは認めるけどここは知らない。怒られるのを覚悟し楓は丁寧にゆっくりとドアを開けた。
「失礼しまーす…」
目に映ったのはお洒落なリビングだ。寝室とは違い豪勢というよりは品があり落ち着く。白を基調とした部屋に観葉植物もバランスよく配置されていて、家というよりカフェの中のような印象を覚えた。
それから食器の音がした方に目をやると、キッチンに1人の橙色の髪をした少女が立っていた。ティーカップとポットを持ち上げては戻し、持ち上げては戻しを繰り返している。食器の音の正体はこれか。何かの儀式だろうか。
「すみません。先程目を覚まして。信じて貰えないだろうけど、このお家に入った記憶が一切無いんです。もしかして何かご迷惑をおかけしましたか?」
この距離で声をかけても全く反応が無い。なんだか怖い。そしてその儀式はいつになったら終わるのだろうか。
「あのー。コーヒー作りましょうか?」
少女の動きがピタリと止まった。返事は無いが楓の声に初めて反応を見せた。少女はティーカップとポットから手を離し、目を合わせることも無くキッチンから離れ窓際の椅子に座った。
(作れって事でいいのかな…)
作るとは言ったもののコーヒー豆らしきものは見つからない。仮にあったとしてもインスタントしか作ったことは無い。ただ、とっておきの秘策はあった。
「カフェオレでもいいですか?」
鞄の中にカフェオレスティックを潜ませていたのだ。昼休みの食後に職員室でお湯を貰ってカフェオレを作るのが最近のマイブームだ。少女から返事は無いが、これしか無いのだから仕方が無い。コンロに火をつけ、ポットを置いた。沸くまでの沈黙に耐えられなくなりスマホを取り出して凌ぐことにした。
(もう11時か。今日は壮絶な1日だった…よく無事だったな俺のスマホよ)
〜
「どうぞ」
恐る恐るテーブルの上にカップを差し出した。少女は疑う素振りも一切見せずにカップに手を伸ばし口をつけた。表情は全く変わらないが、二口目も啜る姿を見たところで楓は安堵した。
(歳は俺と同じくらいかな?それにしても…)
先程までは緊張してそれどころでは無かったが、少女をよく観察してみると、これまで見たことのない程の整った顔立ちをしていた。カップを持つ指の先まで美しく、座っているだけでも気品を感じられた。まるでドラマや映画に出てくる貴族のようだ。
「って11時!?不味い。お邪魔しました!」
一仕事終えて気が抜けると同時に、急に先ほど見たスマホの時間を思い出した。少女に頭を下げ部屋を出てて、勢いよく玄関を飛び出した。
「あれ?ここ廃虚だったよな…?」
一度廃虚の外に出て確認した道、壊れた自転車が倒れている場所まで一致していた。気を失う前に廃虚があった場所なのは間違いない。
「意味がわからん。とりあえず行くか」
楓は深く考えるのを辞めて学校を目指した。




