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君が選ぶのは  作者: ぬしぽん
第二章
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ep.27 訪問者

 11月にもなると流石に身を縮める程の寒さだ。衣替えはとっくに完了しているが、少しでも光熱費を抑えるために、家の中でも常に厚着をしている。


 休日の朝、楓は一人分のパンを焼き終え、その上にハムとチーズを乗せている。もう一人分の用意がないのは、どうせ昼まで寝ているだろうからだ。


 すると突然、家の呼び鈴が鳴る


 「こんな朝早く。珍しいな」


 特に訪問の心当たりは無い。またカリサが何か購入したのだろう。と溜息をつきながら玄関へと向かった。


 (こいつら誰だ?)


 ドアを開くとそこに居たのは、見知らぬ金髪の青年と赤髪の少女。どちらも金色のボタンが装飾された、白いコートのような団服を着ており、特に少女の背中にある大きな剣を見れば一般人で無いことはすぐに理解できた。


 「女を出せ。ここにいるんだろう?」


 (女…カリサの事か?)


 その金髪の青年の高圧的な態度に、楓は警戒心を強める。相手の素性が分からない以上、二つ返事で要求を呑もうとも思えない。


 「ラグナ先輩。その言い方は無いっスよ。スミマセン!アタシらカリサ先輩の知り合いっス」


 「カリサの知り合いね…なるほど」


 赤髪の少女の発言からおおよその察しが付いた。この人達は恐らくロイヤルの関係者だと。カリサも過去に組織から追加で人員が配備される。と言っていたので辻褄は合う。


 「じゃあ、今呼んで来ます」


 しかし、楓が呼びに行かずとも、丁度良く二階からパジャマ姿のカリサが玄関へと降りてきた。目をこする様子から、まだ目覚めたばかりなのだろう。


 「カリサ・ツィングラー。任務はどうした?」


 「ゲッ、自意識過剰男!なんでアンタが…」


 彼女からすると、楓と口裏を合わせる時間が無くなってしまったので最悪なタイミングだ。



 〜


 カリサは寝癖直しや歯磨きなど、身だしなみを整えている。あれでも一応女の子だ。なのでリビングには現在二人の客人と楓のみ。外で待たせるのは申し訳ないので家にあげることにした。楓は四人分、否三人分のコーヒーの準備をしていた。赤髪の少女はまだ幼いのでココアの方が良いだろう。


 「アタシもお手伝いするっスよー!」


 「いいから。座ってて」


 しかし、あの金髪の青年とは違い少女の方は気が利くようで、楓からの好感度は雲泥の差だ。妹よりは幼いだろうが、親脳性を働かせるような愛らしさを感じさせる。


 「あの出来損ないはまだ来ないのか?」


 楓がテーブルにコーヒーを並べていると、青年から話しかけられた。出来損ない、というのが誰のことを指しているのかは大体想像がつく。


 「俺に聞かれてもな」


 腕時計を見ながら舌打ちをする青年に対し、湧き上がる感情を堪える。初対面の相手、ましてや家にお邪魔させてもらってる人間の態度ではない。同じ空間にいる事に耐えかねて、楓はカリサの様子を見に行くことにした。



 「まだかね。流石に気まずいんだけど」 


 カリサが使用してる部屋の前で話しかける。ドライヤーの音が聞こえたので、声を少し大きめに。勿論、リビングには聞こえない程度に調節はしている。


 「うっさいわね。今終わったわよ」


 楓が反抗期の娘が父親に取るような態度に呆れていると、突然部屋のドアが開き部屋の中へ引きずり込まれた。


 「余計な事は一切言わない。わかった?」 


 「言わないも何も、俺は同席しないだろ」


 組織ロイヤルについての情報は一般には公開されていない。カリサから多少話を聞かされてるとは言え、楓は部外者なのだ。


 「いいえ。既にカエデの事は報告済みよ」


 「はぁ?」


 カリサは敵との遭遇以降、特に成果を上げていなかった。となればその内帰還命令が下る。ミアとグレアを売るわけにもいかないので、楓が生贄となっていた。勿論、情報を小出しにしているので詳しい事まではまだ知られていないが。


 「お前いつの間に…ってか勝手すぎるだろ」


 「よく考えたら神器が使えるようになった時点で隠す必要無いじゃない。未登録の所持者だから実力次第でスカウトするとも言ってあるわ」


 開き直っているのか、笑顔でこちらに親指を立てる彼女にこれ以上水を差す気にはなれなかった。それに客人も待たせている。



 リビングに戻った楓が驚いたのは、テーブルの上に置いてあった菓子が全て無くなっていたからだ。ラグナと呼ばれる金髪の青年が口の周りを汚し、頬を膨らませている様子から彼が食い荒らしたのだろうと予想できる。それとは対照的に赤髪の少女の方は行儀良くココアを飲んでるようだ。


 「遅ぇぞカリサ。こっちは暇じゃないんだ」


 「事前に連絡してこない方が悪いでしょ」


 歳は変わらないだろうが、以前聞いた情報からも相手はカリサより格上の人間だろう。なのに彼女の態度は楓と接する時と変わらない太々しいものだった。


 「てめ‐」


 「バカ。要件は?」


 全く相手にせずカリサはソファに座った。ラグナは喉に菓子を詰まらせたらしく必死に胸を叩いている。


 「サーセン!ヴィクトリアについて話を聞きに来たッス。資料だけじゃアレかなーって!」


 どうやら彼等は情報収集の為に訪れたようだ。カリサも納得したようですぐに話し始めようとするが、少女の視線が楓へと向いてることに気づいた。


 「エイタン。彼の事は気にしなくていいわ。組織にも報告してあるし、一応当事者だから」


 「へぇ」


 エイタンの目つきが獲物を見るような鋭いものへと変わった。とりあえずは会話に参加させて貰えるようなので自己紹介をしておくべきだろう。


 「はじめまして。井上 楓です」


 


 一通りカリサの報告が終わる。ところどころ虚偽が混ぜられている事には気付いていたが、楓は約束を守り、無言でただ頷くだけだった。すると突然ラグナが鼻を鳴らす。


 「はっ!お前見たいな出来損ないからなんで逃げるんだよ。本当に邪徒だったのか?」


 「嘘をつく理由が無いでしょ」


 態度こそ悪いが、真を突いた追及ではあった。勿論、それを認めるわけには行かないが。


 「ラグナ先輩!ヴィクトリアの連中が意味不明なのは、今に始まった話じゃないッス」


 「だとしても負けるのは情ねぇ。だからいつまで経っても雑用なんだよカリサは」


 エイタンの擁護にも耳を傾けないといった様子だ。しかし、カリサは耐えてるようなので楓も言及しない。わざわざ事を荒立てる必要は無いのだから。


 「ところで、その男はなんだ?」


 ラグナが楓の方へ視線を向ける。先程自己紹介は済ませたはずだが、カリサの口から聞きたいようだ。同居している事に嫉妬して…などのくだらぬ理由では無く、仕事としてのシリアスな追及だった。


 「カエデは私の弟子よ」


 「弟子?お前の?ふはっ」


 ラグナが腹を抱えて笑い出す。顔をほのかに赤く染め、目に涙を浮かべているので余程面白いらしい。これには流石の楓も表情を歪める程度には頭にきた。


 「出来損ないに何を教わるってんだ?ゴミにゴミ拾い教わる奴がいるか?くそおもしれぇなお前」


 お菓子までご馳走になってこの態度はもう限界だ。家から追い出してやろう。と楓が立ち上がろうとしたが、カリサが視線はラグナに向けたまま、手だけで制止するよう訴えている事に気づく。恐らく彼女がこれから反論してくれるのだろう。と楓も捲った袖を戻し腰を落とした。


 「そこまで言うなら試してみる?」


 「あ?何言ってんだお前」


 味方同士なのに何やら物騒な事になってきた。もしこの二人が喧嘩を始めてしまったら、少なくとも自分には止められない。楓はただの傍観者になるしかないのだ。


 「負けるのが怖いかしら?副隊長ともあろう人間が」


 「…いい度胸だな」


 売り言葉に買い言葉。こうなればもう止めることは出来ない。とりあえずテーブルの上を片付けねば。と楓は腰を上げ掃除の準備に取り掛かる。


 「アイツに見せつけてやりなさい。カエデ」


 「え、俺!?」


 しかし、予想は外れた。本人も知らぬ内に

 楓とラグナの因縁の戦いが始まろうとしていた。

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