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君が選ぶのは  作者: ぬしぽん
第二章
27/42

ep.25 レッスン

 学校から帰宅した楓は夕食の準備を始めていた。今日は簡単にオムライスだ。気づけば二人分の食事を用意するのも当たり前になっていた。すると玄関が開く音が聞こえた。


 「おかえりー」


 「おかえりじゃないわ!どうして先に帰ってるのよ」


 何やら大荷物を抱え帰宅したカリサから、予想通りの反応が帰ってきた。用意していた言い訳は‐


 「すまん。いつもの癖で」


 「神器科の訓練場に行くんじゃなかったの?」


 「もう一度冷静に考えてくれ。バレたら俺は終わりなんだぞ」


 「じゃあ、修行はどうするのよ」


 楓は醤油を炒めた焼き飯に卵を被せ、テーブルの上に完成したオムライスを置いた。


 「しばらく体力訓練でいいよ。人生詰むよりはマシだ」


 カリサは呆れたといった態度を取ったものの、素直に椅子に座りオムライスにケチャップをかけ始める。楓もどうにか機嫌を取ろうと話題を絞り出した。


 「学校楽しそうだったな」


 床に置かれた荷物に目をやると、お菓子やらパンやら。恐らく他の生徒達からの貰い物だろう。カリサは転校初日から大人気のようだ。


 「はぁ?あんなのただの社交よ。カエデが訓練場を使わないならなんの為に入学したんだか…」


 (家に籠もってゲームしてるより健全だと思う)


 そんな感想も口には出せないので、そっと心の中にしまう。そして自分の分のオムライスを完成させ、カリサの正面の椅子に腰を掛けた。


 「なぁ、今まで必死で体動かしてたから気にしてなかったけどさ。敵と神器について知るのも大事だと思うんだよな。言える範囲でいいから教えてくんない?」


 当然だ。楓は一般人。成り行きで戦いに巻き込まれる形になってはいるが、邪種についてすらニュースで知る程度の理解しか持ち合わせていない。


 「確かにね。とは言っても、何から説明したらいいのかしら」


 「例えば…森での戦いで、カリサはあの男が化け物になった時、【邪徒】って呼んでたよな?あれはなんなんだ?」


 ゴウラと名乗る敵の男が見せた、肉体を化け物へと変化させた現象。今後もあのような者と戦うことがあるのだろうか。


 「邪徒については私も詳しくは知らない」


 「ええ!?」


 「そうゆう奴がいるって噂で聞いてた程度よ。実際、この目で見たのはあれが初めて」


 カリサの言葉は事実だ。人類守護の最前線を担っているオーフィス騎士団ですら、邪徒と遭遇した際の記録は僅かなものしか存在しない。


 「結局、あのゴウラって奴は人間だったのか…?」


 「人間じゃないからしら?恐らく奴ら‐ヴィクトリアの人体実験で生まれたものでしょうね。どうやったのかは知らないけど、邪種と人間を融合させるだなんて気持ち悪いわ」


 「ヴィクトリア…ロイヤルみたいな組織が他にもあるのか」


 「あのね、あんな陰湿な奴らを私達と一緒にしないでくれる?」


 カリサに言われるまでもなく、邪種を操ったり、人と融合させたり、ヴィクトリアと呼ばれる組織は人類の味方とは思えない。というのは楓も理解していた。


 「そいつらの事は教えてくれるのか?」


 「ヴィクトリア。という組織についてもよく知らないわ。邪徒と同じ理由でね」


 しかし、カリサがヴィクトリアの構成員に遭遇したというのは組織ロイヤルにとっても大きな収穫だった。現在、副隊長クラスの戦力を二人もこの街に向かわせているのがその証拠だ。


 勿論ミアやグレアの事を知られる訳には行かないので、始末した証拠は出せない。その為、戦闘の後に敵は姿を消した。と組織には報告している。


 (結局何も知らないじゃん)


 「今、失礼なこと考えてたでしょ?」


 「まさか…」


 彼女の冷ややかな視線に耐えかね、オムライスに手をつける。少し冷めてしまってはいるが、その分味を強く感じることが出来るのでなかなか悪くない。


 

 〜


 次の日、昼休みの食堂には昨日同様、ミアと食事をする楓の姿があった。二人は特に会話をすることも無く、黙々と目の前にある弁当を食べ進めている。


 (あの2人どういった関係なのかしら…)


 カリサは転校二日目にして、既にクラスメイト達の輪に溶け込んでいた。弁当は持参していたものの誘いを断る事が出来ず、同級生達と食堂に来ていた。


 カリサの脳裏にあの日のミアとの会話がよぎる。


 『あの少年は私の恩人でな』


 (恩って言うのは学校の中での事…?まさかね)


 「カリサさん。食べないの?」


 「あ、違うの。ちょっと考え事してただけよ」


 思考を止め、慌てて食事に手を付け始める。当初の目的とは違うがミアと楓、二人の監視対象を一度に見れる事から学生になったのは無駄ではなかった…と思いたい。



 ミアがクリームパンを完食し、使い終わった弁当箱等を片付け始めた。その正面に座る楓は既に食事を終えていて、話しかけるタイミングを伺っている。


 (友達になったからには…しかし話題が…)


 「イノウエ カエデ」


 「あ、はい」


 意外にもミアの方から話しかけてきた。苦悩する楓に気を遣ってという様子では無さそうだ


 「私の顔に何かついているだろうか」


 ミアが頬に手を当て確認を始めた。完璧主義と思われる程、彼女は身なりや周りのものをいつも綺麗に保っている。ましてや顔に汚れなどあろう筈もない。


 「悪い。そうじゃなくてな…そうだ!その堅苦しいの辞めようぜ」


 「すまない。何のことだろうか?」


 「名前だよ。フルネームは違和感があってな」


 「そうか。気づけなくてすまなかった。君の提案を受け入れよう」


 「俺の事は楓って呼んでくれ。そっちはミアのままでいいよな?前から勝手に呼んでたけど」


 「…ああ。ミアのままで構わない」


 「そうか?」


 肯定の前に少しの間があったことが気がかりだが、嫌がっている様子ではないのでお互いの呼び名が確定された。


 「一つ思い出した。少し待ってくれないか?」


 「別にいいけど」


 ミアが何やら側頭部に指を置き目を閉じた。頭痛でも起きたのだろうか。と楓は心配そうな顔で見つめる。二十秒程その様子が続いた後、ミアがゆっくりと目を開いた。


 「今日の放課後、君に見てもらいたいものがある。勿論、時間があればで構わない」


 「いいぜ。どうせ暇だし」


 本当は修行があるので暇でもない。友達としての彼なりの気遣いだ。しかし、嫌々と言った訳でも無く、今後も誘いがあれば優先して応じるつもりだ。修行の時間は別で確保すればいいのだから。



 放課後、連れられた場所は学校の駐輪場だった。そして新品の自転車を両手で押すミアが目の前にいる。その表情はいつもと変わらないが、何処となく誇らしげにも見えた。


 「…自転車買ったんだな」


 「ああ。君に教えてもらったのだから、報告するのが礼儀だと思ってな」

 

 「そ、そうか」


 見てもらいたいもの。というのはこの自転車の事だと楓は理解した。しかし、気がかりなのは一人で家に帰れるかという事と‐


 (自転車乗れるようになったのかな…)


 以前のミアは自転車の乗り方がわからなかった。当然自分は乗り方を教えていないが、グレアという過保護な保護者がいるので、恐らく問題無いだろうと楓は自分に言い聞かせた。


 「時間を取らせた。では失礼する」


 そう言い残し、ぎこちなく自転車に跨ると足で地面を蹴り進み始める。


 (子供を見守る親ってこんな気持ちなのかな)


 楓は心配そうな表情で去っていくミアを見守る。方向音痴さも気になるので、見えなくなるまで待つつもりはなく、バレないように後をつけるつもりでもいた。


 (まぁ、覚えてから日が浅いだろうし、助走をつけてから乗るのはまだ難しいよな)


 だが、ペダルに足を乗せる気配は無い。いつまで経っても両の足を交互に使い、地面を蹴って進み続け‐


 「うん。ちょっと待とうか」


 楓は小走りですぐに追いつき、直進するミアを止めた。振り向いた彼女は少し息を切らしている様子だ。


 「ふぅ。何か?」


 「ミア。今日学校に来るときも自転車を?」


 「それは違う。グレアに車で送ってもらった」


 「その自転車は何故学校に?」


 「ああ。これは先程グレアに届けてもらったのだ」


 ミアは昼休みの時間、グレアの精神へと干渉し自転車を学校にと指令を出していた。


 「そうか…うん。とりあえず一緒に帰らない?」


 一旦彼女をその場に待たせ、自分の自転車を取りに戻る。丁度いい事に通学路は被っているし、ミアの家の方が学校から近い。


 (自転車の乗り方か…教えたことは無いけど。それにしても、どうして教えて無いんですかグレアさん)


 それからミアに自転車の乗り方をレクチャーする為、近くの公園へと向かった。とりあえずあの乗り方は彼女の名誉の為にも他人に見せるわけには行かないので、自転車には跨らず手で押しながら移動した。


 「ミア。お前の乗り方は…えーっと。」


 彼女を傷つけ無いような、良い言葉が思いつかない。否定はせず、何かポジティブな


 「‐自転車の本来の力を出し切れていない」


 「成る程。それは興味深いな」


 ミアの反応は好感触だ。楓は我ながらいい方向性に持っていけたと心の中で自画自賛していた。


 「今からそれを教える。まずこの2つ飛び出てるのがペダルっていうんだ」


 「ペダル…理解した」


 「ここに足を乗せて交互に踏むと‐」


 楓を乗せた自転車がスムーズに進み始めた。ミアは真剣な眼差しで、余程驚いたのか瞬きすらしていない。


 (そもそも他人が乗ってるの見たことないのかな…?)


 湧き上がる疑問を呑み込み、公園を一周するとミアの元へと戻った。


 「どうだ?」


 「よくわかった。私にも出来るだろうか?」


 「いきなりは厳しいかな。でも練習を続ければ大丈夫だ」


 それから1時間後。あまり遅くなるのも行けないので、練習を切り上げ二人で帰路に着いた。当然、自転車は手で押している。


 「便利ではあるが難しいものなのだな」


 「コツを掴めばすぐ乗れるさ」


 すると突然、隣を歩くミアが脚を止めた。


 「あ、いやいや。みんな最初は苦戦するから…」


 楓は必死に慰めの言葉をかける。ミアの表情は変わらないので、その感情を読み取ることは出来ない。落ち込んでいると思ったのは、ただの推測でしかないのだ。


 「君には世話になってばかりだな」


 「そんな事無いって」


 「礼がしたい。気持ち程度だが私の家で茶菓子でも出そう」


 まさかの誘いだった。勿論断る理由は無いし、実はミアの新居に興味もあったので楓は二つ返事で了承した。




 物陰から二人を覗くグレアの胸中は穏やかではなかった。


 (私を差し置いてミア様に自転車を?)


 乗り方を教えていなかったのは、今後は何があろうと自分が車で送迎すると決めていたからだ。


 しかし、今回のように指示を受ければ断るわけには行かない。楓が居なければ自分が隣に付いて下校するつもりでいた。勿論、求められれば自転車の練習も。


 (あの子はいつも余計な真似ばかり)


 例えば、ミアの昼食が毎日同じクリームパンなのもきっかけは楓だ。それも、グレアが高級な材料を惜しみなく使用して調理した物ではなく、理由は分からないがスーパーの安物を好んで食している。


 いくら好きだからと言っても、主の口には相応しくは無い。当然、選ばれる美味しいクリームパンの研究は、今グレアが抱える大きな課題の一つとなっていた。


 「それにしても…いつの間にあんなに親しくなっていたのかしら?」


 いつも無表情で分かりづらいが、共に居る時間が長いグレアだからこそ感じるものがある。


 「ミア様があんなに楽しそうにされるだなんて」

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