表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が選ぶのは  作者: ぬしぽん
第二章
24/52

ep.22 彷徨う少女

 邪種を操る男達との戦いから1週間と少し。楓の身体に大きな怪我などは無かったが、熱が出てしまい寝込んでいた。なので今日は久々の登校になる。


 期間が空いてしまうと面倒なのは周囲への言い訳だ。事前に学校には休む理由も伝えていたし、担任からの説明はあった筈だが、実際に同級生達と顔を合わせると、やはり色々と聞かれる。ただの風邪だと伝える度に、がっかりというような反応をされるのは癪に障が、それでも皆と会って話せるのは嬉しい事ではある。


 そう言えば、同じクラスと言えば気になる人物がいた。戦いで意識を失った後に見た夢。夢の事など普段はすっかり忘れてしまうが、あの夢だけは何故だか鮮明に覚えている。しかし、肝心のその人物の姿は教室内には無かった。


 (あいつ、今日はまだ来てないのか)


 普段の彼女は誰よりも早く登校している筈。実際に自分の目で確認したことは無いが、その姿を拝むために早起きして登校してくる生徒が爆増したのは有名な話だ。それを証明するかのように、1週間ぶりに登校して来た楓より、今だ姿を見せないミアの話題に夢中だ。それどころか‐


 「おまえが来たせいじゃないか?」

 「楓の病気が移ったんだ」


 等とイチャモンをつけてくる奴まで現れだした。本来なら体調不良明けで気を遣われる立場なのに。散々な扱いだ。


 そのまま彼女が姿を見せること無くチャイムが鳴った。事前連絡も無かったようで出席確認の際、担任の先生も驚いている様子だった。その後、家に電話をしても繋がらないと。


 ふと楓の脳裏に浮かんだのはあの廃墟だ。


 (そう言えばあいつの家の場所、廃墟になってたな。あれと何か関係が…)


 不思議な事にあの場所はミアの家だったり、廃墟だったりする。自分でもよくわからないが、あの日は廃墟だったし中に入って確認した。それにカリサという証人もいる。しかし、ミアが今日まで休んでいたという訳でも無いので関係無いとの結論に至った。



 そして放課後


  「やっぱり気になるな。行ってみるか」


 結局、ミアは学校に来なかった。楓はどうしても廃墟の事が頭を離れず、自転車に跨るとその目的地を自宅から、ミアの家だった森に変更した。


 それから十分程自転車を走らせていると、同じ学校の制服を着た女子生徒の姿を発見した。


 「…ミア?」


 何やら険しい表情で両手で広げた紙を凝視している。楓は自転車を降り、何事かと駆け寄った。


 「おーい。ミア…だよな?」


 両手に持っている紙を見るのを辞め、こちらへ顔を向けた少女はやはりミアだった。いつものように無視をされると予想していたが、意外にもこちらへ近づき声をかけてきた。


 「すまない。教えて貰いたいのだが」


 ミアが差し出してきた紙を見ると、そこには綺麗な線が引かれ、建物の名前や位置が記されていた。


 (これは…地図か?)


 自分がこの街をよく知っているというのもあるが、かなり親切丁寧に描かれている様だ。いや、この分かりやすさであれば子供にだって…


 「今はどの辺りだろうか?」


 この時、彼女が学校に姿を現さなかった理由を察し、楓は思わず絶句してしまった。


 「悪いが急いでいる。早急に頼む」


 信じられないが、ミアは至って真面目な様子だ。楓の想像が正しければ、時間感覚が常人とは懸け離れているとしか言いようがない。


 「いや…もう学校終わったよ」


 その一言を聞くと、ミアはゆっくりと目を閉じた。そして空を見上げると楓に背を向けるように振り向き、


 「そうか。感謝する」


 そう言い残し、地図を見ながら何処かへ歩いて‐


 「ちょっと待てい!」


 先程の地図に描かれた、自宅と思わしき場所とは明らかに違う方向へ繰り出すミアを止める。


 (そもそも、制服を着た高校生が平日に街中を歩いてたら、誰かしら声をかけてくるだろ。こいつは一体何処を彷徨っていたんだ)


 もう一度地図をよく見せてもらい、目的地を確認する。すると自宅と描かれている場所があの森では無い事に気がついた。


 「引っ越したのか?」


 「ああ。あの場所は不便だとグレアが」


 「まぁ、確かに。学校までも遠かったからな」


 (…グレアさんか。今は同居してんだな)


 以前出会った黒髪の綺麗な女性の姿が思い起こされる。あの時は何者かわからなかったが、一緒に暮らしているということは、余程親しい関係なのだろう。


 「ここからだと20分以上はかかるな。疲れただろ。俺の自転車乗っていいぞ。走って付いていくから」


 朝から今まで歩いていた筈だ。あまりに気の毒なので、出来る限りの気遣いとして自転車を貸し出す。しかし‐


 「…」


 数秒経過しても、ミアからの返答は無かった。差し出された自転車を見つめ続けるだけだ。そこで楓はある仮説を立てる


 「もしかして…自転車乗れないのか?」


 彼女は今までどんな生活を送ってきたのだろうか。



 〜


 「そうそう。片足ずつな。無理すんなよ」


 楓はミアの乗る自転車を後ろから押していた。今日一日で乗り方を習得させるのは不可能なので、苦肉の策として脚でバランスを取らせながら進んでいる。歩くよりはマシだろう。


 「成る程。自転車か…確かに徒歩より快適だ」 


 「そいつはよかった」


 人によっては恥ずかしいと思える格好だが、ミアは不満を感じてない様子で安心した。既に街中なので奇妙な目でこちらを見てくる人達もいるが。


 数十分も人を乗せた自転車を押しながら進んでいると、流石に息が切れ始める。すると、ミアがこちらをチラチラと伺っている事に気がついた。


 「はぁ…はぁ…どうした?」


 口調などで感じ取りにくいが、ミアも年頃の女の子だ。体重などを気にしてるのかもしれない。露骨に疲れた姿を見せるのは良くなかったか


 「イノウエカエデ」


 「え」


 「感謝する」


 こちらから表情を見ることは出来なかったが、何故だか笑っているような気がした。無表情の顔しか普段見せない彼女からは想像もつかないが。


 その後、無事にミアを家まで送り届け、楓も帰路に着いた。




 〜


 グレアが帰宅し、自宅にある固定電話を確認すると、不在着信が何件も入っていた。番号を見るにどれも学校からだ。


 「ミア様。学校から何件もの連絡が届いているようですが、これは一体…」


 今日は朝早くから予定があり、いつものように車で主を送迎することは出来なかった。その代わり地図を作成し、何日も前から予行演習を繰り返していたので抜かりは無い筈。


 それ以外に、何か不測の事態にでも巻き込まれてしまったのだろうか。


 「グレア」


 「はい」


 ミアが静かにカップをテーブルに置くと、神妙な面持ちで側に立つグレアへと顔を向けた。


 「自転車…というものを知っているか?」


 「はい。存じております。」


 自転車?自転車が一体何を…


 「あれは素晴らしいものだな」


 「ミア様のおっしゃる通りかと」


 以前、車に初めて乗った際も驚いていたが、確かに自転車は革新的な移動手段だ。主が感心するのも頷ける。


 「あの乗り物があれば、今日のように遅れを取ることは無かっただろう」


 「そ、そうでしたか!即座にご用意致します!」


 (確かに学校まで10分程度とはいえ、歩くというのはお身体に負担がかかる。私の考えが甘かった…)


 何があったのかまでは分からないが、自転車を求めているという事はひしひしと伝わってくる。グレアは、自転車に乗る他の生徒達を羨ましそうに眺めている主の姿を想像し、痛ましい気持ちになっていた。


 まだお店が空いている時間なので、その日の内に二人は街の自転車屋へと繰り出した。グレアが勧めた電動自転車では無く、ミアが選んだのは安価なママチャリだった。


 後日、学校からミアが欠席していたと聞き、グレアは更に自己嫌悪に陥った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ