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君が選ぶのは  作者: ぬしぽん
第二章
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ep.20 夢の中の人物

 辺り一帯には草木が生い茂るのみで、町や建物等は見られない。それどころか、森のように身を隠せるような場所でも無く、見晴らしのよい平坦な大地が続いている。とても人が暮らしているとは思えない。


 案内されるがまま馬車を降り、とりあえずは目の前の金髪の男に合わせ歩き出す。膝をつき頭を下げていた兵士達は、距離を取りつつ行進のようにその後方を歩き始めた。


 (この夢の中の俺はどんな設定なんだ?隊長とかかな?)


 現実に戻れる気配は無いが、明らかに自分の居た世界とは違う。そんな事を考えていると、突然目の前の金髪の男が脚を止めた。目的地に着いたようだ。


 「少々お待ち下さい」

 「あ、はい」


 待機していると、兵士の二人が目の前の地面の砂を手で払い始めた。すると砂の中から扉のような物が見え、兵士達が金具を穴に差し込み扉を引き上げると、地下へと続く階段が続いていた。


 階段を降りた先の通路は意外にも広く、人が横一列に五人程で並んでも余裕があるくらいだ。進んでいくと更に広い開けた空間があった。


 どうやらここが居住区になっているようで、地面にはいくつもの布が敷かれている。布の上で横になる者、焚き火で暖をとる者、現実世界で見るホームレス達の生活に近いな。と楓は感じていた。


 こちらに気がついた数名の男女が近づいてくる。皆、武装はしておらずで身軽な装いだ。


 「アレス様。外でお出迎えする事が出来ず、申し訳ございません」


 代表者なのか、先頭の男が謝罪の言葉を述べ頭を深々と下げた。続くように他の者達も頭を下げ始める。よく見ると皆の衣服には血が滲んでいるし、手や脚には布が巻かれている。楓はこの場所にいる人達が皆負傷者である事を理解した。


 「いや、そんなの気にしなくても…」

 「アレス様。行きましょう」


 気遣う言葉をかけようとしたが、金髪の男に促されこの場を後にした。振り返るとまだ頭を下げているし、横になっている者達も必死に身体を起こしこちらを見守っていた。


 そのまま洞窟の奥へ進むと、入り口に布が掛けられている部屋へ案内された。中からは何やら話声が聞こえてくる。金髪の男が布を横にやると、室内の中央には石の机が見え、その周囲を木製の椅子が囲んでいた。中で談話をしていた四人の男達はこちらに気付くとピタリと会話を止め、席を立ち頭を下げた。


 「アレス様。こちらへ」


 用意された椅子に腰をかける。辺りを見渡すと壁には地図のような絵が描かれている布が掛けられていたり、旗のような物が立てられている。それと槍や剣などの武器がいくつか。室内を観察していると、男達が何か待っているようにこちらへ視線を送っている事に気がついた。


 「あぁ、お前達も座ってくれ」


 指示を聞いた男達が椅子に座り始める。楓は肝を冷やした。明らかに夢ではあるものの、この雰囲気の中、ふざける気にはなれない。なので、とりあえず偉い人っぽく振る舞う事を心がける。


 「それでは報告を」


 一先ず自分が話さなくても、金髪の男が進行してくれそうな様子に楓は安堵する。そのまま髭の生えた男が手を上げ報告を始めた。


 「では私から。都市の者達は既に加護の侵食が始まっており、支援や援軍は見込めない状況でした」


 余程悪い知らせだったのか、その報告を聞いた金髪の男の顔が青ざめていく。


 「そうでしたか…ですが、皆さまが無事に戻られたのは幸いでした」


 「ええ。それに都市を出る際も最大限の警戒と注意を払いましたので、ご心配なきよう」



 「以上の事から、五日後の襲撃に随行出来る兵は、この拠点にいる私共も含めた七十四名になります」


 「偵察からの報告によると、神殿は三万の兵が守護にあたっており、その内、高位の者が五百人程。装備までは把握出来ておりません」


 「無論、アレス様に敗北はあり得ませんが、私共はこの通りで…お手を煩わせしまうことをお許しください」


 一区切りついたのか、金髪の男がこちらへ視線を向ける。


 「アレス様。いかが致しましょう?」


 (いかがって。そもそも俺アレスじゃないし。神殿を襲撃って。この人達テロリスト…?)


 物騒な内容なので迂闊に返すことは出来なかった。とりあえず時間を稼ぐために、腕を組み天井を見上げる。だが、何も浮かばない。


 「わかった。私も死力を尽くそう」


 とりあえず険しい表情を作りそれっぽく返事をしてみると、おおっと男達から声が上がった。納得してくれたようだ。


 「しかし、唯一の懸念は奴ですね」


 金髪の男がそう呟くと、皆が緩んだ表情を引き締めた。奴とは誰のことなのだろうか。


 「あぁ。目撃したとの報告はまだ上がって無いが、侵食が広がっている様子を見るに、既に目覚めている可能性はある」


 「もし奴が現れた場合は…」


 〜


 またついていけなさそうな話題が…


 「会議中失礼致します。ご報告させて頂きたいことが」


 すっかり会話に置き去りにされた楓を助けるかのように、部屋の外から室内へ声がかかる。とりあえず他の者は返答しないようなので、自分が対応する事にした。


 「あぁ。入室を許可する」


 鎧を着た一人の兵士が部屋に入ると、即座に報告を始めた。


 「イリア様がお見えになりました。現在、拠点の外で待機して頂いております。お連れしてもよろしいでしょうか?」


 兵士の報告を聞いた途端、

 なんと! 彼女が同行してくれるなら…!

 等と他の男達からざわざわと声が上がり始めた。

 しかし楓はというと‐


 (次から次へと…まだこの部屋にいる人達の名前すら知らないのに…)


 より状況が複雑になることを危惧し、頭を抱えていた。自分より上の立場の人物であれば、これまでのような無口キャラでの誤魔化しは通用しない可能性が高い。


 だが、周りの反応からしても拒否する選択肢はなかった。もう流れに身を任せるしかない。


 「そうか。では連れて…」


 「うふふ。我慢できずに来てしまいました」


 楓の言葉を遮り、止めようとする兵士達を押しのけながら、一人の女性が部屋の中へと入り込んできた。唖然としている周囲の男達を気にも止めず、楓の前まで歩を進めると片膝を付いた。


 「アレス様。お久しぶりです。此度の侵攻、このイリアもご一緒させて頂きます」


 青みがかった髪を腰まで伸ばした、若い女性だ。どうやら危惧していた上の立場の人間では無く、部下のようで楓は一先ず安心した。


 「あ、あぁ。久しぶりだな。ありがとう」


 声をかけられたイリアは顔を上げ、こちらを数秒見つめると、胸の隙間から赤い宝石の付いた指輪のような物を取り出し‐


 (どこから出してんだよ)


 動揺している楓を余所にイリアが説明を始める。


 「こちらは神殿勢力の拠点から入手した宝具です。いざという時にお使いください。2名までなら即座に遠方へと転移出来ます」


 楓が受け取るために手を出すと、イリアは両手でそっと包み込むように指輪を握らせた。その妖艶な微笑みと思わせぶりな振る舞いを見せつけられ、思わず顔を背けてしまう。


 「うふふ。アレス様が私にそのような反応をして下さるなんて。光栄です」


 (やばい。この人めちゃくちゃ俺のタイプだ。どうして夢なんだ…)


 楓は実のところお姉さんタイプな女性が好みで、ミアかグレアかで言えばグレア派だった。


 「それと。アンディもこちらへ向かっております。二日後には合流出来るかと」


 イリアのその言葉で、室内は歓喜に包まれた。勿論楓にはその意味を理解出来ないが、雰囲気的には勝ち確定演出みたいな感じだろうかと予想をする。


 しかし、浮ついていた空気も一変。突如として鐘を鳴らす音が地下全体へ響き渡り、何事かと皆が立ち上がった。


 『敵襲!敵襲!』


 この拠点が何者かの襲撃を受けていると理解し、即座に皆の視線が室内にいる一人の人間へと向けられる。当然この状況で疑われるのは…


 「イリア…まさか貴様が!」


 「違うわ。私がアレス様を裏切るとでも?」


 楓からしても明らかに彼女が怪しいと思うが、不思議な事に、他の者達はその一言のみで納得した様子だった。


 「だが、お前に気づかれず尾行出来る者など…」


 その刹那、何かを思い出したかのように部屋にいる全べての人間がピタリと止まる。しかし、それはほんの一瞬ですぐに我に返り行動を始めた。

 

 「不味い!アレス様をお守りしろ!」


 髭の男が叫んだと同時に地震が起きた。立っていられないほど激しい揺れで、前が全く見えない。


 大地の揺れが収まると、男達は次々と武器を取り出し楓の周りを囲んだ。砂埃で前がよく見えないが、地下なのに日が差しているかのような明るさを感じる。


 実際、見上げてみると青い空が広がり、太陽も差し込んできていた。


 (天井が…消えた!?)


 日差しを手で遮りながら目を凝らすと、地上からこちらを覗く一つの人影が見えた。そしてその人は重力を無視するかのように地上からゆっくりと地下へ舞い降りてくる。


 音すら立てずに着地したその人物を凝視すると、それは楓のよく知る少女と同じ顔をしていた。‐


 「あれは…ミア?」


 少し幼い気もするが、あの少女はミアによく似ている。確かめる為数歩近づこうとするも、部屋の外で待機していた数十人の兵士達が駆けつけ、少女と楓の間を隔てるように配置についた。


 「イリア様!宝具で今すぐアレス様と転移の準備をしてください。私達が一秒でも時間を稼ぎます!」


 金髪の男が早口で指示を飛ばすと、それを遮るかのように他の男達も声を上げた。


 「待て!罠の可能性がある。イリアの疑いは晴れていないのだぞ」


 「今は議論している場合ではありません!」


 反論を聞き、男達は観念したように口を閉じた。


 そして金髪の男がこちらを振り返り、優しく微笑むと


 「アレス様。貴方は人類に残された唯一の希望です。どうかご無事で」


 そう告げ、ミアに似た少女の元へと駆け出していく。他の兵士達も続々とそれに続いた。


 「お前達ちょっと待て!そいつはミアかも…」


 彼等に声は届いていない。兵士達は容赦なく少女に斬り掛かっていく。止めに入ろうとするも側で護衛している兵士達に強く制止される。これまでの余裕な態度とは一変、彼女の焦りが伝わってくる。


 「アレス様!直ちに撤退を!」


 イリアは楓の指から宝具を抜き取り、取り付けられている宝石を砕くと景色が歪み始めた。


 少女に斬りかかる兵士は次々と姿を消し、変わりに赤い羽毛のような物だけがその場に散る。


 「なんだよあれ…ミア!」


 転移が始まったのか身体が光に包まれて行く。世界と切り離される直前、少女と目が合った気がした。しかしそれ以上は見ること無く、転移の光で視界は塞がれた。



 「…変な夢だったな」


 目を開けると、そこはよく知っている天井。楓は妙な夢から目覚め、現実へ帰還した。

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