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君が選ぶのは〜過去と未来の勇者〜  作者: ぬしぽん
第一章

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ep.1 自転車と楓

 6月17日火曜日。午前6時40分。


 空は晴れ渡り強い日差しが地面を照らしていた。


「うぉおおお!」


 まだ人通りは少なく閑散とした雰囲気の街中で、何やら騒々しく自転車を走らせる1人の青年の姿があった。


 身長は170半ばくらいで細いとは言えないが、屈強とも言えない。平均的な体型の範囲内だ。前髪は目の上ギリギリまで伸ばし、こだわりはありそうだがセットなどは一切していない。自転車のカゴには大きな袋が乗せられている。制服を着ている姿を見るに高校生といったところだろうか。


 「楓ー!遅刻する時間でも無いし、何をそんなに急いでんだー!?」


 朝の開店準備をしていた、顔馴染みの八百屋のおじさんが青年に話しかけた。


 「おばさんに差し入れー!」


 簡潔に最低限で伝わるよう答えた。ゆっくり返事をする程の余裕は無い。見た通り急いでいるのだ。


 午前7時25分


 「おばちゃん!大丈夫か?食べ物とか持ってきたぞ」

 

 青年は肩で息をし、滝のような汗を垂らしながら、自転車のカゴに乗せて運んできた荷物を、玄関のドアを開けて出てきた女性に手渡した。

 

 「あら〜!楓くん。わざわざありがとね」


 この楓と呼ばれる青年、井上 楓は幼い頃からお世話になっているおばちゃんが体調を崩したとの噂を聞き、食料と生活用品を届けに来たのだ。街外れの山奥での生活は何かと不便だろうと、いつも気にかけている。車も持ってないなら引越したほうがいいと親族の人達から何度も説得されているが、頑なにここに住み続けてるようだ。


 「はい。お駄賃」

 

 おばちゃんが財布からお金を取り出し、楓に差し出した。家族でもないのに息子や孫のように扱ってくれる天使のような存在だ。


 「いや、そんなのいらないって」


 勿論遠慮する。お礼が欲しくて来たわけじゃない。心の底からおばちゃんの事が心配だったから来たのだ。このお金を受け取ってしまうのは、そんな自分の気持ちを嘘にしてしまう気がした。


 「子供が遠慮するんじゃないの!」


 結局、おばちゃんの覇気に圧倒され受け取ってしまった。天使のような存在とは言ったものの、おばちゃんは昔から怒らせるとかなり怖いのだ。10歳の時、調子に乗っていたら徹底的に〆られ、二度と怒らせないようにと自分自身に誓いを立てた。


 「なんか多くない?半分でいいよ」


 貰ったお金は食料の費用を引いても明らかに多い。こんなに貰えるのはお年玉くらいだろう。


 「妹ちゃんの分も。2人で分けてね」


 楓は納得したように振る舞いはしたが、今回はあいつなにもしてないだろ。そもそも寮生活で家にすら居ないし。とモヤモヤした感情をお金と一緒にしまっておくことにした。


 「じゃっ!時間ないからもう行くわ!」


 長居をしている場合では無い。自分は高校生で今日も普通に学校があるのだ。ここに寄ったせいで遅刻なんてしてしまったら、おばちゃんに罪悪感を与えてしまうかもしれないし、絶対に遅れるわけには行かない。


 「気をつけてー!」


 声をかけてくれたおばちゃんに手を振りながらその場を後にした。体調が悪く辛いだろうに。寧ろ迷惑だったかな?と心配になってしまう。


 午前7時40分


 少し時間をロスしたが来た時とは違い、帰りは下り坂のみ。全力を出せば学校まで40分もかからないだろう。それに汗だくで教室に入るのはごめんだ。彼女はいないが、女子達からモテるという望みはまだ捨ててない。ペダルを漕ぐ脚を止め、今流れている汗を乾かすように風を浴びる。


ビー、ビッビーー!!


 心地の良かった気分から一転、前方からの特大なクラクションの音で肩が跳ね上がった。完全に気を抜いていて正面からトラックが来ている事に気が付かなかった。ここは車がすれ違えないような一本道だ。車なんて滅多に通らないから完全に油断していた。


「危なっ!って…うわあぁああ!」


 自転車のハンドルを切りなんとかトラックは躱せたものの、その勢いのまま道路から外れ、楓は坂を転がりながら森の中へ落ちていった。


 自転車は吹っ飛び身一つで坂道を転がり続けた。森の中をこれだけ転がってるのに木の1本にも引っかからないのはどうゆう奇跡なのだろうか。こんな状況でも何故か冷静な自分がいることに驚いた。


バキィッ


 何かに当たった衝撃と何かを破壊した音が聞こえた。ひとまず坂道と転がり地獄から生還出来た事に安堵したが、目がまわってしまいすぐには状況が掴めなかった。


 「ふぅ。死ぬかと思ったー…」

 

 しばらくしてゆっくりと立ちあがり、自分の全身をチェックするように動かしてみた。とりあえず打ち身程度で目立った外傷はなく、捻挫などもしていないみたいだ。自分の頑丈さに惚れ惚れする。


 「あちこち痛みはあるけど、血がちょっと出てるくらいか。さて‐」


 辺りを見渡すと今いる場所は廃虚の中のようだった。どうやら壁が腐っていて転がってきた勢いでそのまま突き破る形で入室してしまった。


 外に出て見ると、意外にも辺りは整地されていて、開けた道路に出るための道もあった。人が通らない森の中を転がって、ここにたどり着けたのは奇跡だろう。離ればなれになった自転車も発見した。めちゃくちゃな状態ではあるが。


 (これ土地の所有者の人に絶対怒られるよな…)


 怒られるのは勿論嫌いだし、何より他人に迷惑をかけてしまうのが心底嫌いだ。故意では無かったとしても、罪悪感の気持ちでしばらく心が埋め尽くされてしまう。廃虚に見えても誰かの所有物を壊してしまったのなら弁償の可能性だってある。


 「すみませーん!誰かいますかー!?」

 

 人の気配は無いが一応確認してみる。廃虚のように見えても普通に人が住んでる事だってあるし、もしかするとホームレスが雨風を凌ぐ貴重な寝床にしているかもしれない。もし人がいた場合、謝らずこの場を去ってしまったらなら逃げたと思われるだろう。


 「すみませーん!」


 返事は無い。誰もいないようだ。もう帰ってもいいか。そう思った矢先、棺桶のような形をした箱が目に入った。埃を被っていて確信は持てないが、おとぎ話等で出てくる吸血鬼がこんなのに入ってた気がする。


 「吸血鬼は無いだろうけど。死体とか入ってないよな…?」


 人のものに勝手に触れるのは勿論駄目だ。中が空だったらなんの問題も無いし。ただ、万が一死体が入ってた場合、自分がここにいた証拠もあるし、確認せず放置は不味い。もしもの場合はすぐに警察に通報しなくては。気付か無かったことにして去っても良かったが、楓は冷静なように見えて実はかなりパニック状態だった。


 「ちょっと覗いてみるだけ。何もなかったら戻せばいいし」


 緊張で震える手を、棺桶と思わしき箱に伸ばした。正直かなり怖い。指先が触れたその瞬間、頭上から強い衝撃を受けた。本人は理解していないが、横にあった本棚が崩れ落ち、倒れてきたのだ。楓はそのまま棺桶に倒れ込み意識を失ってしまった。



 午前9時30分


 「ここ何処だよ…」


 気がつくと、楓は豪勢なベッドの上で目を覚ましていた。辺りを見渡すと、壁や家具等の内装もとても立派で、映画やドラマでしか見たことの無いような高級感溢れる一室だ。意味がわからない。


 「俺、確かに廃虚に居た筈だよな」


 夢か現実かでパニックになりそうだが、全身の痛みがこれまでの出来事が全て夢では無く現実である事を訴えていた。

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