ep.11 好みの味
ミアが転校してきてから一週間が経過したが、俺の学校での生活は意外な程に平和だ。というのも彼女は住んでる世界が違うというか、生徒達からは近寄りがたい存在となっている。かといって疎外されているという訳ではなく皆憧れの眼差しで遠巻きに見ているだけと言ったところだろうか。
いたたまれない気分になった俺が、一方的に話しかけても相変わらず無視されるだけ。
いい加減ミアちゃんとの関係教えろよ〜
「知らん」
いつから知り合いだったの?
「知りません」
毎日こんな感じだ。既にミアの関係者としてクラスの奴らからは認知されている。皆彼女に直接話しかけられないので、俺は窓口みたいな扱いだ。妬みや僻みを向けられるよりは幾分マシだけど、興味本位で近寄られるのもいい気はしない。それに-
(不法侵入した家で会いました。なんて言えないよ…)
奇妙な出会い方をしたのもあるし、そもそも無視され続けているので会話という会話もしていない。顔を知ってるくらいの関係性でそれ以上の事は、知らないと答えるしか無いのだ。
居心地の悪さでたまらず教室を飛び出した。以上の理由から、ここ数日は教室では無く食堂の隅で昼食を取るようにしている。
(あ、末藤だ!)
食堂までの廊下を歩いていると、末藤の姿が見えた。相変わらず歩いてるだけで凄い威圧感。
「おっす」
「あ、誰だ?」
「おれおれ。この前ぶつかった」
「あぁ、小林の…なんの用だ?」
末藤のただでさえ悪い目つきが更に鋭くなった。ただ、不思議と敵意全開な雰囲気では無いのが気になる。
「この前のお詫びといっちゃなんだけど、ほれ」
ここぞとばかりにポケットの中に忍ばせておいた飴玉を差し出した。勿論この為に用意していた訳では無いが、偶然入っていたので利用しない手は無い。
「お前…いい奴だったんだな」
「いやいや。この前はごめんな」
キレられる可能性もあったが意外にも好感触だ。賭けに出てよかった。わざわざ思い出させる必要は無かったかも知れないが末藤には一つ聞きたい事があった。
「そう言えばカリサって人知ってる?」
「なんだそいつぁ?」
「神器科に新しい生徒か先生来てない?」
「記憶にはねぇな」
「そうか」
では前に学校を訪ねてきたカリサと名乗る女性は何者だったのだろうか。生徒か誰かの親族なのかなと推理してみる。
「俺は知らねぇが、他の奴らに聞いてみようか?」
「いや。そこまでは大丈夫」
少し気になっただけで、わざわざ動いてもらう程ではない。引っかかるものはあるが深入りする必要は無いだろう。
「そういやよ…小林は親友だったんだろ?」
「…あぁ」
「なんつーか…その」
「…」
『末藤はああ見えて悪いやつじゃ無いんだ』
ふと、かつての親友の言葉が脳裏を過った。
(瞬のフィルターが掛かってた訳じゃなくて、本当にいい奴だったんだな)
あの時は瞬がお人好しだからと片付けてしまったが、話してみると協力的だし友達になれそうな気すらしてくる。
「気にすんな!あいつは脚が無くなった程度で駄目になる男じゃない」
「そうだよな。お前も頑張れよ」
そう励ましてくれた末藤と手を振って分かれた。人間見た目で判断しては行けない。とはこうゆう事だったのかと改めて自分に言い聞かせた。
〜
放課後、ミア邸のリビングにて
「例の少年を見張る二人組の姿を捉えました」
グレアがテーブルの上に写真を一枚置いた。いかにも怪しげな二人の男の姿をはっきりと捉えている。
ミアはカップを置くと無表情のまま口を開いた。
「この者たちの目的は?」
「そこまでは確認出来ていません」
「少年やこの街の人間達に対し、友好的とは言えないのだな?」
「恐らく。先日、邪種を街の人間に差し向けているのも確認しています」
グレアは淡々と答える。勿論、主がしてくるであろう質問は前もって予想していたし、最初に全ての情報を開示しておくのが出来る部下の姿なのであろうが、あえてそうしないのは認識のズレを最小限まで抑える為だ。
「あれを街中に放ったのか?被害は?」
「知ってか偶然かは定かではありませんが、狙われたのはロイヤルから派遣された者のようでして」
「そうか。彼等も…」
グレアは神妙な面持ちでミアの顔を伺う。現状を考えると目立つ行動は極力するべきではない。しかし主の命令は絶対だ。
「理解した。そのまま監視を続けてくれ」
「はい!」
日課の報告タイムが終わり、張り詰めていた空気も緩んだ。グレアはいそいそと席を立とうとしたが、主の手を小さく前に出す動作を察知し立ち上がるのを一時中断した。
「ミア様…どうなさいました?」
緩んだ空気をもう一度引き締め直す。自分を呼びとめるだなんて、余程の事情があるのだろう。次第にグレアの表情も強張っていく。
「しうクリームと言う食べ物を知っているか?」
「…はい?」
予想外のセリフにグレアは自分の耳を疑い、つい主からの問いかけを聞き返してしまった。
「クリームパンより美味だとあの少年が言っていた」
(あぁ、シュークリームの事か)
あれからミアはクリームパンが気に入ったようで、学校には毎日クリームパンを持参している。何度も説得を試みたが一蹴された。朝と夜の食事でバランスは取れるように工夫してはいるので問題ないと言えばそれまでだが。
「彼がそこまで言うなら試してみたい」
「かしこまりました。たい焼き。と言うものも加えてご用意致します。そちらもお気に召されるかと」
「ほう…それは楽しみだ」
カスタードがお好みなのかもしれない。そこまで思い至らなかった自分の不甲斐無さ、楓という少年にまた一歩先を越されたという悔しさ。グレアは溢れる感情を抑え込むように歯を食いしばり、主に頭を下げた。




