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「わたしの声が届く場所」

作者: リコピン
掲載日:2025/10/23

部屋の片隅で、小さく深呼吸をする。

今日は、練習にならなかった。

何度やっても、言葉がうわすべって、心が置いてけぼりになる。


録音した自分の声を再生する。

滑舌は合ってる。抑揚も、悪くないはず。

でも、なんでだろう。


「わたし」の声なのに、全然、胸に響いてこない。



──ねぇ、本当に私、この道を選んでよかったのかな?



ふと、机の上のオーディション資料に目がいく。

明日、送る予定だったもの。

でも、まだ“録り直す”のボタンに指がかかってる。


「この役を、自分の声で演じてみたい──」


そう思ったはずだったのに、

誰かに見透かされるのが怖くて、声が震える。


上手くなりたい、じゃなくて、

嫌われたくないって気持ちが先に出てしまう。


──こんな私の声なんて、届かなくても仕方ない。



……そう思ったのは、これが初めてじゃない。



そうだ、あのときの放課後の教室。

チャイムが鳴っても、私はずっと席を立たなかった。


別に、いじめられていたわけじゃない。

でも、誰かと話すたびに、自分の声だけが浮いて聞こえた。


明るく振る舞えば振る舞うほど、無理してる自分が透けて見える気がして、そのたびに、胸の奥がきゅうっと縮んだ。


しゃべらなければ楽かもしれない。

でも、黙っていれば、“何もない人間”みたいで怖かった。


机に突っ伏して、じっと息を潜める。

誰かに話しかけられることも、もう期待していなかった。


(……いなくなりたいわけじゃない。

でも、このままじゃ、どこにもいられない気がする)


そんなことをぼんやり思いながら、

なんとなくスマホを取り出して、アニメの見逃し配信を再生した。


登場人物が、ぐしゃぐしゃに泣きながら、声をふりしぼる。



「消えたいとか、そんなんじゃないの……」


「でも……ここにいていいよって、だれかに言ってほしかっただけなの……!」



その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。

まるで、自分の気持ちをそのまま代わりに言ってくれたみたいで。


──そして、次の瞬間。やさしい声が重なる。



「だいじょうぶ。ちゃんと見てるよ。君のこと」



その一言で、涙があふれて止まらなくなった。



アニメなのに。台本なのに。

でも、確かに届いた。

あのときの私に──ちゃんと、届いてしまったんだ。


名前も知らない、会ったこともない誰かの声。

なのに、心のいちばん奥に届いて、

ああ、声って──こんなふうに、人を救えるんだ。


そのとき、初めて思った。


いつか、自分も、誰かの心に寄り添える声になりたいって。



──あの日の涙が、今も胸の奥に残ってる。



もし、誰かが耳を傾けてくれたなら。

たった一人でも、「その声、好きだよ」って

言ってくれたなら──


その瞬間だけは、世界に存在していい気がする。



スマホに繋いだマイクの前に座り直す。

何度もリテイクを繰り返して、喉が少しだけ枯れている。

でも、まだ言えてない言葉がある。


「わたしは、ここにいるよ」って、

心の底から叫んでみたくなった。


たとえ届かなくても。

たとえ選ばれなくても。

これが、私の声なんだって、ちゃんと信じたくて。


録音ボタンを押す。

少しだけ笑って、息を吸い込んだ。


「はじめまして──

わたしは、森野つむぎです。声優を目指しています」



「たったひとりでもいい──

あなたの心に、ちゃんと声を届けたいです」




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― 新着の感想 ―
つむぎちゃんの今後を楽しみにしています(*´ω`*)
心にすごく響く作品でした。BUMP OF CHICKENのコロニーを聴きながら読んでいたのですが、それもあって目が潤んでしまいました。 私の朗読も誰かに届いてるのかな。 誰かの心を震わせるって本当…
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