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闇の帝王の前に引き出されたルフィトリアの運命は如何に?

第九話


「おお、これはこれは、ルフィトリア姫、実に美しい。わが闇の帝王の妃に相応しいぞよ」

 真っ黒いフードを深くかぶり、黒マントに身を包んだ帝王は、玉座からルフィトリア姫を見下ろした。

 カンダに連れてこられたルフィトリアは身を清められて、純白のドレス姿で闇の帝王の前に立たされていた。

 そのかたわらには、カンダが紫の衣服に身を包み、腰に聖なる剣を下げて不敵な笑みを浮かべていた。

「誰があなたの妃になんかなるものですか」

 ルフィトリアはきっぱりと言い放った。

「うおほほほっ、その気の強さこそ貴重である。気に入った。それでこそ、わしは永遠の命を手に入れることができるというものじゃ。今夜、月が中天に昇るころ、わしと姫がまぐわう時、わしは昼と闇を支配する永遠の帝王となるのだ」


 ルフィトリアはぞっとした。

 フードからちらりと覗く顔は、まるでミミズが這ったように皺くちゃで、一目見て死神とおぼしき醜悪さだった。

「死んでも嫌です」

 ルフィトリアは断固拒否した。

「さあ、それはどうかな。連れて来い」

 闇の帝王の命令に背後のドアが開いた。

「あっ、お父様!」

 魔法の王国の王であるルフィトリアの父が、破れた衣服の上からぐるぐると鎖に巻かれて闇の狩人の一つ目頭目に引っ張られるようにして引き出されてきた。

「もし、姫が拒否すれば、王の命はない。それにだ、彼からは魔力を奪ってある。生き返らせることはできないぞ」

「卑怯な」

「わははは、闇の帝王とはどんな卑怯な手も使うものだ」

「闇の帝王よ。魔法の国の王にはこのカンダに与えたまえ」

 カンダは聖剣を引き抜くと、王の首に当てた。

「いいだろう。好きにせい」

 闇の帝王が頷くと、カンダは剣を振り上げた。

「ううう、お父様……」

「無念だ。もはやこれまで。わしは王妃の元に参る。ルフィトリアよ。達者でな」

 王は無念そうに娘をみた。その目には涙が溢れていた。

 王妃が失踪し、今また娘を闇の帝王に蹂躙されるのが見るに忍びないのだ。生きてその屈辱を味わいたくなかった。


「待って! どうか、父の命をお助けください」

 ルフィトリアは涙ながらに膝まずいた。

「わははは、いいぞ、それでいいのだ。今夜が楽しみだ」

「闇の帝王よ。約束通り。わたくしカンダにこの王国の王冠を」

 カンダは剣を鞘におさめて頭を下げた。

「好きにしろ」

 カンダは王の頭にあった、王冠を取り上げると自分の頭にかぶせた。

「これから、わしがラムミリア王国の王なるぞ」

 カンダは誇らしげに胸を張った。


「ふざけるな! てめえは、ゲス野郎だ。意地汚いどぶネズミだ」

 突然、罵声が王宮に轟いた。

「何、誰だ! その声は、ム・サ・シ」

 カンダは驚いた。 

 一方、ルフィトリアの顔がぱっと明るくなった。

 王の間のベランダに龍がズイと頭を乗り入れ、武蔵が飛び込んできた。

「ルフィトリア、大丈夫か。助けに来たぞ!」

「武蔵!」

「うわはははっ。これはこれは驚いたな。まさかここまでやってくるとはな。命が惜しくないのか」

 カンダは腹を抱えて笑い出した。

「何がおかしい。この裏切り者め。よくもルフィトリアをたぶらかしたな。絶対に許さん」

 武蔵はズカズカとカンダの前までやってきた。


 玉座に坐った闇の帝王は面白そうにこれを見ていた。

「ほう、許さんとな。どう許さんのだ」

 カンダは嘲笑った。

「一対一の勝負だ!」

 武蔵は灰色の剣を構えた。

「笑わせるな。なんだその汚い剣は。そんなものでわしに勝てると思っているのか」

「やってみなければわからない。さあ、来い。それとも怖じ気づいたか」

 武蔵の挑発にカンダの顔から笑いが消えた。

「愚かな奴め。おとなしくしていれば生きていられたのに。よかろう、覚悟するんだな」

 カンダは聖剣を抜いて、ゆっくりと構えた。聖剣は黄金の光を放ち始めた。もちろん、武蔵も得意の上段に構えた。

「ふん。ちょこざいな。くらえ!」

 カンダは剣を突き出した。武蔵を驚かそうと喉元を狙った。飛びすさるか、そのまま喉を突かれて死ぬかだ。

「キエーッ!」

 武蔵は烈迫の気合とともに、カンダの聖剣に上段から打ちおろした。

 カキーン。

 鋭い音とともに剣と剣がぶつかり、そこに銀色の光がきらめいた。


「なに! そんな馬鹿な」

 カンダの聖剣が武蔵の剣によって、ガッチリと受け止められていた。しかも、剣と剣が絡み合う場所からは銀色の光が目映いばかりに輝きを放っていたのだ。もちろん、それは金色の光の中に色濃く被さっているようだった。

「剣は見かけじゃない。これでどうだ」

 武蔵はくるりと聖剣をまわすと、グイと跳ねあげた。

「何っ!」

 カンダはのけぞった。

「ふっ、そうか。まさかとは思っていたが、やはりお前も光の騎士か。面白いじゃないか。新旧二人の光の騎士がそろったわけか。どうだ、わしとお前でこの国を治めるというのは」

「断る! ここはルフィトリアの国だ。勝手なことは許さない」

「ふん、青二才め。まあいいだろう。いずれこの国はわしが頂くのさ。さあ、いくぞ」

 カンダは体を沈めた瞬間、飛び上がって宙を飛び、黄金に輝く剣を上段から打ち込んできた。

「なんの!」

 武蔵は一歩も引くことなくガキッと受けとめた。カンダは力を込めるも、武蔵はびくともしなかった。

「なるほど。だが、わしの力はこんなものじゃない。見よ!」

 カンダの剣がまぶしく光りだした。目がくらんだ武蔵は目を閉じた。

「甘い!」

 カンダは武蔵の腹に蹴りを入れた。

「うっ」

 武蔵の体はズズーッと後ろに転がった。

 しかし、すぐに起き上がった武蔵は、われながら驚いていた。


 確かにものすごい力で腹を蹴られた。その衝撃で後ろにふっ飛んだのだが、少しも痛くも怪我もしていないのだ。いや、それよりも、力が体中に漲ってくるのを感じていた。


 龍が武蔵に言った通りだ。

「お前は光の騎士。そう信じるのだ。君が真の光の騎士なら力が湧き起こってくるのがわかるはず。固く信じれば信じるほど無限の力が出てくるはずだ」

 武蔵は再び剣を構えた。

「なんのこれしき。僕は光の騎士だ!」

 カンダにエネルギーを吸い取られるようなこともない。  

「今度はこっちから行くぞ」

 武蔵は、飛んだ。カンダの頭上から剣を打ち降ろした。

「食らえ!」

 ガシーン。

 すさまじい音と衝撃が走り、目も眩むような光が部屋中を満たした。

「むむむ」

 カンダの体が大きく揺れて足元の床が砕け散り大きくひび割れた。

「小癪な! トーッ!」

 カンダは剣を払い、武蔵に打ちかかった。

 武蔵は剣を縦横無尽に振るい丁々発止と打ちあった。

 ガキッ、カーン、ガシッ!

 剣と剣が火花を散らし、黄金の光と銀色の光が交差し、二人の剣劇は凄まじい気を放ち王の間がビリビリと振動した。


 王の間で繰り広げられる二人の光の騎士の戦いに、見とれている一つ目の闇の狩人の姿に気づいたルフィトリアは、そっと後ずさりして戒められている国王の背後に回った。

 国王は鎖で縛られて、一つ目の闇の狩人とその手下が鎖の元を握っている。

「ヤーッ!」

 ルフィトリアは、白いドレスを翻して、闇の狩人の背後から、角に置かれた花瓶を掴んで、後頭部に叩きつけた。

 グウエッ。

 鈍い音を立てて闇の狩人が目を剥いてルフィトリアをにらんだがそのまま床に崩れ落ちた。だが、一つ目の闇の狩人が、ルフィトリアに飛びかかってきた。彼女を背後から首に腕を回してグイグイと絞め上げてきた。

 だが、闇の狩人の体がふわりと浮いた。

「……?」

 闇の狩人には何が起こったのかわからなかった。

 ルフィトリアの首を締めていた腕がだらりとした。そのため、ルフィトリアは自由になった。


 なんと、闇の狩人の頭が龍に食われていたのだ。

 龍は闇の狩人をそのままくわえて外に放り投げた。狩人は悲鳴をあげて城から落ちていった。

「ありがとう。龍さん」

「いいんだよ。愛するルフィトリア」

「え!」

 龍の目は優しかった。目から涙が溢れている。

 

 ともかくも、父王の戒めを解いたルフィトリアだったが、闇の帝王はそれを見逃したわけではなかった。

 闇の帝王はフードの中から鋭い目を向けていた。武蔵がカンダと対等に闘っており、今、ルフィトリア王女が父王の戒めを解く姿を面白そうに眺めていたのだ。

 すっかりその力量を見極めたとでも思ったのか、彼は椅子から立ち上がった。

 長身の体から二つの手がニューと伸びて、ルフィトリアの腰に巻きつけてきた。

「キャーッ!」

 腰をきつく抱かれ闇の帝王のところに引っ張りこまれそうになった。

「あっ、ルフィトリアが」

 カンダと剣を交えて闘っていた武蔵は、闇の帝王がルフィトリアを捕まえたのを目の端に捉えていた。しかし、カンダは容赦なく打ちこんでくる。武蔵は剣を捌きながらなんとかルフィトリアを助けられないかと近くによろうとする。しかし、カンダは回りこみながらそのゆく手を邪魔する。

 ルフィトリアは闇の帝王の手に落ちたかに見えた。


 だが、突然、闇の帝王は燃え上がった。炎が帝王を包んだのだ。闇の帝王の伸びた手からルフィトリアは自由になって、弾みで床に転がった。

 なんと龍が炎を吐いたのだった。龍は勝ち誇ったように燃える闇の帝王を見つめていた。

 カンダも剣を引いた。

 闇の帝王がいなければ自分の立場もなくなる。


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