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聖なる剣を手に入れたカンダは、ついにその正体を現したのだった。

第七話


「ここが、聖なる山なのか……なんの変哲もない普通の山みたいだけど……」

 武蔵はただ高いだけの山頂を見上げた。

「おーい、武蔵! 何をしているんだ。こっちだぞ!」

「おっといつの間に……待ってくれ!」

 カンダとルフィトリアはすでに崖に沿って道なき道を登っていた。武蔵はあわてて彼らの後を追った。


「見ろ! 奴ら、ようやくやってきたぞ。飛んで火にいる夏の虫とはこのことだ。覚悟するんだな」

 闇の狩人の一つ目の頭目は、武蔵らの姿を認めると岩影に身を潜めた。そして、頭目は手下をそれぞれ所定の場所に配置した。百以上の闇の狩人は岩の影に身を隠していた。



「なあ、どこまで行くんだ。なんで龍を返しちゃうんだ。目的地まで飛んでいけばいいじゃないか」

 険しい岩場をヒョイヒョイと元老人とは思えない身軽さでカンダは登っていく。ルフィトリアもまたまるで飛ぶように岩から岩へ伝っていく。

(ルフィトリア王女はきっと魔法を使っているんだ。でなきゃあんな風に岩から岩へ飛べるわけがない。だけど、なんでカンダは身軽なんだ)

 武蔵は岩をよじ登り、危なく転げ落ちそうになりながら息を切らしてかろうじてついていった。

「もう少しだ。我慢したまえ。龍に関して言えばだ、ここは聖なる山の領域でな。龍にとっては死の山なんだ。見ろ、一つ一つの岩を」

 カンダは数十メートル上まで登ったところで、振り返って、岩を指さした。あんなに上にいるのにまるですぐ近くで話しているように声が聞こえるのが不思議だったが、もともとここは魔法の国だから武蔵がいた世界とは違うのだと納得しながら、足元を見た。確かに岩は灰色だが、よくみると、岩を造っている一つ一つの結晶のようなものが、グニュグニュと動いているではないか。

「ゲッ! 一体これは何なんだ?」

 武蔵は仰天した。

「はっはっは!これはな生き物なんだ。いわば食虫植物だよ。鳥も動物もなんでも食べてしまうのさ。気をつけろよ」

 カンダはニヤッと笑った。

「だけど、なんで俺たちは無事なんだ」

「ああ、言い忘れた。ルフィトリア王女が魔法をかけて守っているんだ。あまり離れると魔法が効かなくなるぞ」

「嘘っ、それを早く言ってくれ」

 武蔵は慌てて二人の後を追った。

「うぬっ! 待ち伏せだ!」

 突然、カンダが叫んだ。


 三人を囲むようにカラス姿の闇の狩人たちがヌッと現れた。彼らは例のごとく手に手に三つ又槍を持ち、迫ってきた。

「シマッタ。囲まれるぞ」

 ルフィトリアを真ん中にカンダと武蔵は身構えた。

「聖なる剣までは、まだ遠いのか」

 武蔵は声をかける。

「いや、すぐ近くだ」

 意外と、落ち着いた声でカンダは答えた。

「いいか、走るぞ。私について来い。遅れると奴らの餌食になるぞ」

 と言うが早いか、カンダは脱兎のごとく走り出した。

 ルフィトリアと武蔵も後を追う。闇の狩人も急速に迫ってきた。

 ビューン、ビューン。

 槍が耳もとをかすめ食虫食物に突きささる。食虫食物は、釣鐘状の突起から白い液体を吹き出し花びらに突き刺さった槍を溶かしていった。

「もう少しだ。あそこに飛び込め!」

 カンダは叫びながら大きな岩と岩の間にできたすき間に体を投げ出した。カンダの体は吸い込まれるように姿を消した。ルフィトリアも後に続いた。

 少し遅れた武蔵は土をけって穴に向かった。ところがルフィトリアが穴に姿を消したとたん、食虫食物が一切に花びらを広げて武蔵を飲み込もうと襲ってきた。

「やばい。ルフィトリアの魔法がきかなくなったんだ」

 武蔵はやっと地面を蹴って宙を飛んだ。そのまま穴に吸い込まれていった。


 武蔵に迫っていた闇の狩人は、食虫食物の触手によって捕らえられ動きを封じられたところへ、白い液体を吹きかけられた。すると、闇の狩人の体が、ジュワジュワッと溶けていった。食虫植物の花芯はそのエキスを貪るように吸い取っていった。

食中植物から逃れた闇の狩人たちは、次々と穴の中に飛び込んでいった。



「武蔵、急げ! もたもたするな!」

 前方からカンダの叱咤する声が洞窟内に反響した。

 ぼんやりと二つの影が暗い洞窟内の奥へと進んでいるのが浮かんで見えるが、洞窟内は暗く武蔵の足元はまったく見えない。

「おおい、待ってくれ!」

 武蔵は転びなそうになりながらも、必至で後を追った。というのも、闇の狩人のざわざわと空を切るような音が聞こえてきたからだ。

(やばいぞ、やばいぞ)

 ここは魔法の国だけあって、まったく勝手が違っているのだ。武蔵は足をばたつかせているもののなぜか地面に足がついていないようだった 。

「えっ!」

 なんだか、そのうち武蔵は空中を滑り落ちていると思った。洞窟は斜めになっていたのだ。

「うわーっ! 落ちる!」

 気づいた時には、どんどんと落下しそのうち下方が明るくなってきた。見ると、青白い光が広がっていた。

 ドスン。ボワン。

 地面に激突したと思ったが、バウンドして大きく跳ねた。

「うわっ、助けて!」

 落ちる。落ちる。

 落ちる下に大きな岩が迫ってきた。

 このままでは激突して怪我は間違いない。ところが、岩に激突する寸前でフワッと浮いたまま地面にゆっくりと降りた。

 ルフィトリアが両手を広げて武蔵の体を保っていたのだ。

「あ、ありがとう。助かったよ」

「後ろ! 気をつけて!」

「うえっ!」

 武蔵が振り返ると、闇の狩人が次々と落ちてきて、光の渦にバウンドして飛び上がりながら、三つ又槍を投げつけてきた。

 武蔵は慌てて逃げる。

 三つ又槍がまさに今いた場所に突き刺さる。

 そこへ闇の狩人が飛びかかってきた。

「やっ!」

 スイとルフィトリアが前に出て剣を横に払った。

 ブワッ!

 闇の狩人は粉々に砕け散る。

「へつ、ざまあみろ」

 武蔵は手を叩いて喜んだものの、「あ、やばいぞ」と後ろに下がる。次から次へと闇の狩人が洞窟内に降りてきて、雨あられと三つ又槍を投げつけてきた。

「うわっ、うわっ、うわっ」

 何の武器を持たない武蔵は右に左にと逃げまどう。

 ルフィトリアもまた右に左に飛んでは剣を振るい、槍を叩き落としながら、闇の狩人を斬り崩していた。


「おーい! 何をしておる。こっちだ! こっちへ来い!」

 カンダが手招きしながら呼んでいた。

 広い洞窟の奥まった処でカンダは大きな岩の上に乗って叫んでいたのだ。

「見つけたぞ! 聖なる剣だ。これさえあれば無敵だ!」

 カンダは金色に輝く剣をかざしていた。

 ルフィトリアと武蔵は駆けよる。

「見ろ! この剣の輝きを。これぞ、聖なる剣だ。無敵の剣だ」

 カンダは岩の上で剣をかざし、ほれぼれとした表情で見つめていた。

 武蔵は岩の下で、

「やったじゃないか! カンダ、そいつで、こいつらを早く片づけてよ」

 と催促した。

 なにしろ、闇の狩人はすでに彼らを取り囲み、もはや逃げることもできなくなっていたからだ。その数、百はくだらない。とても、勝ち目はなかった。

「あいつらをやっつけて!」

 武蔵は再び叫んだ。


 ところが、カンダは笑ったまま岩の上から降りてこようともしなかった。

「わしは、この時をずっと待っていたのだ。シャバ世界で、いつ、王女がこのわしを迎えに来るかとな。わしが、この王国を追放されたのは千年も前のことだ。もう少しで永遠の命を得ることができたのに。この聖なる剣を手に入れる前に、王国はこのわしを追放しおった。そのため、わしは、シャバ世界でしがない警備員生活を送らざるをえなかったのだ」

「何をいってるんだ。あなたは伝説の光の騎士じゃなかったのか」

 武蔵はいぶかしげに問うた。カンダの言っている意味がわからなかった。

 ルフィトリアもまた、首を傾げていた。

「わはははははっ、そうさ、わしは伝説の光の騎士よ。だが、伝説はいつしか変説して伝えられるものだ。伝説などというものは真実をゆがめられるものよ。わしが望んだのはこの魔法の王国で永遠に生きることだった。ところが、王はわしを認めなかった」

「なあ、そんなことより、先に、こいつらを早く何とかしてくれないのか」

 武蔵とルフィトリアはすっかり闇の狩人たちに囲まれて、三つ又槍を喉元に突き付けられていた。

「ふーむ、あいにくだったな。わしは、これが手に入ればそれでいいんだ」

「なんだって!」

 カンダは聖なる剣を持ってふわりと空に浮かんだ。そして、ゆっくりと二人の前に降りてきた。剣は黄金の光を放ち、闇の狩人たちは恐れをなしたのか、後ずさりした。カンダはその間に降り立った。

「つまりだ。闇の帝王へのお土産にルフィトリアを頂くのさ」

「ふざけるな! 裏切るのか!」

 武蔵は完全に頭に来た。

「ふん、なんとでも言え。さあ、ルフィトリア王女、一緒に来てもらおうか」

 カンダがズイとルフィトリアの前に進んだ時だ。

「させるか。ルフィトリア、剣を渡してくれ」

 武蔵はルフィトリアから剣を奪うように受け取るやいなや、カンダに襲いかかった。武蔵の手に握られたルフィトリアの剣は淡い緑色の光を放ち、ガキッとカンダの聖剣と火花を散らした。

 そして、グワーンと、黄金の光と緑の光が交差し、辺りが昼間のように明るくなった。

「ほお、これは大したものだ。やはりお前もマグラを持っていたのだな。だが、その程度の力でわしを倒すことはできないぞ」

 カンダは武蔵の剣を跳ねのけると、上段から打ち込んできた。

 ズイーン。

 まばゆいばかりの金色の光が、聖剣から発せられて、なんとか武蔵がその聖剣を受け止めたものの、聖剣の凄まじい衝撃に体中がビリビリと痺れた。さらに、武蔵の握った剣のあの緑色の光が次第に淡くなっていった。

「おお、なんて力だ」

 カンダはぎりぎりと武蔵を圧倒し、聖剣の刃先が今にも武蔵の額に食い込んできそうだった。


(ああ、もう駄目だ。やられる)

 武蔵は押しかえそうとしたが、まるで歯が立たなかった。必至でこらえたが、なぜか力がなえて来るのを感じた。一方のカンダは、聖剣を片手で操りつつ、「ふっふっふっ」と笑っていた。

「どうした、口ほどでもないな。言ったろ、聖なる剣は無敵だって。さあ、どうする、このままではお前はまっぷたつになってしまうぞ」

 カンダは勝ち誇っていた。

(ああ、俺はここで死ぬのか。残念だ)

 武蔵は負けを認めるしかなかった。もはや限界は越えていたのだ。


「待って、武蔵を助けて!その代わり私は闇の帝王の元に行きます。私が望みなんでしょう」

 ルフィトリアはカンダの握る手に自分の手を重ねた。

「もちろんだとも。異論はない」

「駄目だ!行ってはいけない。最後まで戦うんだ」

 武蔵はそう叫んだものの、それは負け惜しみでしかないことはわかっていた。

「相変わらず、勇ましい男だな。まあ、ルフィトリアに免じて命だけは助けてやる」

 カンダが剣を引くと、黄金の光が消えた。

 すると、力が抜けたように剣が武蔵の手からスルリと落ち、がっくりと地面に膝をついてしまった。

 武蔵はすべての体力を使い果たしたような疲労感に襲われていた。

 カンダは武蔵が落とした剣を拾い、武蔵の前にかざした。

「武蔵よ。この聖なる剣たる理由を教えてしんぜよう。この聖剣はな、相手のエネルギーをすべて吸いとってしまう力があるのだ。お前とこの剣も今は、エネルギーを吸いつくされたただのでくの棒にすぎないのだ。どうだ、立ち上がるのも苦しいだろう」

 カンダの言う通りだった。立ち上がる気力も体力もなかった。ただただ、このまま地面に倒れて横になりたかった。かろうじてバランスで体を保っているに過ぎなかった。

「武蔵よ、ここでいつまで生きられるかわからぬが、達者でいるがよい」

 カンダはそう言いのこすと、ルフィトリアの手を握ると、スーッと上空へと飛んでいった。

 闇の狩人たちも、後を追うように、あっという間にいなくなった。

 一人、広い洞窟に取り残された武蔵は声を出すこともなく疲労こんぱいの状態で、フワッと地面に転がった。


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