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闇の帝王軍がラムミリア王国を侵略し、ルフィトリア王女は助けを求めシャバ世界へ飛ぶ!

第四話


「何、取り逃がしただと。ふん、やはりな。そうでなければならんのだ。簡単に捕まるようでは、我が望みも適えられぬというものだ。これではっきりした。ラムミリアのルフィトリア王女こそ、我が求めている女だ」

 ラムミリアの王城内の王の間で、闇の帝王は笑った。王の間といっても、かつて、ここにラムミリア王がいたときの様相とは一変していた。大理石でできた床や柱は黒ずんで輝きを失っており、そこかしこに置かれた花瓶に飾られていた花々はすっかり萎れて枯れたまま放置されていた。

 闇の帝王は、真っ黒なフードを頭からすっぽりとかぶり、全身もまた黒いマントで覆われてその姿をみることはできない。

「一つ、厄介なことが……」

 闇の帝王の前でうずくまっていた一つ目の闇の狩人の頭目が言葉を続けた。

「カンダとかいう者が邪魔をしております。こやつは、千年前に光の騎士となって、ラムミリアを救ったという伝説の人物です。それにシャバ世界より、人間が一人王女側についております。このもの、闇の狩人をことごとく退けてしまう腕前の持ち主でございました」

「ほう、それは面白い。光の騎士か。我が父王が光の騎士によって追い払われたというが、わしはそうはいかん。ルフィトリア王女とまぐわいマグラをこの手に入れるのだ。さすれば無敵となり永遠の命を手に入れることができる。光の騎士が何人いようとも問題ではないわ。よいか、必ずルフィトリア王女を連れてこい。よいな」

 闇の帝王は、フードの下で不気味な笑いをうかべた。

「おまかせを。我らには策がございます。我ら闇の狩人一族の名誉にかけて、帝王様のご命令を必ずや叶えて見せましょうぞ」

 闇の狩人の頭目は頭をさげた。

「うむ、任せる」

「では、さっそく」


 闇の狩人が退出すると、闇の帝王は立ち上がった。その高さはゆうに三メートルは超えていた。

 城のテラスに姿を現して、両手を大きく広げた。まるで己の手の中にすべてが収まっているかのごとく満足そうに頷いた。そして、「姫よ! 待っているぞ。さあ、早くわしのこの懐に飛び込んで来い。そして、共に永遠の命を得ようではないか。わははははっ」と、声高に笑った。闇の帝王の不気味な声がラムミリア王国の空に地響きのように広がっていった。

 だが、それに応えるものはなく、ラムミリアの城内はもちろん、城下も静まり返っていた。

 ただ、その声は、城内の地下牢の中にも伝わっていた。


 ラムミリアの王は、冷たい石の牢獄の中で闇の帝王のおぞましい声を聞いて無念の思いに沈んでいた。

「ああ、姫よ。どうか、無事でいておくれ」

 闇の帝王と闇の軍隊がラムミリア王国に侵略してきたのは、ラムミリア歴でほんの十日ほど前のことだった。それは何の前触れもなかった。

 夜も更け、人々が寝静まったころ、闇の帝王が率いる闇の軍隊数十万が、闇の中から突然現れて、城壁を乗り越え攻撃してきたのだ。

 不意を突かれた王国の兵士たちは、飛び起きて武具を身につけるいとまもなく勇敢に戦ったが、闇の兵士の圧倒的な数にはかなわなかった。弓矢で射られ、槍で突き伏せられ、剣で斬られ、王国の兵士たちは次々と地に倒れていった。


 城の寝室で熟睡していた王は、騒がしい音に気づいて目を覚ました。

「衛兵、何を騒いでおるのだ」

 当初、ケンカでもしているのだろうと、不審番の衛兵を呼んだ。

「あなた、何が起きているのですか」

 隣で寝ていた女王も目を覚まし不安な顔で尋ねた。

「うむ、案ずるな。今、衛兵が調べて参るゆえ、そなたは、安心して眠るがよい」

 王はやさしく妻をいたわった。だが、騒ぎはますます大きくなっていくようで、馬のいななきや叫び声や激しい金属音が聞こえてきた。王はようやく尋常ならざる事が起きたと悟った。王は立ち上がり、寝室の窓を開けて外を見て愕然とした。

 その時。

「た、大変です。敵です。おびただしい数の兵隊が攻めてきました」

 と、召使が慌てふためいて走りこんで来て王の前で床にガクリと倒れた。彼の胸には一本の矢が刺さっていたのだ。

「しっかりしろ。どこの国が攻めてきたのだ」

「わ、わかりません。ぜ、全身、く、黒の兵士たちが」

「なんと、もしや……」

 王は立ち上がった。


「わが体に鎧を、わが手に盾と剣を」

 王は呪文を唱えた。すると、彼の体は騎士の姿となった。そして、「ルフィトリアが」というと娘の部屋に走った。その後を女王が追う。

 ルフィトリアはすでに起きて侍女に支度をさせていた。彼女もまた剣士姿に身をやつしていた。

「お父様、お母さま」

「奴らが来た。あいつらが来る前に、すぐに、逃げろ。ルフィトリアはシャバ世界に行け。そしてカンダを探し出すんだ」

 王は女王とルフィトリア姫を伴い、王の間に向かった。

 だが、扉を開け、廊下に出た時、王国の兵士たちが、闇の兵士らに押されるように雪崩こんできた。

「やはり、闇の軍隊か。わしが相手だ」

 ラムミリア王は、剣を振りかざして、闇の兵士に立ち向かった。

 青白くきらめく剣をふるうと、閃光がひらめいて闇の兵士たちはばたばたと倒れた。 

「さあ、今のうちだ。行け!」

 王は逃げるように促した。

 女王と王女は王の間に飛び込んでいった。

「さあ、早く!」

 広い王の間の一段高い場所に玉座が設けられている。女王は、王女の手を取り、玉座に向かった。


 が、王の間の窓の外に、一台の馬車が止まった。そして、ドアが開き、闇の帝王が馬車から現れて、ラムミリア城の王の間のベランダに降り立った。

「ふん、どこへ行く。姫よ迎えに来たぞ」

 闇の帝王がふっと現れて、ズカズカと王の間に入ってきた。

「ルフィトリア! 早く逃げるのだ!」

 王の間に遅れて入ってきた王は憤怒の表情を浮かべ青白く光る剣を構え闇の帝王に向かっていった。

「おまえには用はない。消えろ!」

 闇の帝王は、ラムミリア王が繰り出す鋭い剣に対して、マントを翻した。マントは剣を包み込むようにしてその力を削いでいった。王は何度も剣を振るうが、そのたびにヒラリヒラリと舞うマントに絡めとられて、帝王をとらえることができなかった。

「ええい、魔法の力を我に与えたまえ!」 

 王は叫んだ。風が湧き剣はさらに青く輝く。

「くらえ! 魔法の剣の力を!」

 王は渾身の力を込めて、まっすぐに帝王の胸を突いた。

 剣は帝王の胸を貫いたかのように見えた。

「愚か者! そんな魔法がわしに通じるものか」

 闇の帝王の胸を刺したはずの剣が、赤く光り、王の手が真っ赤に燃えて、稲光のように衝撃が王を襲った。王の体は激しく痙攣し、後ろにふっ飛びごろごろと床を転がり、立ち上がろうとしたが、ガクリと体を床に投げ出した。


「さて、姫はどこに」

 帝王は悠然と部屋を見渡した。玉座の後ろのドアが少し開いている。

 父王と帝王が戦っている間にルフィトリア姫は女王に引っ張られて、王の間の奥にある聖なる部屋に飛び込んでいたのだ。


「いいですか、ここから、シャバ世界に行きカンダ老人を探し出し、力を貸してくれるように頼むのです」

 女王は、聖なる部屋にあるただ一つの大きな姿身のような鏡の前に立たせた。

「さあ、呪文を唱えなさい」

「お母さまはどうするのですか。一緒に行きましょう」

「いいえ、それはできません。あなたを守るため、この場を動くことはできないのです。さあ、早く行きなさい」

 女王は鏡の前方で、槍を構えた。

「ふん、女王か、もっと若ければな、実におしい」

 闇の帝王はずいと聖なる部屋に侵入してきた。

「ここからは一歩も通しません」

「無駄だ」

 女王は「キエーッ!」と、叫んで槍を突いた。 

 闇の帝王はふっと飛びあがった。女王の頭を飛び越えてルフィトリアをつかまえようとした。

「ああ、お母さま! 我に光を! 聖なる力を! シャバの扉を開けたまえ!」

 ルフィトリアがそう呪文を唱えた時、闇の帝王の手が伸びて、ルフィトリアの腕をつかんだ。

「あっ」

 ルフィトリアが驚いた時、聖なる鏡が黄色く光りルフィトリアの体が鏡の中に吸い込まれていった。ただ、闇の帝王の手がルフィトリアの腕を掴んで離さず、引き戻されそうになった。

「ヤーッ!」

 時を移さず、女王は裂帛の気合を込めて槍先を闇の帝王の腕を切断した。

「馬鹿な!」

 驚いた闇の帝王は、光の中に消えていくルフィトリアの姿をみつめながら、もう一方の手で女王を突き飛ばした。

「あっ!」

 女王の体はふっと消えて、姿が見えなくなった。


「お母さま!」

 ルフィトリアは光の渦の中でその様子を見ながら気を失った。

「ふん、逃したか」

 闇の帝王は、少しもあわてず、闇の狩人に、ルフィトリアの追跡を命じると、城内の掌握に戻っていった。彼はシャバ世界に行くわけにも行かないのだ。


 こうして闇の帝王は、王を始め城兵や召使などを地下牢に押し込め、闇の軍隊と闇の狩人を派遣して残兵狩りを実施した。

 かろうじて逃げ出した城兵や召使などが山に隠れて細々と抵抗運動を開始した。しかし、闇の兵士や闇の狩人一族が、宮殿をのし歩き、時々、出撃して、ラムミリアの人々を苦しめていた。抵抗するものは容赦なく殺されたり、見せしめに高い塔に括りつけられて、息耐えるまで放置されていた。


 空にはどんよりとした黒い雲がおおい、草木は力なく頭を下げて、城下の人々は固く扉を閉めて、家の中に閉じこもっていた。そのため城下はまるでゴーストタウンのようにひっそりとしていた。

 闇の帝王は不気味な声を放った。

「さあ、わしを倒せるものなら誰でもよい、ここまで来るがよい。そして姫をこの腕に抱いたときこそ、われこそは無限の力を手に入れるのだ。姫よ早くやって来い。待ってるぞ。はっははは……」

 空気はビンビンと震え、建物が振動した。家にこもってこの災難がいつまで続くのか不安な面持ちでいた人々はビクリと恐怖におびえるのだった。

「おお、神よ我らを助け給え!」

 王国の人々はそう祈らずにはいられなかった。


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