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魔法の王国ラムミリアに転移した武蔵らに、闇の狩人が襲いかかる!

第三話


「おい、起きろ!」

「うーん、もう少し眠らせて……」

「馬鹿者。寝てる場合じゃない。しゃきっとしろ!」

 郷田武蔵は、不思議な夢を見ていたと思ったがそうではなかった。

 目を覚ましたとき眼の前で紺の警備服を着た若い男が武蔵の両肩を掴んで揺すっていた。

「え、あなたは……いったい……誰ですか?」

(あれっ、どっかで見たような……あ、思い出した。図書館の警備員だ。しかし、随分と若くなっているような。それにここはどこだ)

 警備服を着たカンダ老人は困った顔で……。

「しっかりしろ。まさかお前さんまで飛んでくるとはな。まあ、仕方がない、さあ、立て。あいつらがやってくるぞ」

「あいつらって……あぁ……まさか……でも……」

 武蔵の頭はまだ混乱していた。


 フラフラしながら立ち上がった武蔵の目に飛び込んできたのは、深い森の中だということと、ルフィトリア王女と名乗った女性が剣を構えていたことだ。そして彼女の視線の先をたどると、大きな黒いカラスが木々の間を縫うように飛んで来るのが見えた。もちろんカラスではなかった。例の闇の狩人たちだ。

「あ、と、飛んでる……」

 闇の狩人は翼を広げて木々の間を器用に右に左に避けながら縫うように飛んでいた。そして手に手に例の三つ又の槍を構えて突進してきた。


「コラッ! ぼさっとするな。こっちだ」

 若くなったカンダ老人は、武蔵の襟首をつかんで引き戻し、ルフィトリアとの間に武蔵を挟むようにして、どこで調達したのか奇妙な形をした弓を構えた。

 無数の闇の狩人が四方八方から襲ってきたのだ。

「トーッ!」

 若いカンダ老人が、縞模様の弓を引き絞り、狙いを定めてヒョーッと矢を放った。

「嘘だろ……」

 放たれた矢は炎をあげて、先頭を飛んでいた闇の狩人の羽に突き刺さった。

「ギャッ!」

 羽がボッと火に包まれ、奇妙な悲鳴をあげ、バランスを崩し、くるくると回転しながら大木に激突し、バッと燃えて灰になった。

 闇の狩人たちは一斉に三つ又の槍を放った。

「ウワッ! ウソッ!」

 三つ又の槍と思ったのは間違いだった。三つの槍先が、三つの真っ黒いカラスの頭に変化して、二つの黄色い目をギョロッとさせ、嘴を開けて迫ってきた。

「イェーッ!」

 ルフィトリアは剣を振るうと、空気が閃光を放ったように光り、三つ頭のカラスが粉々にふっ飛んだ。続けざまに三つのカラス頭が光る剣の餌食になる。


 若いカンダ老人も負けじと次々から次へと火矢を放つ。闇の狩人たちは火達磨になって地面や木々に激突してパッと燃えて灰になった。

「うわーぉ、すごい。これはいったい……」

 その時だ、ルフィトリアの剣をかいくぐった一つのカラス頭は、彼女のマントにかみついた。そして槍の柄の部分が蛇のようにルフィトリアの体にニュルニュルとまとわりついていった。

「ウエッ、気持ちわりー」

 武蔵は、目の前でルフィトリアが大蛇のようにグルッと巻きつかれていく姿を見て目を剥いた。

「ウッ」


 動きを止められたルフィトリアに次から次へとカラス頭が巻きついていく。

 一方の若いカンダ老人は、助けようとするが、次から次へと襲いかかる敵に、手を休めることもできず、矢を放ち続けた。

「クソッ! ルフィトリア、大丈夫か……!」

 ルフィトリアは、かろうじて剣をふるうが相手の数が多すぎる。ルフィトリアの手といわず足にカラス頭が巻きついていく。ルフィトリアの動きが止まった。

 すると、闇の狩人たちはルフィトリアの頭上を飛びかいながら、ルフィトリアを捕まえようと手を伸ばしてきた。


(うーん、あいつら、彼女をさらうつもりだ。そうか、闇の帝王の所へつれていって……そして、あ、とんでもない)

 武蔵はこの美しい女性が得体の知れない怪物に何されると思うと急に怒りがこみあげてきた。

「このーっ。怪物め! これでも食らえッ!」

 武蔵はずっと手に持っていた竹刀を、ルフィトリアに巻きついていたカラス頭の口に突き刺した。しかし、カラスは不気味な黄色い目を剥いて、バリバリと竹刀を噛み砕いていった。


「そんなものは役にはたたん、ルフィトリアの剣を使え」

 武蔵は、半分になった竹刀を手離し、ルフィトリアの手から剣を受け取ると、カラス頭を刺し貫いた。すると、カラス頭はブワッと粉々に砕けた。

「ワオー、こいつはすごいや」

 武蔵は次々とカラス頭を突き刺していった。面白いようにカラス頭は砕け散っていった。ルフィトリアは、ようやく巻きつかれたカラス頭から自由になった。

 闇の狩人は、キエーッと、妙な叫び声を放ち、空を舞いながら武蔵めがけて三つ又槍を突き出してきた。

「しゃらくせい。これでも食らえ」

 剣に関しては自信がある。ぴったりと手になじんだルフィトリアの剣が緑色の光を放ちながら、闇の狩人が繰り出す三つ又槍を切り裂いていく。さらに、武蔵の近くを飛ぶ闇の狩人の羽を切り裂く。そのたびに、宙をくるくる舞いながら草むらや木々にぶつかってバッと煙のように消えた。

「小僧、やるじゃないか」


 若いカンダ老人は矢を放ちながら武蔵の奮戦に驚きの表情を浮かべた。

 武蔵は、右、左に剣道二段の腕を縦横無尽に振るった。闇の狩人らは武蔵の振るう剣の餌食になり次から次へとブワッブワッと灰になっていった。

 そして、いつの間にか、闇の狩人はふっと姿を消していた。


 武蔵は荒い息を吐きながらようやく動きを休めた。そして、周囲を見渡して、驚きの表情を浮かべた。

 あれほど、炎が立ち上がり灰が飛び散り、木々や草が燃えたにもかかわらず、あたりは何事もなかったかのように争いの痕跡は認められなかった。

(どういうことだ。あれだけの争いがあったというのに)

 武蔵は、これはやはり夢にちがいないと思った。


「驚いたな。君にそんな力があるとは……」

 若いカンダ老人は持っていた弓をそっと地面に戻した。すると、弓は縞蛇に変わって草むらに逃げ込んだ。

(夢だ。これは、絶対夢だ。あり得ない)

「ありがとう。助かったわ」

 ルフィトリアはにっこりと美しい顔に笑みを浮かべた。いやいやこれは夢じゃない。

「あ、いえ、どういたしまして……あ、これ」

 武蔵はうれしそうに微笑むと、剣を彼女に返した。


「それにしても、マグラを持つ人間はそういるもんじゃない。君もマグラを秘めているのかしれんな……」

「あのー、どうして若くなったんですか。ここはどこですか。これは夢なんでしょ」

「ははは、驚くのは無理もない。わしも最初は戸惑ったからな。だがな、よく覚えておけ。これは決して夢なんぞではない。理解しがたいが、いわばここは魔法の国ラムミリアだ。まあ異次元の世界だとでも思っておけば間違いないだろう。みただろう。現実にはあり得ないことだからな。答えになるかな。そう、わしの歳のことだが、このラムミリア王国では寿命が変化する。わしは若くなる。理由はわからんがな。君は変わらないようだ。たぶんそれも魔法のせいだろう」



「しくじったか。それにしても、あの男は何者だ」

 森の中で、大木の枝にとまった一つ目をしたカラスがじっと三人の様子を見ていた。

「まあ、しかし、戻ってきたからには、我らの思う壺だ。今に我らが力を思い知るであろう。それまで待つがよかろう。ふふふっ」

 一つ目のカラスはパッと枝を蹴って空に舞いあがり、北の方角を目指して飛び去った。



「あのー、これからどうするんですか」

 武蔵はカンダ老人の説明に納得できたわけではないが、どうすることもできなかった。

「また邪魔が入らんうちに出発だ。武蔵、ついてくるか」

「え、あ、はい」

 こんなところにお居てきぼりは御免だ。

「ルフィトリア。準備はいいですか」

「ええ、行きましょう」

 カンダ老人を先頭に、ルフィトリア王女、武蔵の順に歩き出した。

 一体どこに行くのだろう。


 武蔵の不安にお構いなく森の中を進んでいく。森はますます深くなっていく。三人とも無言で歩く。

「あのー。僕たちはどこに向かってるんですか」

 武蔵はたまりかねて、前を行くカンダに尋ねた。

「シャバ世界で説明したように、闇の帝王と戦うには聖なる剣が必要だ。それは千年前に私が封印したものだ。今、そこに向かっている。聖なる剣を操るものは光の騎士となって闇の帝王と戦うのだ」

 カンダ青年は振り返らずに答えた。

「光の騎士ねえ……それで、そこはどのくらいかかるんですか」

「質問の多い奴だな。少しは黙ってついてこれぬのか。歳をとると答えるのがおっくうになるんじゃ」

カンダはそう言ったが、どうみても若々しい。

「……」

「うふっ。もうすこしで森を抜けます。そしたら、山が見えます。そこが目指す場所です」

 ルフィトリア姫はニコッと教えてくれた。

 美女にそう言われて、武蔵もニコリとした。単純な武蔵は、たちまち元気がでた。若く美しい女性の笑顔に勝る励ましはない。

 だけど、カンダ老人が言う通りなら、彼が光の騎士となる。

 光の騎士とはなんだろう。

 疑問は次々と沸いてくるが武蔵は無言でついていくしかなかった。


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