武蔵は、ルフィトリアと結婚式を挙げるはずだったが・・・?
第十一話
第十一話
「よくぞ、この国を守ってくれた。伝説の騎士はやはり本当だったんだ」
王は武蔵の手を取って涙を流して喜んだ。そして武蔵を抱き抱えて、耳元に囁いた。
「どうだ。姫の婿にならんか」
まんざらでもない武蔵は微笑んでいるルフィトリア姫の姿を見つめた。
美しいルフィトリア姫と結婚だなんて、どうしても鼻の下がだらしなく伸びてくるのを抑えることはできなかった。その上、魔法のお姫様の婿になるということは、この国の王子になるということだ。
ふと、元の世界のことを考えたが、ここも悪くない。
城下はお祭り騒ぎだった。
色とりどりの衣装を着た老若男女が通りにでて踊ったり歌ったりしていた。
闇の帝王の支配を脱したばかりでなく、新しい王子の誕生だ。ルフィトリア王女と光の騎士武蔵の結婚式が行われるのだ。
「武蔵殿、いいですか。ご存じとは思いますが、ここは魔法の王国です。不用意な言葉は謹んでください。特にあなたは外の人ですからね」
武蔵は女王の話をうわの空で聞いていた。龍から真の姿を表しすっかり元気になったルフィトリアの母は、やさしく語りかけ注意を促していた。ただ美しく着飾ったルフィトリア姫が部屋に入ってきたのだ。いよいよ結婚式が始まるのだ。女王が「この魔法の言葉は決して口にしないように」といった言葉にうなずいたものの聞き逃してしまった。
武蔵が城の大広間で皆の祝福を受けて、二人そろってベランダに出て民衆の歓呼に応えて手を振った。
「よいか、これより二人の結婚を宣言する。異議のある者は今のうちに申し出るがよい」
王が厳かに問うた。
これは形式にすぎない。もちろん異議を挟むものなどいない。
「ルフィトリア。依存はないな」
王は娘に問うた。
ルフィトリアは顔を赤らめ頷いた。
そんな花も恥じらう美しいルフィトリア姫の姿に武蔵は、鼻の下を思いっきり伸ばし頭をボーッとさせて、まるで夢のような心持でうわの空だった。
「では、光の騎士たる郷田武蔵よ。そなたは依存があるか」
王の言葉に武蔵は気づかなかった。
ルフィトリアは武蔵に目くばせをした。
(ルフィトリアがウインクしてるな。今夜はルフィトリアと、えへっ)
武蔵は思わず淫らな思いに浸ってしまった。
「おほん、武蔵、言葉を」
王は小声で注意を促した。
「え、あ」
武蔵はようやく気づいた。
(ええーと、なんだっけ)
「光の渦の中に」
皆、ぎょっとした顔になった。
(なんだ)
「我、光の騎士よ永久にあれ」
ルフィトリアの顔が蒼白になっていた。
(あれ、間違えたのかな。でも『光の渦の中に、我、光の騎士永久にあれ』って、女王が教えてくれた。でも、なんでみんな驚いた顔をしているんだ)
武蔵は怪訝な表情を浮かべた。
「ああ、なんてことを、あれほど言ってはいけないと念を押したのに」
女王はその場に崩れ落ちた。
「え、どうして」
「忘れたのですか。その言葉はあなたが元の世界に戻るための呪文なんですよ」
「え、そんな」
武蔵は絶句した。
「あっ、思い出した」
そう、武蔵が闇の帝王を倒し、ルフィトリアと女王の元に戻った時、女王はこういったのだ。
「もし、あなたが元の世界に戻りたければ『光の渦の中に、我、光の騎士永久に』といえばいい」と。
武蔵はそれを失念していたのだ。
ルフィトリアは悲しそうな顔で目にいっぱい涙をたたえていた。
「ルフィトリア」
そう口にしたものの、上空から白い光が落ちてきて、武蔵の体は光の渦に飲み込まれてしまった。
「うわーっ!」
武蔵は目が眩み、暗黒の世界に引き込まれてやがて気を失った。
「ううーん」
「おい、君、大丈夫かね」
武蔵は目をあけた。目の前に見知った顔があった。
「あ、お前は、カンダ」
警備員服を着たあの神田老人が不機嫌そうに立っていた。
「君、もう、閉館時間だよ」
「えっ」
見渡すとそこは図書館だった。
机にうつぶせに眠っていたようだ。
(嘘だ。僕は光の騎士、じゃないのか。カンダ老人が。僕のこと忘れたのか)
「さあ、いったいった」
神田老人は僕を急き立てる。
わけがわからないまま、武蔵はカバンに教科書などを仕舞こんで出口に向かった。
「おい、君、なぜわしの名を知っている」
不意に背後から神田老人が声をかけてきた。
「あなたは、光の騎士だから」
神田老人は呆れたという顔ですぐに出ていくように手を振った。
翌日、武蔵はすっかりしょげ返って学校に行った。
何も変わっていなかった。いつもの学校生活が始まった。
やっぱし、あれは夢だったんだ。
武蔵は、朝のホームルームをボーっと迎えた。
担任の教師が教室に入ってきた。
武蔵は所在なげに窓の外をみていた。
「ええ、それでは、今日は転校生を紹介します。摩穂須羅さんお入りなさい」
教師の言葉に何気に顔を向けた。
「ルフィトリア」
なんとそこには、ルフィトリアそっくりの女生徒が入ってきた。
彼女は、武蔵の顔をみて微笑んでいた。
完