第66話 呪いの悪化と“愛ゆえの嘘”
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
――朝。
窓辺のカーテン越しに柔らかな光が差し込み、鳥のさえずりが微かに響く。
いつもなら静かに眠るレオンの寝息が聞こえるはずなのに――今日は違った。
「……レオン?」
ふと目を覚ましたセレナは、異変に気づいた。
隣にいるレオンの額にはびっしりと冷や汗が浮かび、顔は苦悶に歪んでいる。
うなされるように身体を小さく震わせ、喉の奥からかすかなうめき声が漏れていた。
「レオン……!? どうしたの、レオン……っ!」
慌てて彼の手を握りしめ、必死に声をかける。
だがレオンの意識は戻らず、眉間にしわを寄せ、うなされ続けている。
(お願い、目を覚まして……)
セレナは震える手でレオンの汗を丁寧に拭い、声を掛ける。
れどその顔はまだ青ざめたまま歪められている。
いつも見せる穏やかな寝顔とは程遠かった。
(これは、ただの疲れじゃない……呪いが――)
レオンの冷たい唇にそっと唇を重ねる。
「お願い、戻ってきて……」
小さく、囁くように願ったその瞬間――
「……セレ、ナ……?」
かすれた声が返ってきた。
目を細めるようにして、ゆっくりとレオンが瞼を開く。
「レオン……!」
セレナは思わず胸に込み上げるものを抑えきれず、レオンの体に腕を回し、ぎゅっと強く抱きしめた。
「よかった……っ。本当によかった……」
体温が、しっかりとある。
意識が、戻った。
それだけで、涙が出るほど安堵した。
そんなセレナを、レオンは弱々しくも愛おしそうに見つめる。
「……もう一回……キス、してほしい……」
「……レオン」
再び唇を重ねる。今度は先ほどより深く、優しく。
そのキスに、レオンもゆっくりと応え、少しずつ呼吸が整っていくのがわかる。
唇を離すと、セレナはすぐに身を起こし、手早く介抱を始めた。
「お水飲める?」
水差しを口元に運び、シーツの乱れを整え、体温を確認する。
「……ふふ。さっきまで寝起きだったとは思えないな……」
レオンが微笑みながらぽつりと呟いた。
「もう……じっとしててね」
そう言いながらも、セレナの手は止まらない。
慣れない手つきで、セレナはそっとレオンの汗を拭った。
額、首筋、胸元――冷え切った肌に温かい布を優しく滑らせるたび、彼の息が少しずつ落ち着いていく。
「ごめんレオン、少しだけ待ってて」
急いで身支度を整えると、バタバタと部屋を飛び出す。
目指すのは――アレクの元。
「アレク……!」
廊下を駆け抜けて執務室の扉を叩くと、すぐにアレクが顔を出した。
「セレナ様? どうされましたか」
「レオンが、今朝……急に高熱で……っ、すぐに介抱はしたんだけど……まだ息が浅くて……」
眉をひそめるアレクに、セレナは一気に状況を伝える。
「今日は寝室でレオンの様子見ながら仕事するね。……急にごめんね。」
真剣なまなざしで頭を下げると、アレクはすぐに頷いた。
「承知しました。どうか公爵様の傍を離れずにいてください」
その言葉に、セレナは深く一礼し――再び部屋へ駆け戻る。
(……どうか、このまま……ひどくなりませんように)
胸の奥で、祈るように願いながら。
部屋へ駆け戻ると――
そこには、寝台を離れ、身支度を整えたレオンの姿があった。
「レオン……!? な、なにしてるのっ」
セレナの声に、レオンがはっとこちらを振り向く。
「……セレナ? 大丈夫だよ、もう――」
「だめっ!!」
セレナは迷いなく駆け寄り、そのままレオンの腕を掴んでベッドへ押し戻した。
「今日は絶対、横になってて!」
その声は、いつになく強くて、鋭くて――けれど震えていた。
「アレクにはもう伝えた。執務のことは任せたから……だから、レオンは、ちゃんと休んで……っ」
言葉の終わりには、滲むような切なさが混じっていた。
ベッドに座り込んだままのレオンは、一瞬だけ呆気に取られていたが――
すぐにふっと笑みを浮かべ、そっとセレナの手を握った。
「……怒ってる?」
「怒ってるよ。心配だし、怖くなったんだから……」
声を震わせながらも、まっすぐに見つめ返してくるその瞳に、レオンは小さく息をのむ。
「……ごめん。心配、かけたな」
そう囁いて、セレナの額にそっと唇を寄せた。
「……セレナ」
ベッドに横たわったレオンが、かすれた声で呼ぶ。
セレナはすぐに椅子を引き寄せ、そっとレオンの手を握った。
「ちゃんと寝てて。大丈夫だから……ね?」
不安を押し隠すように微笑みながら、手のひらを包み込むと――
「……こっち来て。お願い、セレナ……隣で、寝て」
掠れた声が、わがままのように囁く。
戸惑いながらも、セレナは静かに頷き、靴を脱いでそっとベッドに上がる。
レオンがすぐさまその身体を抱き寄せ、胸元に顔を埋めた。
「ゆっくり休めないでしょ……?」
「……セレナが近くにいないと、苦しい」
小さく笑いながら、レオンはセレナの額にキスを落とす。
「ねぇ……キス、して」
「レオン……」
「もう一度……キスして。……それから、抱きしめてて」
熱に浮かされたような、少し甘えた声。
セレナはそっと彼の頬に触れ、やさしく唇を重ねた。
「……ん、ありがとう。セレナがそばにいてくれるなら……大丈夫」
弱った声でそう言われ、 ぴたりと身体を寄せると、彼はふっと微笑んだ。
(……本当に大丈夫、だよね……?)
レオンの体温に寄り添いながら、セレナはそっと瞼を閉じた。
「ねぇ、セレナ……」
レオンの低い声が、闇の中にぽつりと落ちた。
「……本当に、血は一滴だけで……大丈夫なんだよね?」
不安と疑念がにじむその声に、セレナの胸がぎゅっと締め付けられる。
(――だめ。やっぱりレオンに本当のことなんて言えない)
「……うん、大丈夫。ティオはそう言ってた」
遮るように、セレナはレオンの手をぎゅっと握る。
「今日は、ゆっくり休んで。お願い……それだけでいいの」
まるで“信じて”と願うような、細く震えた声で。
そんなセレナを見つめ、レオンはしばし沈黙したのち、
「……ごめん、疑うつもりじゃなかった。ただ、君に何かあったら……」
そう呟いて、彼は切なそうな表情をするとそっと額を寄せた。
(……このまま、何事もなければいいけど)
そう願った矢先――
「……セレナ」
名前を呼ぶ声が、どこか寂しげで、切なくて。
次の瞬間――そっと、キスが落ちた。
「もう一回……」
もう一回と言いつつ、何度も唇にキスが降ってくる。
「セレナ……ありがとう。……楽になった」
くすぐったそうに笑いながらも、レオンはセレナにすり寄る。
(……本当は、まだ疑ってるかもしれないのに)
それでも彼は、何も言わずに私を抱きしめてくれた。
まるで――自分の不安すら、私に悟らせまいとするように。
--すう、すう……
レオンの寝息が、私の胸元で穏やかに響き始める。
(……信じようとしてくれてる。……ありがとう、レオン。……ごめんね、レオン。)
さっきまであんなに苦しそうだった顔が、今はとても安らかだった。
(よかった……本当によかった)
セレナはそっとベッドを抜け出すと、レオンの額にかかる髪をやさしく撫でてから、冷たい水を新しく汲みに行き、シーツの乱れを整える。
「ゆっくり、休んでね……レオン」
◆
机の前に向かうと残っていた仕事に取り掛かる。
ペンを走らせながら、ふと視線を上げてベッドを見ると――
レオンは穏やかな寝顔を見せたまま、深い眠りについていた。
(そういえば、私が体調を崩したときも……)
レオンは何度も水を飲ませてくれて、ずっと手を握ってくれていた。
(今度は、私の番だね)
◆
夜が更けようとする頃――
レオンの寝顔を見て、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間――
突如として彼の呼吸が荒くなる。
「レオン……!? どうしたの、レオン!」
セレナが慌てて身を起こし、手を握って呼びかける。
何度もキスをして、声をかけてみるものの、レオンは目を開けようとしない。
(まさか……)
祈るような気持ちで、私はそっと彼の背に手を伸ばした。
「っ……!」
布をめくると、そこにはあの痣――
前に見た時よりも、明らかに広がっている呪いの痕が刻まれていた。
(……きっと……もう、聖域に行くしかない……)
セレナは急いで部屋を飛び出し、アレクを呼び、ティオに至急来てもらうよう伝える。
◆
ほどなくしてティオが駆けつけ、レオンの状態を確認する。
「……これは、まずいかもしれない」
ティオの表情が険しくなる。
「……聖域に行こう。このままじゃ、レオンの命が……」
セレナは強く頷いた。
もう迷っている暇なんてなかった。
そして――
レオンを救うため、ふたりは“聖域”という名の希望へ、最後の賭けに出た。
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