第58話 ティオとの会話と皇帝からの重要な手紙
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
朝の柔らかな陽光が応接室に差し込む。
窓辺には花瓶が置かれ、静かな空間にほんの少しだけ緊張感が漂っていた。
「見てください、この記事!! セレナ様が一面に載ってますよ!」
リナがテーブルの上に広げた新聞には、“建国祭で奇跡の癒し”という大きな見出しが躍っていた。
「“聖女伝説、現代に蘇るか?”……だって。ふん、よく言いますよね、あの人たち」
リナは呆れた様子で肩をすくめたが、その頬にはどこか誇らしさが浮かんでいた。
「パーティー後、首謀者はすぐに捕まったみたいですね。毒の入手経路も調査中だし……その後はパーティーが中止され、みんな帰路についたみたいですけど――」
セレナは静かに、窓の外を見つめていた。
(私は……自分から“聖女”だなんて言ってない。でも――)
あのときの光景を見た人は、たくさんいる。
皇帝を包み込む柔らかな光。
傷もなく、苦しみもなく、ただ静かに――命が繋がる奇跡。
(皆に存在を知られてしまったとしても、あのときは、ただ救いたくて。迷いなんて、なかった……)
「セレナ様宛ての招待状もたくさん届いてますよ。……ほんと、現金な方々ですね。手のひら返しもいいとこです」
そう言いながらも、リナはどこか嬉しそうだった。
大切な妹のように思うセレナが、堂々と認められていくことが嬉しいのだ。
セレナは静かに微笑み返す。
「……そろそろ、ティオ様がいらっしゃるころですね」
リナが窓辺からふと振り返りながら言ったとき、ちょうど応接室の扉がノックされた。
「こんにちは、セレナちゃん。それにリナちゃんも。あの騒動の後だけど、案外元気そうでよかった」
扉の向こうから現れたティオは、相変わらず軽やかな足取りで室内に入ってきた。
リナはお茶を出してお辞儀をし、そのまま部屋から静かに退いた。
「……ティオもお疲れ様。大変だったね」
「まあね。事件後の報告やら調査やらでバタバタだったけど……それよりセレナちゃん、何かあった?」
セレナは少し迷ったように口を開いた。
「――あのとき、皇帝陛下を助けたとき……」
「うん、あれは見事だったよ。僕も驚いた」
「……あれだけの力を使ったのに、私の体……軽くならなかったの」
「……え?」
その言葉に、ティオの表情が一瞬揺れた。
「あのとき、どれだけ力を注いでも私の体は軽くならなかった。でも、レオンに触れると、やっぱりすぐ楽になるの。」
「……じゃあ、つまり……」
「うん。……レオンの呪いは、皇帝陛下の毒よりも……もっと強力なんじゃないかって……。そう思ったら、少し怖くなって」
応接室の空気が、一瞬静まり返った。
けれどティオはふっと笑い、優しく言葉を紡いだ。
「でも、それってさ。逆に言えば――」
「……?」
「君の力が、それだけとんでもなく強いってことだよね?」
「……え?」
「皇帝の命を繋ぎ止めるほどの力を使っても、まだ枯渇しない。癒す力が、それほどに溢れているってこと。……僕には、そう思えるよ」
優しい声だった。
慰めでも励ましでもなく、事実として語られたその言葉に、セレナの胸がじんわりと熱くなる。
「前に、ティオが言ってたでしょ。私の力は、もしかしたら“応用”できるかもしれないって」
「うん、覚えてる。魔法が失われた今では珍しい、貴重な力だからね。」
「……あの出来事の後、改めて考えたの。どれだけ力を注いでも、レオンの呪いが消えないなら――今まで通りのやり方では、痛みを和らげることしかできなくて、呪いを解くことには繋がらないんじゃないかって。」
ティオは一瞬だけ驚いたように目を見開くと、静かに目を伏せた。
「だったら、今のうちから何か方法を見つけておきたいって思ってて。」
「そうだね、レオンは呪いの進行速度が先代公爵に比べても早いから。早めに対策したほうがいいね。」
二人の間に沈黙が流れる。
セレナは、ずっと胸の奥で考えていたことを、少しだけ迷いながら口にした。
「……それとね、呪いを解くことには繋がらないかもしれないけど、最近ずっと考えてたことがあって……魔法石みたいに、触れると使えるような仕組みーー何か“物”に力を込めることが出来ないかって」
「……!それいいね!」
ティオの顔がぱっと輝いた。
「君の体質的に聖力を放出していないと体に障るから、レオンの呪いが解けた後どうしようかと考えてたんだ。力を込める対象が出来たら……それも解決する。……魔法陣を使ったら力を込めることが出来るかもしれない」
「……すごい。そんなことが本当にできるの?」
「やってみないとわからないけど、君なら可能性はある。ただ、それには魔法陣の再現と聖力の流れの制御……ちょっとした研究と準備が必要だね」
セレナは、小さくうなずいた。
(直接、呪いを解く答えにはならないかもしれない。でも……何もしないより、ずっといい。ティオと一緒に、一歩ずつ進んでいける気がする)
思いがけず、心に一つ、灯りがともった気がした。
――その時だった。
ドアの向こうから、軽くノックの音がして、すぐにバタバタと足音が近づいてくる。
「セレナ様っ、お取込み中すみませんっ!」
リナが、息を切らしながら部屋に飛び込んできた。
手には、封蝋の施された一通の書状が握られている。
「どうしたの、リナ?」
「これ……これっ、皇帝陛下からの手紙です!」
「……えっ?」
ティオとセレナが目を見合わせる。
視線の先で、リナは神妙な顔つきで手紙を差し出した。
「さっき、陛下の侍従の方が、直接お持ちになられて……」
差し出された手紙を、セレナはそっと受け取る。
重々しい封蝋には、皇室の紋章。
鼓動が、静かに、けれど確かに早くなるのを感じながら、彼女はそれを見つめた。
(皇帝陛下が、私に……?)
その場に、静かな緊張が走ったーー。
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