第57話 皇帝の異変とセレナの聖女の力。運命が交差する瞬間
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
ざわめく会場の空気を切り裂くように、私は人混みの中を駆け抜けた。
――あの人を、助けなきゃ。
倒れた皇帝の周りには、すでに護衛と数人の宮廷医師が集まっていた。
その輪の中には、見慣れた白衣の姿がある。ティオだ。
「これを飲んだ直後に倒れた……毒の可能性がある。グラスの解析を」
鋭い声で指示を飛ばしながら、ティオが私に気づくと、状況を瞬時に理解したように目を見開いた。
「セレナちゃん、来ちゃだめだ。君が力を――」
けれど、私は止まらなかった。
――見捨てるなんて、できない。
◆
皇帝の身体がふらりと揺れる。
騒然とする会場、駆け寄る者たちの声。
――その中で、ただ一人、まっすぐに駆け寄る黒髪の少女。
皇帝の目に彼女が映った瞬間。
「……っ」
皇帝の瞳がわずかに見開かれる。
それは痛みのせいだったのか、それとも――彼女の姿に、何かを重ねたのか。
誰も、その意味を知ることはなかった。
セレナは膝をつき、倒れた皇帝の傍らに身を寄せる。
その手をそっと握った瞬間、指先から温かな光が滲み出した。
光はゆるやかに広がり、皇帝の蒼白だった顔にほんの少しだけ血の気が戻る。
その変化を見た医師たちは息を呑んだ。
周囲のざわめきが、潮のように押し寄せる。
「今のは……治癒の魔法?」
「いや、そんなはずは……魔法はもう使えないんじゃ……」
「まさか、あの娘が……“聖女”……?」
私はただ、目の前の命を救いたくて――
気づけば、ティオがそっと肩に手を置いてくれていた。
「……もう、大丈夫。容体は安定してる」
ふっと息を吐いた瞬間、レオンの姿が視界に入った。
その瞳が、何よりも強く、私の存在を肯定してくれるように揺れていた。
周囲が騒然とする中、皇帝の容体が安定したと知ったセレナは、胸の奥に熱いものがこみ上げてくる。
――命が助かった。初めて、自分の力で。
安心と達成感に包まれ、深く息を吐いた瞬間、張り詰めていた力がぷつりとほどけるように、ふらりと力が抜けてその場に座り込んでしまった。
衣擦れの音とともに、豪奢な裾が床に広がる。
「セレナ……!」
駆け寄ってきたレオンがしゃがみこみ、焦ったように彼女を見つめる。
彼女が無事だと確認すると、彼は何も言わず、そっとその体を抱き上げた。
「あとは頼む、ティオ」
「了解。休ませてあげて」
軽く頷くティオを残し、レオンは人々の視線をものともせず、セレナを腕に抱いたまま静かに会場を後にする――
◆
個室に入ると同時に、レオンは静かに扉を閉めた。
ざわついた会場の音が遠のき、ふたりだけの静寂が訪れる。
セレナはその腕の中で、ようやく小さく息を吐いた。
けれどまだ、肩がわずかに震えている。
「……たぶん、調査が終わるまでは、この会場から出られないと思う」
レオンはそう言いながら、セレナをそっとソファに腰かけさせ、自分も隣に座り、彼女の背を撫でた。
「少し、休もう。……よく頑張ったね、セレナ」
その優しい声に、セレナの胸がじんわりと熱くなる。
「君の力は、きっと希望になる。でも――」
レオンはゆっくりと視線を落とし、真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「それを悪用しようとする者も、きっと現れる。……でも君のことは俺が絶対に守るから。安心して」
その言葉に、セレナは思わずうつむいた。
「……ごめんなさい。心配してくれたのに……勝手なこと、して……」
声がかすれたその瞬間、レオンの手が彼女の頬に触れ、そっと顔を上げさせた。
「謝ることなんて、何もないよ」
そう囁いたあと、レオンは優しく、けれど確かな熱を込めてセレナの唇に口づけを落とした。
レオンの唇が離れ、そっと額を重ねられる。
ーーセレナはふと、自分の体質を思い返す。
多すぎる聖力を放出していないと、体に不調をきたす。
日々レオンに聖力を与えることで、ようやく体の重さが取れて楽になり、平穏を保てている――そんな身体。
(陛下が倒れたのを見て、ティオは”毒かも知れない”って言ってた。それを癒す程の力を使ったのに……私の体は軽くならなかった。)
ごくりと喉が鳴る。
(……でも、レオンに触れると、やっぱり楽になる。それはつまり――)
胸の奥に、じんわりとした重さが残っている。
それは疲れでも、力の枯渇でもなく――
(レオンの呪いが……それだけ、強大だということ……毒よりも、ずっと……)
聖力は常にレオンに向かって流れ続けている。
そのことを実感するたび、目の前の彼を救いたいという想いと、自分の力が果たして足りるのかという不安が心を締めつける。
「……セレナ、大丈夫?……顔色がよくない」
その声があまりにも優しくて、大丈夫と答えようとして
――でも、言葉が詰まる。
レオンの腕が、ぎゅっと私の背を包み込む。
鼓動が、近い。
ぴったりとくっついた胸元から、どくん、どくんと、力強い音が伝わってくる。
「……少し、こうしてよう。」
その低く囁くような声に、胸の奥で張り詰めていたものが、少しずつほどけていく。
廊下から、誰かの足音が近づいてくる気配がした。
「……あ、邪魔しちゃった?」
不意に扉が開き、顔を覗かせたのはティオだった。
少し眉を上げて見せた彼の表情は、いつも通りの軽やかなもの。
「会場、今は封鎖中みたい。やっぱり毒みたいで、出どころを調べるために他の貴族たちも個室に移されてる。……ま、僕はちょっと、心配になって顔を見に来ただけだけど」
彼はそう言って小さく手を振ると、すぐに背を向けようとした。
「……あの、ティオ」
セレナが小さな声で呼び止める。
ティオは振り返り、優しい眼差しを向けた。
「落ち着いたら……話したいことがあるの」
「……うん。じゃあ、近いうちに……公爵邸に行くよ。」
何かを察したようにふわりと微笑むと、ティオは静かに扉の向こうへと姿を消していった。
部屋には再び静けさが戻る。
「……ありがとう、レオン」
「ん……今日はもう、無理しなくていい。少し休もう」
そう囁いた彼は、そっと額にキスを落とす。
鼓動が重なり、温もりが満ちていく。
「……せっかく練習したけどダンス出来なかったね」
「……仕方ないね。あの時レオンと踊ってて良かったかも」
二人で他愛ない会話をして、セレナのまぶたが静かに伏せられた。
その胸には、いまだ高鳴りが残っていたけれど――
(どんな嵐が来ても、私は、きっともう大丈夫。……あなたが、いてくれるから)
お読みいただきありがとうございます♡
公式サイトにて先読みとイラストギャラリー公開中♡
☞ https://serenitee-tp.com/
※お手数ですがコピペでお願いします!




