第54話 アルシェリア伯爵家の処分、セレナの決断
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
昼下がりの庭園には、柔らかな陽光と花の香りが漂っていた。
レオンと向かい合ってティータイムを楽しんでいるところだ。
「……たまには、こうして外でお茶を飲むのもいいな」
カップを傾けながら、穏やかな声でレオンがつぶやく。
「うん、風が気持ちいいし……お花の香りもして、落ち着くね」
セレナもふっと微笑んで応じる。
少し沈黙が流れた後、レオンが口を開く。
「そういえば……ユノ、来てくれたんだってね。アレクが早速お世話になったって、嬉しそうに言ってたよ」
「そうそう、治療師として駐在してくれることになったの」
セレナはカップをそっと置き、嬉しそうに話し始めた。
「最近ね、リナやアレクだけじゃなくて、他の使用人たちにも積極的に話しかけるようにしててね。……やっぱり、体調を崩す人もいるみたいで。ユノがいてくれたら、本当に助かると思うんだ」
「セレナ……よく見てくれてるね。ありがとう」
紅茶をひと口飲んだ後、レオンはふとセレナを見つめて言う。
「そういえば……叔母さんも手伝いに来てくれてるみたいだけど。無理してない?慣れないことも多いだろうし、疲れてないかなって」
「ううん、大丈夫。しっかり教えてくださるから助かってるよ」
セレナはにっこりと微笑んで、レオンの気遣いに優しく答える。
その微笑みに安心したように、レオンはそっと彼女の手を取った。
「……でも、ちょっとでも嫌だと思ったら、無理しなくていいから」
ぬくもりが伝わるほど優しく、しっかりと手を握りしめる。
セレナの胸がきゅっとなった。
「ありがとう。でも、本当に大丈夫。毎日楽しいの」
レオンは頷くと、少しの間を置いてもう一度口を開く。
「……セレナ。アルシェリア伯爵家についてなんだけど」
その言葉に、セレナはふと視線を落とす。
――アルシェリア伯爵家。
一度も愛されることなく、ただ過ごした家。
娘としてではなく、“いないもの”として扱われてきた場所。
「報復したいとか……そういう気持ち、ある?」
レオンは少し戸惑いながら、恐る恐る尋ねる。
「え?」
セレナは目を丸くして、思わず聞き返す。
けれどすぐに、ふわりと優しい笑みが浮かんだ。
「そんなこと全く思わないよ。そんな時間、もったいないもの。むしろ……あの人たちが私をここへ送るのを拒否してたら、レオンに会えなかったから」
「セレナ……」
「今の幸せの方が、ずっとずっと大切。……ちょっと顔を合わせるのは嫌かもしれないけどね」
静かで、けれど凛とした声だった。
その言葉にレオンは何も言わず、そっとセレナの手を引き寄せて、優しくキスを落とす。
セレナの言葉が静かに響いた後、しばらく沈黙が流れた。
その空気を壊したのは、小さく鼻をすする音だった。
「……セレナ様……っ」
振り向くと、少し離れた場所に控えていたリナが、そっと目元をぬぐっていた。
「す、すみません……でも……本当に、セレナ様は……強くて、優しくて……っ、私……」
言葉にならず、ただ胸を押さえて微笑むその姿に、セレナも思わず照れ笑いをした。
「……実は」
その時、隣にいたレオンがふと視線を落とし、少し迷うように言葉を探した。
「セレナが公爵邸に来たとき……本当は、公爵家からきちんと馬車を出すよう手配してたんだ。けれど、あの家は……その馬車が届く前に、セレナを粗末な馬車に乗せて、追い出すように送り出した」
レオンの声は静かだった。
けれどその奥には、確かな怒りが滲んでいた。
「……だから、伯爵家にはそれ相応の“圧”をかけてたんだ。少しずつ調べを進めて、領地の帳簿にも目を通した。そしたら地方支援金を着服していた痕跡が複数見つかって」
「……地方支援金……って、領地民のお金を横領してたってこと?」
「あぁ、すでに複数の横領の証拠が揃っている。あとは、正式に訴えを起こせば没落は確実だ。でも……セレナが、家族に少しでも情を残してるなら勝手に進める訳にはいかないなと思って。だから、判断は君に任せたかった」
レオンの言葉は静かだったけれど、その奥に、深い思慮と私への気遣いがあった。
「……それって、領地の人たちの生活にも影響してたってことでしょ?」
レオンが頷いたのを見て、セレナはしばらく黙り込んだ。
薄く震える指先を、そっと自分の胸に当てる。
(私だけなら、何も言わずに忘れたかもしれない。だけど……)
「……私だけのことなら、たぶん……何もしなかったと思う」
小さく息を吐いて、そう告げる。
「でも――領地の人たちにまで害を与えていたのなら、見て見ぬふりはできない。……伯爵家の領地民も助けたい。もう、同じ思いをする人が出ないようにしたいの」
きゅっと拳を握るセレナに、レオンがゆっくりと頷いた。
「……わかった。準備はすでに整ってる。君がそう決めたのなら――アルシェリア伯爵家、正式に処分に移そう。あとはやっておくから、セレナは気にする必要ない」
セレナはそっと彼の手を握った。
「……ありがとう、レオン。……そんなに前から私の為に動いてくれてたんだね」
その言葉に、レオンは小さく頷く。
けれど――彼の表情は、どこか曇っていた。
「……でも、ほんとは君が傷ついてないか、ずっと気がかりだった」
(……やっぱり、気にしてるんだ)
そっと手を伸ばして、彼の髪を撫でる。
「……何も感じてないって言ったら、きっと嘘になるかもしれない。でもね、私はもう大丈夫だから。だから、そんな顔しないで?」
見つめる瞳に、レオンの表情がわずかに揺れる。
「君は……ほんとうに、強いな」
ぽつりとこぼれた声に、セレナはふわりと微笑んだ。
空を見上げれば、陽が少しずつ傾き始めていた。
暖かな光が、ふたりの影をゆっくりと伸ばしていく。
「……そろそろ日が落ちるね。帰ろう」
「……ああ、そうだな」
並んで歩き出すふたりの背に、庭の花々がそっと揺れていた。
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