第50話 公爵邸へ帰る朝、ふたりの間に残る甘い余韻と小さな不安
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
──翌朝。
案の定、セレナの身体はだるくて、思うように動けなかった。
「……もう……今日、帰らなきゃいけないのに……」
セレナはぷいっとそっぽを向いた。
「……レオンのせいだからね」
その言葉に、レオンは申し訳なさそうに眉を下げる。
「じゃあ……その、ユノって使用人にお願いしに行く?」
セレナはふっと微笑みながら、やわらかく頷いた。
「うん、最後にちゃんと挨拶もしたいし……」
「……うん、わかった。じゃあ……身支度、手伝うね」
そう言ってレオンはてきぱきと動き出し、着替えを用意して髪をやさしくとき、靴まで丁寧に整えてくれる。
そして最後には── セレナをお姫様のように、そっと抱きかかえた。
(……甘やかされすぎて、だめになりそう……)
セレナが恥ずかしそうに顔を伏せると、レオンは微笑む。
そのままふたりは、ユノが待つ部屋へ向かった──
「ごめんユノ、今日も……マッサージお願いしたくて」
申し訳なさそうにセレナが声をかけると、ユノは変わらぬ所作で、すっと頭を下げた。
「おはようございます。……公爵様、初めまして。グレイシア男爵家のユノと申します。こちらの別荘で、使用人としてお仕えしております。お目にかかれて光栄です」
今日も変わらず、丁寧すぎるほどに整った言葉と所作。
それだけで、自然と空気が整っていくようだった。
「公爵夫人、どうぞこちらへ」
案内された施術台に、レオンがセレナをそっと下ろす。
セレナは苦笑いをしながら、小さな声で言った。
「……ちょっと、筋肉痛で……」
ユノは一拍置いて、静かに頷く。
「お任せください。……施術いたしますので、公爵様、少々お待ちください」
それだけを言い残し、手際よく施術を始めた。
──やがて
温かな手のひらと、神業のような圧と指の動きに、セレナの身体はじんわりとほぐれていった。
「……はぁ……気持ちよかった……」
施術が終わる頃には、セレナの身体はすっかり元通りの感覚を取り戻していた。
「ユノ、本当にありがとう。今日で帰っちゃうけど、もしよかったらまた今度公爵邸に遊びに来てね」
そう伝えると、ユノは静かに一礼する。
「是非。また必要なときに、いつでもお呼びくださいませ」
レオンも軽く頭を下げ、セレナを抱きかかえてふたりは部屋を後にした。
──小さな施術室の扉が、静かに閉じる。
その内側で、ユノはぽつりと呟いた。
「……ハイスペックすぎて逆に怖いんだけど」
その声に、誰も気づく者はいなかった。
◆
使用人たちへの別れの挨拶を済ませ、最後に馬車の前で、セレナはにこやかに騎士団長のザックに頭を下げた。
「ザック、帰りも護衛よろしくね」
その声に、ザックは背筋を伸ばし、まっすぐに応じた。
「はい、お任せください。セレナ様」
そんなやり取りを見守っていた使用人たちは、静かに一礼した。
「……?」
レオンはほんの少し眉をひそめながらも、セレナにそっと手を差し伸べる。
「……行こう、セレナ」
「うん」
セレナはその手に嬉しそうに指を絡め、軽やかに馬車へと乗り込んだ。
──カコン、と軽い音を立てて扉が閉じる。
別荘を離れ、馬車がゆるやかに揺れ始めたころ。
レオンはぽつりと問いかけた。
「……セレナ。なんであんなに騎士団長と仲良くなったの?」
車窓の外では、水辺の光がきらきらと揺れている。
それはまるで、ふたりの今の心のように穏やかだった。
セレナは肩をすくめて、小さく笑う。
「ふふふ、実はねミアさんが、“体力づくりしてる”って言ってたの」
「……リュシアンの奥さんの……」
「うん。それを聞いて……私もやってみようかなって思って、ちょっと前からザックに教えてもらってたの。……ちょっとでも元気でいたくて」
レオンはふっと息を呑み、そのままセレナをぎゅっと抱きしめた。
「……セレナ、最近色んな事始めてて凄いよ。……尊敬する」
セレナは顔を真っ赤にして「もう……からかわないで……」と抗議しかけたが、その唇は── レオンの優しいキスにすぐ、塞がれてしまった。
揺れる馬車の中で、ふたりはしばらくの間、ただ静かに唇を重ね合っていた。
そしてセレナはふと、隣のレオンに目を向け、小さく問いかける。
「ねえ、レオン。こっちに来たとき、ちょっと疲れてたでしょ?……体調、大丈夫? 少しは、落ち着いた?」
レオンは一瞬目を瞬かせたあと、やさしく微笑んだ。
「うん、大丈夫。旅行の間、セレナにたくさん触れれたから……」
照れくさそうに笑うその表情は、あまりにも幸せそうで。
セレナも笑い返しながら、胸の奥が少しだけ、きゅうっと締めつけられた。
(そうじゃなくて……“あの痣”、どうなのかって、聞きたかったのに)
けれど言えなかった。
レオンがあんなふうに笑っているのに、水を差すようで。
セレナはそっと目を伏せ、小さく頷いた。
「……うん。よかった」
そして── ふたりはゆっくりと、再び暮らしの待つ公爵邸へと帰っていく。
幸せの余韻は、たしかにあたたかく残っていた。
けれどその奥底には、ふと心の隅に引っかかるような、かすかなざわめきが残っていた。
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