第48話 海辺と白いワンピース──誰にも見せたくない、君の姿
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、目を閉じていてもまぶしいほどだった。
目覚めた瞬間から、胸の奥がざわざわと落ち着かない。
今日は海に行くだけなのに、どうしてこんなに心が弾んでしまうんだろう。
「これ、リナが用意してくれたの。海遊び用にって」
レオンに向けてぱっと広げた布は、純白のふんわりとしたワンピースドレスだった。 薄手で、陽の光を受ければうっすらと透けてしまいそうな柔らかい生地。
「……着替えておいで。アレクとリナに声をかけてくる」
そう言ってレオンは微笑みながらセレナの頭をそっと撫で、部屋を出ていった。
◆
着替えを終えたセレナは、胸元で両手をそっと重ね、ドアの方を見つめていた。
どきどきと高鳴る鼓動が止まらない。
──そのとき、ドアがそっと開いた。
風に揺れるたび、白い布がふわりと舞い踊る。
華奢な手足と細い肩、白く透き通った肌。
レース越しに、うっすらと体のラインが浮かんでいた。
「……やっぱり、海に行きたくない」
無言のままレオンがぐっと歩み寄り、セレナを強く抱きしめる。
「こんな可愛い姿、誰にも見せたくない……」
「……もう、レオンったら……」
小さく身を震わせたセレナを、さらにきつく抱きしめた。
「でも楽しみにしてたし……行こう。海に入るまでは、これを着てて」
そう言って、あらかじめ用意していた自分の上着を脱ぎ、セレナの肩に羽織らせる。
肌が隠れたのを確認して、小さく頷いた。
「……これでよし」
くすくすと笑うセレナは、レオンにぴたりと寄り添った。
レオンはシャツにズボンの軽装で、隣を歩く彼の手の温もりに胸を高鳴らせながら、ふたりで外へと歩き出す。
外へ出ると、アレクとリナが出迎えてくれた。
「セレナ様、おはようございます!誘ってくださってありがとうございますっ!」
元気な声と輝く笑顔に、セレナも自然と微笑み返していた。
──そして。
開けた景色の先に、青く広がる海が見えた。
朝の陽を受けて、水面がきらきらと眩しく輝いている。
「……わあ……」
夜とは違い、太陽に照らされた海。
その美しさに、胸がいっぱいになる。
そんなセレナに、リナがそっと傘を差し出してくれる。
「日差しが強いですから、気をつけてくださいね、セレナ様」
柔らかく声をかけながら、頭上に影を作ってくれた。
セレナは振り返り、にっこりと嬉しそうに笑う。
「ありがとう、リナ」
そのまま、リナとともに波打ち際へ。
準備してきた小さな箱を手に、目を輝かせながら足元の砂浜に散らばる貝殻を夢中で拾い集める。
拾い集めた貝を大切に箱へしまうと、セレナはぱたぱたと駆けてレオンのもとへ。
「ねえ、見て。いろんな形があって、すごく綺麗なの。初めて見たから嬉しくって……」
笑顔を浮かべるセレナに、レオンもアレクも、後ろから来たリナまでもが自然と頬をゆるめた。
レオンは何も言わずに、セレナの髪をやさしく撫でる。
そんな空気のなか、セレナはふと思いついたように手を叩いた。
「ねえ、みんなで海、入らない?」
にこにことした提案に、アレクとリナは少し困ったように微笑んだ。
「すいません……海用の着替えを持ってきていなくて」
「私たちはここで見守ってます」
リナは小さく頭を下げながらも、にこっと笑みを浮かべた。
それから帽子を手に、そっとセレナの頭にかぶせてくれる。
「日焼けにお気をつけくださいね、セレナ様」
「……ありがとう、リナ」
セレナは目を細めて帽子のつばを押さえた。 そのままレオンのほうを見上げて言う。
「……ふふ、じゃあ、レオンとふたりで!」
あまりに眩しいその笑顔に、レオンは思わず目を細めた。
ふたりは手をつないだまま、波打ち際へと向かって歩き出す。
◆
波打ち際で、セレナはレオンの上着をそっと脱いだ。
白いワンピース姿が、朝の陽に照らされてふんわりと浮かび上がる。
ふたりは、波に足を取られそうになりながら、膝まで水に浸かる位置まで進んでいく。
冷たくも心地よい海水が肌を撫でる。
セレナは小さく笑うと、突然手ですくった水をレオンに向けてかけた。
ばしゃっ──!
きょとんとしたレオンも、すぐに笑って仕返しするように水をかける。
ばしゃばしゃと水をかけ合い、無邪気な笑い声が砂浜に響き渡った。
けれど、一瞬。
重なった笑い声のなかで、ふとレオンの動きが止まった。
濡れたセレナのワンピースが素肌に張り付き、 太陽の光を透かして体のラインが浮かんでしまっていた。
「……っ」
レオンは何も言わず、すぐさま浜辺に戻って、自分の上着を手に取る。
「上着濡れてもいいから、これを羽織って」
戻ってきたレオンは、セレナの肩にそっと上着をかけ、丁寧に前を結ぶと、ようやく小さく息を吐いた。
「……これで、安心だ。」
「あ、ありがとう。レオン……でも、そこまで気にしなくても、ここにいるのはアレクとリナだけだよ?」
「アレクでも嫌だ……誰にも見せたくない」
その低く真剣な声に、セレナは胸がきゅっとなるのを感じた。
そして──しばらく海を満喫すると。
レオンはセレナの手を取り、そのまま抱き寄せて歩き出す。
リナとアレクがいる場所へと向かって。
ふたりの前に立ったレオンは、きっぱりと言った。
「セレナがかなり濡れてしまったから、風邪をひくといけない。一度、部屋に戻る」
セレナはレオンを見上げて、小さくくすっと笑った。
そしてリナとアレクに向かって振り返る。
「リナ、アレクごめんね。ふたりはせっかくだから楽しんで」
その優しい申し出に、リナとアレクは目を見合わせてから、ふんわりと微笑んだ。
「……せっかくですし、のんびりしましょうか」
「……はい、そうですね」
レオンはセレナを優しく包むように抱き寄せたまま、静かに踵を返し、部屋へと戻っていく。
潮の香りが、やわらかく鼻をくすぐる。
足元には波が寄せては返り、遠くからは海鳥の鳴き声が聞こえていた。
「また来ようね」
そう呟いたセレナの声に、レオンは微笑みながら頷いた。
今日という日の記憶が、どうかずっと色褪せずに残りますように――
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