第43話 新婚旅行準備と初めてのおもてなし
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
数日後―― 静かな緊張感が、執務室を包んでいた。
レオンはアレクを机越しに見据え、口を開く。
「……長期で、休みが欲しい」
その声は、静かでありながら揺るぎない。
アレクは手元の書類を置き、眉をひそめた。
「……この前、外泊なさったばかりですよ?」
呆れを隠さず、淡々と告げる。
それでもレオンは、微動だにしない。
「……2週間ほどだ。移動もあるからな」
「2週間!?」
アレクの顔が一瞬だけ引きつる。
「2週間も屋敷を空けるおつもりですか?」
「……まだ新婚旅行に行けてないし、こういうのも必要だろ」
アレクはこめかみに手を当てて、大きくため息をついた。
「……じゃあ、その間の公務はどうなさるおつもりで?」
「……」
レオンはちらりと横を見やる。
そこには―― 崩れそうなほど積まれた、書類の山。
アレクはその山を指さした。
「――この書類を全部処理なさったら、許可しましょう」
「……!」
レオンの青い瞳がかすかに輝く。
アレクは肩をすくめて言葉を続けた。
「それが片付いたら、好きなだけ新婚旅行でも何でも行ってください」
するとレオンは、当然のように続ける。
「お前も来るんだろ」
「……は?」
アレクは固まる。
ペンを手にし、作業に取り掛かりながらレオンは淡々と続けた。
「護衛も兼ねてるからな。もちろん、他にも護衛は連れていくけど」
「…………」
アレクは黙ったまま硬直した。
レオンは書類に目を落とし、ぼそっと呟いた。
「……リナも連れて行くか。セレナが喜ぶだろうし……」
当たり前のように、旅行計画を進めていく。
そして書類に没頭しながら、小さく呟いた。
「……1週間で終わらせよう。1週間後に出発だ」
その揺るぎない様子に、アレクは呆れながらも微笑んだ。
「はいはい……」
そう返して、アレクは立ち上がる。
「では、休憩ついでにセレナ様とリナ嬢にお伝えしてきますね」
レオンは頷き、手を止めることなく書類を処理し続けた。
◆
廊下を歩きながら、アレクは小さくため息をついた。
(……まったく、セレナ様のためなら命懸けなんだから)
どこか微笑ましさを感じつつ、セレナの部屋へ向かう。
ノックをして名乗ると、中からリナの元気な声が返る。
「はーい!どうぞー!」
「失礼いたします」
静かに頭を下げたアレクは、柔らかく告げた。
「公爵閣下からの伝言です。1週間後に新婚旅行へ出発されるとのことです」
セレナは瞬きをし、頬を赤らめた。
リナは歓声をあげる。
「えっ、旅行!?ほんとですか!?」
アレクは苦笑を浮かべて続ける。
「はい。行き先は公爵家の別荘。リナ嬢も同行とのことです」
「やった~~~っ!!」
リナの笑顔が弾け、セレナも自然と微笑んだ。
その光景を見ながら、アレクは心の中でつぶやいた。
(……護衛も、悪くないか)
伝言を終えたアレクは、また書類の山へ戻っていった――
◆
セレナとリナは、準備を想像するだけで浮き足立っていた。
「リナ、何を持っていこうかな……」
「海遊び用のサマードレスは絶対必要ですよっ!」
はしゃぐリナに、セレナも笑みをこぼす。
そんな時―― 騎士が手紙を届けてきた。
差出人は、リュシアン・アルバレスト。
――先日リナに教わりながら、一生懸命綴った招待状をリュシアン宛てに送っていた。
(……もう、お返事が来たんだ)
胸の高鳴りと共に、セレナは封を切る。
中には丁寧な筆跡でこう書かれていた。
――『ご招待、誠に光栄です。二日後の午後に、夫婦そろって伺わせていただきます』
その文面に、セレナの胸が高鳴る。
セレナが手紙をリナの方に傾けると、隣でリナも覗き込んだ。
「うわぁ、楽しみですねっ」
「……うん!そっちも準備しないとね」
セレナも、ふわりと笑った。
◆
そして迎えた当日。
セレナは玄関ホールで二人を待っていた。
(ちゃんと挨拶できるかな……レオンは忙しいし、私ひとりで頑張らなきゃ)
「公務のため公爵様は立ち会えません」とアレクに告げられた時は不安だった。
けれど、これは“公爵夫人”としての一歩。
任されたことが、少し誇らしく感じられた。
(……そういえば今朝、”ごめん”ってしょんぼりしてたっけ)
子犬のように項垂れた姿を思い出し、緊張が少し和らいだ。
やがて馬車が到着し、扉が開く。
二人の姿が現れると、セレナは深く頭を下げた。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。お会いできて光栄です」
リュシアンが近づき、礼を返す。
「こちらこそ、お招きいただき光栄です、公爵夫人。今日は妻を同伴しております」
彼の隣には―― オリーブ色の髪とヘーゼルの瞳を持つ、華奢な女性。
まるで小動物のように可憐な雰囲気。
(……可愛らしい方)
「ミア・アルバレストと申します。公爵夫人にお会いできて光栄です。本日はよろしくお願いします」
柔らかくおっとりとした声。
セレナも笑顔で深く頭を下げた。
応接室で、セレナはふたりにお茶とタルトを振る舞った。
香り立つ紅茶と季節の果実のタルト。
ミアの目が輝き、リュシアンが微笑みながら話しかける。
「手紙に、領地経営に興味があると書かれていましたね」
「はい……失礼かとは思いましたが、レオンには内緒でお伝えしたくて」
少し勇気を出して、続けた。
「……私はまだ何も分からないけど、時間がかかっても、レオンの支えになりたいんです」
胸に手を当て、まっすぐ見つめる。
「できることがあれば、教えていただきたくて……」
「もちろん、お力になれることなら喜んで。では私は――」
リュシアンは立ち上がり、カップを置いた。
「まず書庫を拝見してきてもいいですか?その間、ミアをお願いできますか。家にばかりいるので、仲良くしてやってください」
そう言って、軽くウインクを送り、部屋を後にする。
残された二人は顔を見合わせて、微笑んだ。
次の瞬間――
「あぁ……公爵夫人って、こんなにお綺麗だったなんて……噂どおりですわ!」
ミアが目を輝かせて、矢継ぎ早に話す。
「お会いしたいなと思っていたら招待状が届いて……。ティオにもすごく勧められて……!」
さらさらと髪を揺らしながら、言葉を続ける。
「女神のような方だなんて……!」
「め、女神……!?」
(聖女ってこと、リュシアンさん夫妻には話してないってティオが言ってたけど……知ってるのかと思ってびっくりした)
その勢いに少し驚きつつも、セレナは自然に笑った。
「……私も、お会いできて嬉しいです。夫人こそ、まるで妖精のようです」
ミアは顔を赤くして、指先をもじもじと動かす。
「……う、うれしいですっ……!」
柔らかな空気が二人の間に流れると、セレナはふと口を開いた。
「あの、……ミアさんって、呼んでもいいですか?」
差し出した言葉に、ミアは花が咲いたような笑顔を返した。
「もちろんですっ!!」
「……私のことも、名前で呼んでください」
こうしてふたりの距離は、一気に近づいていった。
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