第42話 やきもちと、雨宿りの甘い夜
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
ティオとスイーツショップに戻り、それぞれ帰路につくことになった。
仲の良い兄弟を見送った後ーー
「……降ってきそうだね」
私が空を見上げると、レオンも小さく目を細めた。
「……急ごうか」
そんな会話を交わしながら、手を繋いで街を歩き始めた――その瞬間。
ぽつ、ぽつ。
「……っ!」
冷たい雫が、頬に落ちた。
すぐに、それはざあっと音を立てて強くなり、あっという間に本降りになった。
「セレナ!」
レオンがすぐに私を抱き寄せ、上着の中に隠すように、ぎゅっと包み込んだ。
街角に見えたホテルの方へと私を導いた。
小走りに駆け込んで、ようやく雨を避ける。
エントランスへ滑り込むと、レオンはすぐに私の頬に手を当てた。
「冷えてないか? 手、見せて」
「え、う、うん……」
促されるままに手を差し出すと、レオンの大きな手が、私の指を包み込むように温めた。
「……セレナ、今日ここに泊まろう」
「え?……これくらい平気だよ。公爵邸までそんなに遠くないから」
「濡れたまま帰って風邪を引いたら大変だから。……絶対に、無理はさせない」
どこまでも真剣な眼差しに、私は頷くしかなかった。
◆
こうして、私たちは急遽、皇都中心部にあるホテルで、一夜を過ごすことになった。
レオンはホテルの一室に入ると、私をすぐにタオルで包み、ベッドサイドの椅子に座らせた。
(すごく豪華なお部屋……)
そして、レオンは携帯していた小さな通信石にそっと触れる。
「……アレク、俺だ。今夜はこのまま一泊する。護衛は、適度に距離を取って休息を取れ」
低く、簡潔な指示。
きっと、屋敷から少人数の護衛が付いてきていたのだろう。
連絡を終えると、レオンは私のもとに戻ってきた。
そしてそっと私の髪や頬を拭き始める。
その仕草は、まるで壊れ物を扱うみたいに優しかった。
「冷たかっただろう……ごめんな」
「自分で出来るから大丈夫だよ。レオンが風邪引いちゃう」
私の制止も聞かずに手を動かし、丁寧に私を拭き終えるとレオンはほっとしたように、小さく息をついた。
「次はレオンの番ね。」
レオンを座らせるとわしゃわしゃと包み込むように髪の毛を拭いていく。
拭きながらレオンと目が合うと私は口を開いた。
「……ティオから、隣国の王女様に言い寄られてた話、聞いたよ」
わざと、拗ねたような声で。
レオンが、ぴたりと固まった。
「……ち、違う。本当に、何もなかった。俺は……最初から、誰にも興味なんてなかった」
必死に弁解するレオンが可愛くて、思わず笑いそうになる。
「ふふ……わかってる」
「……セレナこそ。ティオに手握られて。……少し妬いた。」
今度はレオンが拗ねたように言うと、ティオに握られた方の手を取った。
ゆっくりと手の甲に唇を押し当てられたかと思えば、
ちゅっ、ちゅっーー
何度も、何度も音を立てて、啄むようにキスを落とされる。
その動作はいつもより少し強引で、でも――どこか、拗ねたような雰囲気を纏っていた。
かすかな声が漏れた瞬間、レオンはじっと私を見つめた。
「……俺以外に触れさせないで……」
その低く掠れた声に、胸の奥がずくんと疼く。
「……俺、独占欲強いのかもしれない」
ぎゅ、と強く抱きしめられて、セレナはそっと笑った。
「……大丈夫。私は、レオンしか見てないから」
その夜、灯りが落ちた部屋には、甘い時間が流れていった。
◆
身体をそっとレオンに預けると、彼も何も言わず、私を包むように抱きしめてくれた。
少し早かった鼓動が、ゆっくりと落ち着いていくのを感じながら――私たちは、静かな夜を過ごした。
「……今日は急遽お泊りになったけど、こういうのも楽しいね」
私がそういうと、レオンは頷き、少し考える素振りを見せた後に口を開いた。
「セレナ……まだ、新婚旅行も行ってないし、別荘で少しゆっくりしに行くのどう?」
その提案に、セレナは恥ずかしそうに、でも小さな笑顔を浮かべた。
「それ、すっごく楽しそう。……別荘って、どんなところなの?」
レオンは、セレナの髪を撫でながら、少しだけ懐かしそうに目を細めた。
「子供の時に、一度だけ行ったっきりだけど……海辺にあって、すごく静かなところだった」
「……海、行ってみたい……」
セレナは、ぽそりと呟く。
その小さな願いに、レオンはふっと微笑んだ。
「きっと、セレナも気に入るよ」
やさしく、あたたかい声。
セレナの胸が、じんわりとあたたかくなる。
レオンは、セレナの手をそっと取って、指を絡めながら続けた。
「……仕事、早く終わらせて。なるべく、ゆっくり旅行しよう」
その言葉に、セレナはこくんと小さく頷いた。
そっと唇を重ねると、ふたりだけの非日常的な夜が、静かに、穏やかに更けていった。
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