第41話 4人でのティータイムと幼馴染の記憶
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
思いがけない出会いから始まった、四人でのティータイム。
ぎこちなさも次第に解け、心地よい距離感が生まれていた。
「……そういえばさ。うちの妻が、公爵夫人の噂をちょっと耳にしたらしくて。“とっても綺麗な方なんだってね”って、興味津々だったよ」
「そ、そんな……っ」
「……夫人は、見る目があるな。セレナは確かに、美しいからな」
そう言ってレオンは、二人の存在など気にすることなく私にだけ視線を注ぎ、柔らかな笑みを向けてくる。
その何気ない仕草に、私は嬉しさと照れを隠すのに必死だった。
ひとしきり会話が盛り上がったあと、リュシアンがふとカップを置き、落ち着いた声で尋ねた。
「ところで、レオン。お前の領地は、最近どうなんだ?」
レオンはカップをくるりと指先で回しながら答える。
「忙しいけど、特に大きな問題はないよ。アレクがほとんどまとめてくれてるし、俺がそれを確認する感じかな。あいつ、もともと細かい作業が得意だから助かってるよ」
「あぁ、ロイエル卿か。変わらず有能だな」
感心したようにリュシアンが頷くと、レオンが軽く笑って言葉を継いだ。
「……まあ、アルバレスト伯爵家は、実質お前が運営してるもんな」
その言葉に、セレナは瞬きをして驚きの声を漏らす。
「わあ……そうなんですね」
素直な感嘆に、リュシアンは肩をすくめて笑った。
「俺がやらないと、うちの家は傾いちゃうからさ」
冗談のように言いながらも、その目はどこか優しい色を宿していた。
「うちの兄貴が伯爵なんだけど、完全に脳筋でね。剣と筋肉ばっかりで帳簿なんて見たことないんだよ」
「そうそう。僕も好きにやってるから、リュシアン兄さんが頼りなんだ」
軽口を交わすティオとリュシアンのやり取りに、セレナは思わずくすりと笑う。
リュシアンはカップを持ち直すと、少しだけ穏やかな声で続けた。
「……だから、レオンも困ってることがないかと思ってな」
自然な言い方の中に、友人へのさりげない気遣いがにじんでいた。
(……領地、か)
私はその言葉を心の中で繰り返す。
(私も、いつか――レオンの力になれたらいいな)
今の自分にできることは少ない。
それでも、いつかそうなれたらと、ふと未来を願っていた。
「……ところで、例の水路、進展あった?」
「ああ、アルベイン村の話だな。ようやく最近、目処が立ってきたよ」
セレナは紅茶を口にしながら、その会話に静かに耳を傾けていた。
ーーその時、不意にティオが私の手を取って勢いよく立ち上がった。
「この二人が話し出すと長くなるから、外の出店でも見に行こうよ!」
「えっ……」
その勢いにつられ、私もつい立ち上がると、そのままティオに引っ張られてしまう。
「大丈夫!すぐ戻るから~!」
「ティオ……! はぁ……少しだけだ。そして、手を握るな」
レオンが釘を刺すように言うと、ティオは肩をすくめて手を離した。
私はその様子を見て、胸の奥がむず痒くなるようなくすぐったさを感じていた。
「すぐ戻るね、レオン」
振り返ると、レオンはじっとこちらを見つめていた。
言葉はなかったけれど、その眼差しは「行ってほしくない」と語っていて――
けれど私の意思を尊重しようとする優しさも、そこには確かにあった。
私は小さく頷き、レオンの元を離れた。
◆
ティオと二人きりの“小さな冒険”に心を弾ませながら、出店の並ぶ通りへと足を向ける。
軽食やデザートが気軽に楽しめる店が軒を連ね、賑わいを見せていた。
「セレナちゃん、何か食べたいのある?僕はまた甘いものいきたいな〜」
「……えっと、これ、食べてみたい」
私が遠慮がちに指差したのは、ラスクを扱う店だった。
するとティオは、自分の上着をベンチに広げて「座ってて」と微笑み、二人分を買ってきてくれた。
「お待たせ。一緒に食べよ」
「ありがとう、ティオ」
ラスクの甘い香ばしさが風に乗ってふわりと漂う。
初めて口にしたのに、カリッという食感とともに、どこか懐かしい気持ちになる。
「……美味しい」
「でしょ?子供の頃、家を抜け出してレオンとよく食べてたんだよ〜」
「えっ、そうなんだ? ふふ……その頃の話、もっと聞きたいな」
ティオは懐かしむような瞳をして、ゆっくりと話し始めた。
「うちの母さんと、レオンの母さんがすごく仲良くてね。自然と俺たちも会う機会が多かった。でもさ、あいつ子供の頃から無口でさ。なかなか打ち解けられなかったんだ」
私は頷く。
知らなかったレオンの子供時代の話に、心が自然と引き寄せられていった。
「でもしつこく話しかけて、無理やり外に連れ出してさ。森で探検して怒られたことも何度かあったっけ。段々と、しぶしぶつき合ってくれるようになった感じかな~」
(……ティオらしい)
「レオンは口数多くはないけど、優しいんだよね」
「……うん」
語りすぎることのないティオの微笑みから、その中にある深い信頼がしっかりと伝わってきた。
「そういえば……“あの”公爵殿って、どういうことだったの?」
気になっていたことをそっと尋ねると、ティオは吹き出すように笑った。
「あはは、それね。社交界ではレオンが女性にまったく関心を示さないもんだから、“氷の貴公子”なんてあだ名つけられてるらしいよ」
「……やっぱり、人気なんだね……」
「うーん、呪いのことがあっても、あの見た目と家柄だからね。特に隣国の王女なんかは、しつこく迫ってたよ」
少しだけ気持ちが沈んでしまった私に、ティオは慌てて手を振った。
「で、でも!セレナちゃんしか見てないから、ほんとに!あんなデレデレなレオン、初めて見たもん!」
「……本当に?」
「うんうん!」
ティオは苦笑いしながらも真剣にうなずいていた。
「それとさ、さっきちょっと話に出たけど――兄さんの奥さん、ぜひ一度会ってほしいんだ。セレナちゃんと相性よさそうだし、きっと研究も捗ると思うよ!」
茶目っ気たっぷりな笑顔の奥に、どこか現実的な期待を滲ませながら、ティオはそう言った。
「研究……?」
私が聞き返したその時――空を覆っていた雲が、ぽつりと雫を落とし始めた。
「わ、雨降ってきそう!急いで戻ろっか!」
ティオの声に促されながら、私たちは並んでレオンの待つ場所へと足早に戻っていった。
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