第40話 ご褒美にスイーツデート――初めての皇都中心部の町
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
――黒髪と黒い瞳。
かつては忌み嫌われていたそれが、聖女の証だと言われてから、しばらくの時が流れた。
正直なところ、今でも―― 自分が聖女だという実感は、どこか遠い。
それでも。
少しずつ、自分にできることを頑張ろうと決めた。
伯爵邸にいた頃には考えられなかったほど、私は前向きになっていた。
鏡に映る自分の姿を見ても、もう卑屈にはならなかった。
ーーそして、まだ綺麗とは言えないかもしれないけれど、それでも私は自分の手で文字を書けるようになっていた。
今日も、小さなノートを片手に、ソファへ腰掛けてレオンの帰りを待っている。
執務を終えて彼が部屋に入ってくるのを見て、私は胸の奥で小さく深呼吸した。
「レオン」
そう呼びかけると、レオンはすぐにこちらへと歩いてくる。
「どうした、セレナ」
私はそっとノートを差し出した。
その中には、ぎこちないながらも丁寧に並んだ文字たち。
「……ね、見て。練習したの」
レオンはノートを受け取り、 ぱらぱらとページをめくると、
「……すごい」
と、一拍置いて私をぐいっと引き寄せた。
「すごい、セレナ……!!」
その真剣な表情から、心の底から感動していることが伝わってきた。
「え、ええっ……そんな、大げさだよ……!」
「大げさなんかじゃない。セレナは……本当に、すごい」
顔を赤らめて慌てる私に、彼は微笑みながら言った。
「だって、リナが言ってた。 セレナは手先が器用で、一度見たものをすぐに再現できるって。だから文字の習得も早いはずだって」
私は頬を染め、苦笑しながらも嬉しさを隠せなかった。
そんな私に、レオンは真顔で頷く。
「やっぱり、セレナは天才だったんだな」
「もう……!」
たとえ冗談でも、からかいでも―― その言葉は、今の私にとって何よりもあたたかかった。
「……セレナ、頑張ったご褒美。……何がいい?」
「ご、ご褒美……?」
顔を上げると、レオンは微笑んで、そっと私の頬へと手を伸ばした。
レオンの指先が頬をなぞり、そのまま耳の後ろへゆっくりと滑っていく。
触れるたびに、くすぐったいような感覚が体を駆け抜けた。
――その瞬間、ふとリナの言葉が脳裏に蘇った。
「あっ、そうだ!皇都中心部の方に、話題のスイーツショップがあるってリナが言ってて……明日レオン少し時間あるって言ってたでしょ?一緒に行ってみたい!」
私が勢いよく話すと、レオンは一瞬ぽかんとした顔をしてから、瞬きをした。
「……うん。明日いこう」
「…………?」
セレナは評判のスイーツショップを思い浮かべながら、胸を弾ませて眠りについたのだった。
◆
あいにくの曇り空のなか、私とレオンは皇都中心部までやって来た。
「わぁ、この間立ち寄った町とはまた違った雰囲気だね。」
馬車を降りると、目の前には賑やかな景色が広がる。
軒を連ねる格式ある店々。
すれ違う人々の笑い声、行き交う荷馬車の音。
思わず、私は目を輝かせた。
「……セレナ、はぐれないでね。指輪もしっかり付けてて」
「うん!」
小指には、変装用のアーティファクトがしっかりとはめられていた。
その確認を終えると、私たちはリナに教えてもらったスイーツショップへと向かった。
賑わいの続く通りを少し進むと、格式高い街並みのなかに可愛らしく佇む一軒の小さなお店が見えてきた。
店内へ入ると、清潔でさっぱりとした空気のなかに、あちこち飾られた花々が目に飛び込んでくる。
紅茶のいい香りと、きれいに積まれた焼き菓子たち。
それだけで、心がわくわくしてきた。
「わぁ……!」
思わず声を上げると、隣のレオンがふっと笑った。
「……こちらにどうぞ、お姫様。」
案内された席へ、丁寧にエスコートしてくれるレオン。
思わず見上げたその表情は、「甘やかしたい」がにじみ出ていた。
席につき、手渡された冊子を開くと、イラスト付きでスイーツが紹介されていた。
「あ、これこれ……ぱふぇ?……がすごいらしいってリナが言ってたの。」
「じゃあこれにしようか。……イラスト付きなのは珍しいな。」
注文を済ませた後も二人で冊子を眺めていると、すぐに商品が運ばれてきた。
「すごく可愛い!なにこれ、クリームとフルーツと……?」
「初めて見るな。」
スイーツに目を輝かせている私たちのもとへ、タイミングよく店主が近づいてきた。
「当店では、カルミア帝国初の“パフェ”という、フルーツとアイス……氷菓子のようなものを使用したスイーツをご提供しております。溶けますので、どうぞお早めにお召し上がりくださいませ」
聞き慣れない名称に少し戸惑いながらも、大きなイチゴが乗ったパフェを一口。
「!! 美味しい!」
甘くて冷たくて、すごく濃厚。
レオンが注文したぶどうのパフェも気になって、ちらりと視線を向けると――
「……はい、あーん」
レオンが自分のスプーンで一口すくって差し出してくれた。
「っ……レオン、恥ずかしいよ……」
周囲の目を気にして小声で抗議すると、レオンは軽く口角を上げただけで、手を引っ込めない。
「早く食べないと、溶けるよ?」
意地悪なその言葉に、私は観念して小さく口を開けた。
「……あーん」
二人でパフェを分け合い、あたたかな空気に包まれていた――そのときだった。
「あれ?レオンに……セレナちゃん?」
振り返ると、そこにはティオと、ティオによく似た涼しげな目元の男性が立っていた。
「……ティオ、と……もしかしてティオのお兄様?」
私がぽつりと呟くと、レオンが小さくため息をついた。
「セレナちゃんアーティファクトしてるのー?見せてー」
ティオが気楽に話しかけてくるのをよそに、隣の男性は静かにこちらを見つめて名乗った。
「……はじめまして、公爵夫人。アルバレスト伯爵家次男の、リュシアン・アルバレストです。」
礼儀正しく、落ち着いた声。
初対面の礼節を何より重んじる気質と、育ちの良さがにじみ出ていた。
「……はじめまして。……セレナ・ノクティスです。」
思わず背筋が伸びるような、そんな丁寧な挨拶だった。
――のだが。
「いやぁ、こんなところでレオンに会えるとは。しかも、こんな甘々な現場に……ふふっ、貴重だな。」
「良いもの見たね、兄さん」
意味ありげに笑い合う二人を見て、私はティオと息ぴったりだ。と内心突っ込む。
レオンは露骨に眉をひそめて、不機嫌そうだった。
「……見なかったことにしろ」
「そうしたいのはやまやまなんだけどねぇ。――ご一緒しても?」
「やめろ。」
私は顔が真っ赤になって、火が出そうだった。
(は、恥ずかしい……知り合いに会うなんて……)
ティオとリュシアンさんは、いつの間にか同じ席に座り、自然と会話に加わっていた。
ティオに似ているからか、すぐに気が緩んでいくのを感じた。
「うんうん。”あの”公爵殿も、ちゃんと人並みに恋愛するんだねぇ。しかも、めちゃくちゃ甘いじゃないか」
「……リュシアン、黙れ」
「“あの”……?」
私が首をかしげると、レオンはリュシアンさんの口を手でふさいだ。
「これ以上喋ったらただじゃおかないからな」
レオンの睨みは鋭かったが、本気で怒っているというよりは、親しみを感じるやりとりだった。
ティオはやれやれという表情でその様子を見ていた。
「最初は僕とレオンが仲良くなったんだけど、子供のころからお互いの家に行き来してて、兄さんとも自然と仲良くなったみたい。」
「……仲良いってほどじゃない。」
(レオン拗ねてる。……かわいい)
普段は見られないレオンの一面に、胸がじんわり温かくなる。
子供の頃から信頼できる人が、レオンのそばにいた。
そんな彼の横顔をそっと見つめながら、私は思った。
笑ってる顔も、拗ねた顔も、全部――愛おしい。
これからは、私もレオンを支えていけたら。
そんな願いを、胸の奥にそっと灯したのだった。
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