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第37話 “聖域”が開かれた瞬間――セレナの力とレオンの救済

※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。

以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。


基本糖分高めで甘やかされます♡

ティオが“聖域”と呼ぶ扉の前で、私は手をかざした。

重々しい扉が淡く光をまといながら――まるで何かに導かれるように、音もなく開いていく。


「……開いた……!?」


ティオが少し驚いた声を漏らす。


「今まで何を試してもびくともしなかったのに……やっぱり、セレナちゃんが触れたら、まるで封印が解かれたみたいに、すんなり開いたよ」


その一言に、私の心臓がどくんと脈打った。


自分でも、何が起きたのか分からない。 でも――この扉は、まるで私だけを待っていたように感じられた。



私、レオン、ティオの三人は、静かに地下へと足を進める。

階段を下りるたび、空気が変わっていく。

澄んでいて冷たい静けさが、肌をやさしく撫でるようだった。


石造りの大扉を抜けた先に広がっていたのは、大理石のように滑らかな石の円形の空間。


どれだけ時が流れたのか想像もつかないのに、その空間は、まるで時間が止まっていたかのように美しく保たれていた。


「……ここが、“聖域”」


ティオが小さく呟く。


部屋の中央には、低い祭壇のような台座。

不定形の白いクリスタルのような石が、静かにそこに置かれていた。


私は自然とその方へと歩み出る。

吸い寄せられるように、手をそっと石にかざした。


その瞬間――


石が、淡く静かに光を放つ。

その輝きは、やわらかくも確かに空間全体の“何か”を呼び覚ました。


……空気が震え、静寂がまるで呼吸を始めたように感じられる。


「……っ」


レオンが、胸元を押さえた。

一瞬だけ驚いたような顔をした彼だったが、その表情はすぐに安堵に変わっていった。


「……体が、軽い」


その言葉に、私は思わず彼の方を見つめた。

けれど何かを言う前に――


「見て」


ティオの声が私たちを現実へと引き戻す。


床の中央。

かすれて読み取れない魔法陣のような模様が、ほのかに光を帯びていた。


「やっぱり……魔法陣のようだね。君に反応してるのかもしれない」


ティオは石と模様とを交互に見つめながら、眉をひそめる。


「まだ詳しくはわからないけれど……これは、大きな手がかりになりそうだ」


(この場所にはきっと――)


長く閉ざされていた何かを動かす力がある。

……そして、それ以上に何かが起きることはなかった。


聖域は再び静けさを取り戻し、胸に残る不思議な感覚だけを残して、 私たちは静かにその場を後にした。



公爵邸へと馬車が戻ると、私たちは並んで玄関をくぐり、静かな部屋へと向かった。


「……疲れてない?」


「ううん、大丈夫」


レオンは壊れ物を扱うように、そっと私を抱き寄せる。


「……ティオに会って色々分かったけど……辛いこと、思い出してない?」


「うん、私は大丈夫。……だって、私にはレオンがいるから」


レオンは黙ったまま、私の存在を確かめるように、少し強く抱きしめ返した。


「……レオンこそ、無理してない?」


(私より、きっとレオンの方が辛いはず……)


私の心配をよそに、レオンは静かに私の額へとキスを落とす。


「セレナがそばにいてくれるから、大丈夫」


ふたりで顔を見合わせ、くすりと笑い合った。 私は小さな包みをそっと取り出す。


「ねえ、レオン」


私の手元を見て、レオンが小さく首をかしげる。


「……今日、町に寄った時にね、これ選んだの」


私は包みを差し出し、レオンはそれを丁寧に開いた。


中から現れたのは、上品な銀細工の万年筆。

シンプルだけれど、どこか気品を感じる、美しいペンだった。


レオンは指先でそれをそっと撫で、目を細める。


「……セレナ」


「……仕事中に、今日のこと思い出してくれたらいいなって」


私がそっと呟くと、レオンの表情がふわりと和らいだ。

少し頬を染めながら、私はもう一本、同じ万年筆を取り出す。


「実はね……私も、同じものを買ったの」


小さく息を吸い込んで、打ち明ける。


「……あのね、私……字が書けないの」


レオンは一瞬驚いたように私を見たが、すぐに静かな表情に戻り、受け止めてくれた。

その顔に安心して、私は小さな声で続けた。


「刺繍の時みたいに、簡単な文字ならわかるし読めるんだけど……ちゃんとした字はまだ書けないの。公爵夫人としてできることは少ないけど……ちょっとずつ、文字から勉強してみようかなって」


私は微笑みながら勇気を出して言った。


「それで……この万年筆で、いつかレオンに手紙を書くね」


その瞬間。

レオンは万年筆をそっと置き、私をぎゅっと抱きしめた。


「……っ!」


胸元に顔を押しつけられ、私は驚きで瞬きをする。

レオンの腕が、優しく、しかししっかりと私を抱きしめて離さなかった。


「……ありがとう、セレナ」


かすれた低い声が、耳元に落ちた。

私はそっと手をレオンの背中に回し、きゅっと抱きしめ返す。

その体温が、心の奥まで染み込んでいく。


「……セレナ」


レオンが私を見下ろす瞳は、やさしく揺れていた。


「どんなことがあっても、公爵家の地位が揺らぐことはない。だから、無理に“公爵夫人”らしく振る舞う必要なんてない。社交界に出る必要もないし、嫌なことは全部、やらなくていい」


私は思わず息を呑んだ。

レオンはさらにやさしい声で続けた。


「……地位が揺らぐことがあったとしても……俺には、セレナがいてくれたらそれだけでいい」


甘く、胸の奥が締めつけられる。

こんなにもまっすぐに、私は愛されている。


レオンは私の頬に手を添えた。

綺麗な指先が、そっと肌をなでる。


「でもね……もしセレナがやりたいことなら、俺は全力で応援する」


その声は小さかったけれど、何よりも力強く、温かかった。

胸がいっぱいになって、涙がにじみそうになる。


「……うん」


かすれた声で頷いた瞬間。


レオンが顔をそっと近づけてくる。

目を閉じる間もなく、優しいキスが落ちてきた。


そっと触れるだけの、あたたかくて甘いキス。

そのぬくもりが、言葉よりも深く私の心を満たした。


「……さ、今日は疲れただろうし、早く寝よう。明日は一日中、セレナを独り占めできる日だから……楽しみだな」


そう言って、意味ありげに微笑みながら就寝の支度を始めるレオン。


“明日”のことを想像するだけで、胸の奥が甘く波打った。


――やわらかな夜の空気に包まれながら、ふたりは静かに眠りへと溶け込んでいった。

お読みいただきありがとうございます♡


公式サイトにて先読みとイラストギャラリー公開中♡

☞ https://serenitee-tp.com/


※お手数ですがコピペでお願いします!

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