第37話 “聖域”が開かれた瞬間――セレナの力とレオンの救済
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
ティオが“聖域”と呼ぶ扉の前で、私は手をかざした。
重々しい扉が淡く光をまといながら――まるで何かに導かれるように、音もなく開いていく。
「……開いた……!?」
ティオが少し驚いた声を漏らす。
「今まで何を試してもびくともしなかったのに……やっぱり、セレナちゃんが触れたら、まるで封印が解かれたみたいに、すんなり開いたよ」
その一言に、私の心臓がどくんと脈打った。
自分でも、何が起きたのか分からない。 でも――この扉は、まるで私だけを待っていたように感じられた。
◆
私、レオン、ティオの三人は、静かに地下へと足を進める。
階段を下りるたび、空気が変わっていく。
澄んでいて冷たい静けさが、肌をやさしく撫でるようだった。
石造りの大扉を抜けた先に広がっていたのは、大理石のように滑らかな石の円形の空間。
どれだけ時が流れたのか想像もつかないのに、その空間は、まるで時間が止まっていたかのように美しく保たれていた。
「……ここが、“聖域”」
ティオが小さく呟く。
部屋の中央には、低い祭壇のような台座。
不定形の白いクリスタルのような石が、静かにそこに置かれていた。
私は自然とその方へと歩み出る。
吸い寄せられるように、手をそっと石にかざした。
その瞬間――
石が、淡く静かに光を放つ。
その輝きは、やわらかくも確かに空間全体の“何か”を呼び覚ました。
……空気が震え、静寂がまるで呼吸を始めたように感じられる。
「……っ」
レオンが、胸元を押さえた。
一瞬だけ驚いたような顔をした彼だったが、その表情はすぐに安堵に変わっていった。
「……体が、軽い」
その言葉に、私は思わず彼の方を見つめた。
けれど何かを言う前に――
「見て」
ティオの声が私たちを現実へと引き戻す。
床の中央。
かすれて読み取れない魔法陣のような模様が、ほのかに光を帯びていた。
「やっぱり……魔法陣のようだね。君に反応してるのかもしれない」
ティオは石と模様とを交互に見つめながら、眉をひそめる。
「まだ詳しくはわからないけれど……これは、大きな手がかりになりそうだ」
(この場所にはきっと――)
長く閉ざされていた何かを動かす力がある。
……そして、それ以上に何かが起きることはなかった。
聖域は再び静けさを取り戻し、胸に残る不思議な感覚だけを残して、 私たちは静かにその場を後にした。
◆
公爵邸へと馬車が戻ると、私たちは並んで玄関をくぐり、静かな部屋へと向かった。
「……疲れてない?」
「ううん、大丈夫」
レオンは壊れ物を扱うように、そっと私を抱き寄せる。
「……ティオに会って色々分かったけど……辛いこと、思い出してない?」
「うん、私は大丈夫。……だって、私にはレオンがいるから」
レオンは黙ったまま、私の存在を確かめるように、少し強く抱きしめ返した。
「……レオンこそ、無理してない?」
(私より、きっとレオンの方が辛いはず……)
私の心配をよそに、レオンは静かに私の額へとキスを落とす。
「セレナがそばにいてくれるから、大丈夫」
ふたりで顔を見合わせ、くすりと笑い合った。 私は小さな包みをそっと取り出す。
「ねえ、レオン」
私の手元を見て、レオンが小さく首をかしげる。
「……今日、町に寄った時にね、これ選んだの」
私は包みを差し出し、レオンはそれを丁寧に開いた。
中から現れたのは、上品な銀細工の万年筆。
シンプルだけれど、どこか気品を感じる、美しいペンだった。
レオンは指先でそれをそっと撫で、目を細める。
「……セレナ」
「……仕事中に、今日のこと思い出してくれたらいいなって」
私がそっと呟くと、レオンの表情がふわりと和らいだ。
少し頬を染めながら、私はもう一本、同じ万年筆を取り出す。
「実はね……私も、同じものを買ったの」
小さく息を吸い込んで、打ち明ける。
「……あのね、私……字が書けないの」
レオンは一瞬驚いたように私を見たが、すぐに静かな表情に戻り、受け止めてくれた。
その顔に安心して、私は小さな声で続けた。
「刺繍の時みたいに、簡単な文字ならわかるし読めるんだけど……ちゃんとした字はまだ書けないの。公爵夫人としてできることは少ないけど……ちょっとずつ、文字から勉強してみようかなって」
私は微笑みながら勇気を出して言った。
「それで……この万年筆で、いつかレオンに手紙を書くね」
その瞬間。
レオンは万年筆をそっと置き、私をぎゅっと抱きしめた。
「……っ!」
胸元に顔を押しつけられ、私は驚きで瞬きをする。
レオンの腕が、優しく、しかししっかりと私を抱きしめて離さなかった。
「……ありがとう、セレナ」
かすれた低い声が、耳元に落ちた。
私はそっと手をレオンの背中に回し、きゅっと抱きしめ返す。
その体温が、心の奥まで染み込んでいく。
「……セレナ」
レオンが私を見下ろす瞳は、やさしく揺れていた。
「どんなことがあっても、公爵家の地位が揺らぐことはない。だから、無理に“公爵夫人”らしく振る舞う必要なんてない。社交界に出る必要もないし、嫌なことは全部、やらなくていい」
私は思わず息を呑んだ。
レオンはさらにやさしい声で続けた。
「……地位が揺らぐことがあったとしても……俺には、セレナがいてくれたらそれだけでいい」
甘く、胸の奥が締めつけられる。
こんなにもまっすぐに、私は愛されている。
レオンは私の頬に手を添えた。
綺麗な指先が、そっと肌をなでる。
「でもね……もしセレナがやりたいことなら、俺は全力で応援する」
その声は小さかったけれど、何よりも力強く、温かかった。
胸がいっぱいになって、涙がにじみそうになる。
「……うん」
かすれた声で頷いた瞬間。
レオンが顔をそっと近づけてくる。
目を閉じる間もなく、優しいキスが落ちてきた。
そっと触れるだけの、あたたかくて甘いキス。
そのぬくもりが、言葉よりも深く私の心を満たした。
「……さ、今日は疲れただろうし、早く寝よう。明日は一日中、セレナを独り占めできる日だから……楽しみだな」
そう言って、意味ありげに微笑みながら就寝の支度を始めるレオン。
“明日”のことを想像するだけで、胸の奥が甘く波打った。
――やわらかな夜の空気に包まれながら、ふたりは静かに眠りへと溶け込んでいった。
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