第35話 公爵様の優しさが止まらない・・・変装して町デート
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
――翌日。
レオンからもらった髪と目の色を変える変装用のアーティファクトーー細い銀の指輪を小指にしっかりはめて、馬車に乗り込む。
「普段のセレナも綺麗だけど、……この色もいいね。」
隣に腰掛けたレオンはさらりと淡い麦穂色に変わった髪の毛をすくい、はちみつ色の瞳をじっと見つめてくる。
まるでその色を確かめるように、髪にそっとキスを落とした。
「っ……」
(やっぱり……何度見つめ合っても、レオンの顔は心臓に悪い)
目を逸らしたくなるほど整った顔立ちに、ふいにそんな仕草まで加えられてしまったら――心臓がもたない。
「どうしたの?」
私の顔を覗き込んだレオンが、少しだけ口元を緩めて笑う。
「……レオンが素敵すぎて、慣れないの」
ぽつりと呟いた言葉に、彼は「そう?」と優しく微笑むと、そっと私の顎を指先で持ち上げた。
「じゃあ、もっと慣れてもらわないとね」
くい、と軽く引き寄せられ、視界がゆっくりとレオンの顔で満たされていく。
そして、そっと――唇が重なった。
触れるだけの、優しいキス。
それなのに、心臓が跳ねるほどに甘くて、あたたかい。
(……ほんとに、心臓に悪いんだから……)
けれどレオンの唇が離れたときには、もう、何も言えないくらいに、私はとろけそうになっていた。
そんな私の様子に気づいているのかいないのか、レオンは静かに微笑んだまま、何も言わずに私の肩を抱き寄せた。
私は素直にその腕に身を預ける。
窓の外を流れていく景色を眺めながら、レオンの肩にそっと頭を乗せた。
こうして寄り添っているだけで、鼓動が少しずつ落ち着いていくのがわかる。
馬車のゆるやかな揺れが、まるで心地よい子守唄のように体を包み込んでいく。
――やがて、車輪の音が少しずつゆっくりになった。
どうやら目的地に着いたらしい。
私はレオンの肩に預けていた体をゆっくりと起こし、小さく笑った。
「……ありがとう、レオン」
「なにが?」
「ぜんぶ」
レオンが一瞬だけ目を細めて笑ったのを見て、胸があたたかくなった。
(いつも私の為に行動してくれてるの、わかってるよ)
そして私たちは、そっと手を繋いだまま、賑わいの聞こえる市場の通りへと降り立った。
ーーこうして私たちは、町の市場へ向かった。
市場に着くと、町の空気は思ったよりにぎやかだった。
石畳の道の両側には、色とりどりの屋台が並んでいる。
果物の甘い香りや、焼きたてのパンの匂いがふわりと漂ってきて、自然と顔がほころんだ。
「思ったよりすぐ着いたね。」
「うん。同じ皇都内だし、ティオの家ー・・・アルバレスト伯爵家も近くにあるんだ。」
興味津々に町をきょろきょろと見渡すセレナに、レオンは優しく呟く。
「はぐれないように絶対手を離さないでね。」
「うん」
セレナは夢中で屋台を巡りながら、ひとつひとつ思い浮かべた。
リナには、きっと似合うと思った淡い黄色の髪飾り。
ベルには、ふわふわの毛並みに映えそうな刺繍入りの布首輪。
アレクには、無骨だけど手になじみそうな、上質な革の手袋を――。
そしてティオには……変なものを選ぶと怒られそうなので、癒し系のお茶を選んだ。
(なんだか、夢みたい……こんなふうに、みんなに喜んでもらえるものを選んで、レオンと一緒にお買い物をして……)
レオンに手を引かれながら、私たちはまた、石畳の道を歩き出した。
手には、お土産がいっぱい詰まった袋を抱えて。
そんな、小さな幸せを噛み締めながら、私はそっとレオンの手を握り直した。
市場でみんなへのお土産は買えた。
でも、どうしても、まだやりたいことがひとつだけあった。
(レオンにも、何か記念になるものプレゼントしたい……)
そっと、手を離して立ち止まる。
レオンがすぐに振り返った。
「……どうした?」
「レオンにも、何か買いたいの。……一人で行ってくるからちょっと待っててくれる?」
そう言うと、レオンは困ったように視線を落とした。
そして、真剣な声で言った。
「……一人ではだめ。」
きっぱりした声だった。
(すぐそこなのに心配してくれてるんだ……)
私は胸がじんわりとあたたかくなって、にこっと笑った。
「じゃあ、お店の外で待ってて。すぐ戻るから」
レオンはしぶしぶ頷いた。
名残惜しそうに私を見送りながら、店先でじっと立って待ってくれている。
私は小走りで文具屋に入った。
すぐに目に留まったのは、シンプルで上品な万年筆。
銀の細工が施された、深い青色のものだった。
(レオンの手に、この万年筆……きっと、すごく似合う)
隣に、まったく同じデザインで、少し小ぶりなサイズのものも置かれている。
私は迷わず、その二本を選んだ。
――おそろいの万年筆。
ふたりだけの、秘密の贈り物。
こっそり包んでもらって、袋をぎゅっと抱えて店を出た。
レオンがすぐに私を見つけて、ほっとした顔をする。
「買えた?」
「うんっ!」
心の中があたたかくて、胸が少しだけきゅっとなる。
この気持ちを、ちゃんと届けたくて――私は笑って、レオンの腕にぴたりと寄り添った。
「これはね、帰ってからのお楽しみ」
耳元でそっと囁くと、レオンは一瞬目を丸くしたが優しく微笑んでくれた。
馬車に戻ると小指の指輪を外し、癒術理院へと向かった――
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