第33話 押し花に込めた“これから”──癒しの朝と小さな約束
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
朝――
ほんのりとした光がカーテン越しに差し込みはじめたころ、 セレナはゆっくりと瞼を開いた。
「……ん……」
まだ少し身体にだるさはあるものの、昨日よりは随分と楽だった。
ぼんやりとした視界の中で、手が何かあたたかいものに包まれていることに気づく。
(……レオン?)
視線をそちらへ向けると、そこには椅子を引き寄せて座り、眠らずに手を握ったままセレナを見守っていたレオンの姿があった。
驚いて動こうとするより先に、レオンが気づき、静かに囁く。
「……起こしてしまった?」
その声は、いつもよりも低く、どこか安堵の色を含んでいた。
「ううん……起きたの」
かすれた声でそう答えると、レオンはすぐに湯冷ましを手に取り、そっと口元へ差し出してくれた。
「……無理しなくていい。ゆっくりで」
頷いたセレナは少しずつ水を口に含み、喉の渇きが潤っていくのを感じる。
レオンはそっとセレナの頬に手を触れ、髪をやさしく撫でた。
「熱も……だいぶ下がってる」
「レオン……ずっとそばにいてくれたの?」
問いかけに、レオンは少し眉を下げ、照れくさそうに微笑む。
「当たり前だろう。……君を放っておけるわけない」
セレナの胸に、じんわりと温かな気持ちが広がる。
「……レオン」
涙がじわりと滲んだ。
でも、もうそれを隠すつもりはなかった。
レオンはすべてを理解しているかのように、セレナをそっと抱き寄せる。
「……セレナ。よく頑張ったな」
大きな手が背中を優しく撫でる。
包み込むようなその抱擁が、何もかもを赦してくれるようで――
「レオン……私、昨日いっぱい泣いちゃって……ごめ……ううん。ぎゅってしてくれて、ありがとう」
もう、謝る気持ちはなかった。
昨日もらったレオンのぬくもりが、“君は悪い子じゃない”と教えてくれた。
「……うん」
レオンも静かに背を撫で続ける。
しばらくのあいだ、ふたりは寄り添っていた。
「……セレナ」
目を閉じたまま、セレナは小さく首を傾けた。
「……ん……なぁに……」
まだ熱の余韻が残るような声。
けれど、その響きには甘さと愛しさが滲んでいた。
セレナの細い肩を抱きしめたまま、レオンは耳元でそっと囁く。
「元気になったら……また、一緒に出かけよう」
夢を語る少年のように、どこかはにかんだその声。
けれど真剣な響きが、セレナの胸に届いた。
「……えへへ……うん……」
セレナは微笑みながら答えた。 その無垢な笑顔に、レオンの胸にもまた、温かい想いがじんわりと広がっていく。
「セレナが行きたい場所、どこでも連れていくよ」
「……ほんと?」
「もちろん」
レオンは、セレナの小さな手をそっと握りしめる。
セレナも、弱いながらも確かに握り返してくれた。
(この手は、もう絶対に離さない)
そう、心の中でそっと誓う。
やがて、セレナは再び静かな寝息を立てはじめた。
レオンは彼女の髪を何度も優しく撫で、そっと微笑む。
(……早く元気になりますように)
その願いを込めて、彼女の額に静かにキスを落とす。
そして静かに部屋を出ると、廊下で控えていたリナとアレクが足早に近づいてきた。
「公爵様、セレナ様のご様子は……?」
リナの不安そうな声に、レオンは小さく頷く。
「熱はもう下がった。でも……」
一瞬、言葉を選びながら視線を落とす。
「熱に浮かされて……過去のことを思い出していた。“私が悪い子だから”って、泣いてしまって」
リナが息を呑み、アレクも表情を曇らせる。
「……そんな……」
リナは胸の前で手をぎゅっと握りしめる。
「奥様……ずっと、誰にも甘えられなかったんですね……」
レオンは静かに頷いた。
「だから……これからは楽しい思い出をたくさん作ってやりたい。辛い記憶が薄れるくらいに……」
その想いを聞いて、リナの目がじんわりと潤んだ。
「はい……私も力になります!」
「……私も、できる限り支えます」
アレクも、穏やかな口調で力強く答えた。
小さく頷き合う三人。
まるでひとつの家族のように――セレナを幸せにするという、小さな誓いを胸に抱いて。
「ありがとう……ふたりとも」
そう言って、レオンはふっと柔らかく微笑むと、再びセレナの部屋へと戻っていった。
(……一緒に、たくさんの笑顔を作っていこう)
翌朝――。
セレナはすっかり体調が戻り、自室でいつも通りに身支度を整えていた。
けれど、ほんの少しだけ心が重たかった。
それを察したように、リナが明るい声で話しかける。
「セレナ様! ピクニックで摘んだお花、覚えてますか?」
「え? ……うん、覚えてる」
「押し花にしたいっておっしゃってましたよね? 思い出に残しませんか?」
リナは両手を胸元で組んで、楽しげに提案した。
「思い出……」
セレナは小さく呟き、ふと視線を落とす。
ピクニックではしゃいだこと、レオンの寝顔を見たこと、みんなで笑い合った時間――
(……辛い記憶じゃなくて、楽しい思い出をもっと作りたい)
ふと微笑みながら、セレナは頷いた。
「……うん、やりたい」
「わぁ、よかった! では一緒にやりましょう~!」
リナが花びらの入った籠を机に広げる。
「見てください、どれも綺麗なままですよ。丁寧に保存しておきました~」
「……うん、すごく綺麗」
セレナも花びらを手に取り、そっと笑みを浮かべる。
そこにベルが、好奇心いっぱいの様子で机に飛び乗った。
「にゃあっ」
「ふふっ、ベルも一緒にやりたいみたい」
笑い合いながら、押し花を作り始めるふたりと一匹。
「……これ、完成したら……」
セレナが呟く。
「みんなでおそろいの栞にしよう」
「わ~素敵ですっ!」
嬉しそうに笑うリナ。
押し花を挟み、ベルをなで、他愛ない話を交わす。
自然とセレナの頬にも、温かな色が戻っていく。
(……こうして、何気ない日々も思い出になっていくんだな)
胸の奥が、ぽかぽかとあたたかくなる。
そのとき――
コンコン、と控えめなノック音。
「……?」
リナが立ち上がり、扉を開ける。
「……レオン!」
思わずセレナの口から名前がこぼれた。
レオンが部屋に入り、そっと近づいてくる。
「ごめん、仕事中なんだけど……どうしても、落ち着かなくて。アレクに怒られたんだ、『様子を見てきたらどうですか』って」
セレナはくすりと微笑む。
(レオン……そんなに心配してくれてたんだ)
「大丈夫だよ。リナと一緒に、押し花を作ってたの」
「押し花……?」
レオンは興味深げに机を覗き込み、色とりどりの花が挟まれた本を見てぽつりと呟く。
「すごいな……」
そしてセレナの頭に手を乗せ、優しく撫でる。
その指先があたたかくて――
「……えへへ」
セレナの笑みがこぼれ、レオンは目を細めて見つめる。
「顔色も、昨日よりずっといいな。……よかった」
「うん。ベルとリナと、一緒に過ごしてたから」
「……そうか」
自然と隣に腰を下ろすレオン。
ふたりの肩がふわりと触れ、ぬくもりが伝わる。
「……ずっと、君のこと考えてた」
「……わたしも」
言葉は少なくても、心が通う。
リナはそっとその様子を見届け、気を利かせてベルを抱き上げて部屋を出ていった。
ふたりきりの部屋で――
セレナは、そっとレオンの服の裾をつまむ。
「……来てくれて、ありがとう」
「……こちらこそ。君に会えたから、また頑張れる」
囁くように交わされた言葉に、ふたりの距離が、もう一度そっと縮まった。
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