第28話 甘やかしすぎる公爵様と、午後のお菓子タイム
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
セレナとリナは厨房を借り、エプロンを身に着けながら、お菓子作りの準備を始めていた。
レシピを広げ、ふんわりとした小麦粉を目の前に。
バターと砂糖を慎重に混ぜていくセレナの手元を、リナがそっと支える。
「セレナ様、もっと優しく。はい、ふわっと……そうそう、いい感じですっ!」
「ふふっ……なんだか、楽しいね」
キャッキャと笑い合ううちに、焼き上がりを待つ時間も、ふたりにはあっという間だった。
やがて、甘い香りが部屋中に立ちこめて、小さな焼き菓子がこんがりときつね色に色づいていく。
「わあ……!」
焼き上がったお菓子を見て、セレナはぱっと笑顔を咲かせる。
ふたりで可愛らしい袋にひとつひとつ丁寧に詰めていき、セレナは最後にリボンをきゅっと結びながら、胸いっぱいにふわふわした幸福を抱いていた。
「これ……レオンに、早く渡したいな」
「はい、絶対喜ばれますよ!」
そう言って微笑むリナに、セレナも嬉しそうに頷く。
そして両手で小さな包みを大切そうに抱えると、そっと願った。
(少しでも、笑顔になってくれたらいいな……)
ふんわり甘い香りをまとったまま、セレナは部屋を後にする。
その胸には、あの夜とはまた違う、とびきりのときめきが芽吹いていた。
◆
執務室の扉の前に立ったセレナは、小さな包みを胸にぎゅっと抱いた。
(……緊張するけど……喜んでくれるといいな)
深呼吸をひとつ、そっとノックをすると、すぐに奥から落ち着いた声が返ってくる。
「……どうぞ」
扉を開けると、奥の机に向かって書類に目を通すレオンの姿があった。
銀の髪がやわらかな光を受けて、きらきらと光って見える。
近づくと、レオンがふと顔を上げた。
「……セレナ?」
ぱっとその表情が和らぐ。
いつもは引き締まっている眉も、口元も、柔らかくほぐれていった。
まるで氷が陽の光で溶けるように。
「どうしたの?」
「……これ、渡したくて……」
少し恥ずかしそうに、両手で持った包みを差し出す。
レオンはそれを受け取り、そっと中を覗いて、目を丸くした。
「……作ってくれたの?」
「うん。リナと一緒に作ったの。レオン疲れてるかもと思って……食べてもらいたくて」
その瞬間、レオンの瞳が優しくとろける。
すぐさまアレクに視線を送ると、
「……おふたりにして差し上げましょう。リナ嬢、席を外しましょうか」
と、アレクがやれやれといった様子でリナを連れて退出する。
扉が閉まり、部屋に残されたのはふたりだけ。
しばらく、言葉を交わさずに見つめ合う。
やがてレオンが微笑み、手を伸ばしてセレナの手を引いた。
「セレナ、こっちにおいで」
ぽんぽんと、自分の膝を叩く。
「えっ、そ、そんな……!」
真っ赤になって戸惑うセレナを、レオンはそっと、でも強く引き寄せて膝に乗せた。
「レオン、あの……お仕事の邪魔じゃ……?」
「そんなわけない。……すごく嬉しい」
甘えたような声に、セレナの胸が温かくなる。
「セレナ、食べさせて」
「ふふっ……はい、あーん」
「……うん、美味しい。セレナが作ったお菓子、世界一だ」
そんな真顔で言うから、セレナの頬も赤く染まった。
(……もう、だめ。好きがあふれて止まらない)
ぎゅっと抱きしめられて、セレナもそっとその胸に顔をうずめる。
「今日……すごく体調がいいんだ」
ぽつりとこぼしたレオンの言葉に、セレナはパッと笑顔を咲かせる。
「……本当に? よかった……!」
その笑顔に、レオンもつられるように微笑んだ。
ふたりの間に、静かに、でも確かに優しい想いが満ちていく。
(元気になってくれて……それだけで、私は幸せ)
しばらく身を寄せ合い、ただ温もりを感じていたふたりだったが、
「そろそろ……邪魔しちゃ悪いから、私……」
と立ち上がろうとするセレナの言葉に、
「――ダメ」
レオンが低く、どこか甘えた声で囁く。
そのままセレナの身体を、ぎゅっと引き寄せるように抱きしめた。
「……もう少しだけ、一緒にいて」
優しいけれど、どこか切ないその力に、セレナは抗うことができなかった。
「でも、レオン……仕事が……」
「大丈夫。少しくらい遅れてもいい。君と離れたくない」
その言葉に、セレナの胸がじんわりと熱くなる。
そっと背に腕を回し、彼女もまた静かに抱きしめ返した。
「……わかった。もう少しだけ」
小さく頷くと、レオンはほっとしたように笑みを浮かべ、さらに強く抱きしめた。
「レオン……」
名前を呼ぶとすぐに、揺れる青い瞳が目の前に。
ためらいなく、唇が重ねられた。
甘くて、優しくて、温もりがゆっくりと胸に沁みわたるキスだった。
「……セレナ」
もう一度、名前を囁きながらレオンは髪にそっと顔をうずめた。
「……愛してる」
その言葉に、セレナは「私も……大好き」と照れくさそうに返す。
レオンの口元が、微かにほころぶ。
(ああ……もう、全部が、愛しい)
流れる時間が甘くて柔らかで、このひとときが永遠に続けばとさえ思う。
けれど――執務室の扉の向こうに、ひそかに気配を感じる。
(……さすがに、そろそろ……)
そっと動こうとしたセレナに、レオンがまた顔を寄せてくる。
「……セレナ」
「……うん?」
「終わったら……すぐ君のところに行く」
その低く甘い囁きに、セレナは微笑んで返した。
「……待ってる」
その笑顔にもう一度ぎゅっと抱きしめてから、ようやく彼女をそっと解放する。
最後に髪にそっとキスを落とすレオンに、セレナも小さく額を当てて、そっと背を向けた。
その背中を見送るレオンの瞳には、どうしようもないほどの愛しさと切なさがにじんでいた。
そして、ひとり執務机に向き直ったレオンは、
「……セレナ……」
小さく、名前を呟いた。
誰かをこんなに求める想いが、こんなにも愛おしいだなんて――
あの日までの自分には、想像できなかった。
(早く終わらせて戻ろう……)
力強くペンを握りしめ、再び机に向かう。
その音だけが、静かな室内に響いていた。
――それは、公爵様の膝の上で甘やかされて、とろけるような午後だった。
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