第23話 奥様が可愛すぎて…公爵様、寝室を溺愛仕様に改装中です
※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。
以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。
基本糖分高めで甘やかされます♡
ーーすべては、公爵様のたった一言から始まった。
「……寝室の改装を急ぐ。できるだけ早く」
突然の命令に、アレク・ロイエルは一瞬だけ瞬きをした。
(……まただな)
奥様が来て以来、公爵様は明らかに変わった。
冷たい沈黙に包まれていた日々は減り、表情に柔らかさすら見える。
長年仕えてきた身としては嬉しい限りだ。
――だが。
(困るのは……急に、いや、かなりの頻度で無茶を仰るようになったことだ)
「セレナがもっと安心して休めるようにしたい。あと、月が見えるよう窓の位置も変えよう」
「……承知いたしました」
「クッションや毛布の触り心地も、できるだけ柔らかく」
「かしこまりました」
「部屋の香りも……彼女が好みそうなものにしておいてくれ」
「…………」
次々と飛び出す要望。
しかも、そのどれもが“ご自身の快適さ”とは無縁のものばかり。
すべては『奥様のため』。
(……まあ、幸せそうだからいいけれど)
深く息を吐きながらも、アレクは淡々と頷く。
この人は変わった。
けれど、根本にある“ぶっきらぼうな優しさ”は、昔と変わらない。
「承知いたしました。ただ、大規模な工事になりますので、数日は別室でのご宿泊となります」
「構わん。最優先で頼む」
「はっ」
きびきびと返答するアレクの背後では、リナが小さく眉を寄せた。
(あの……公爵様、先月も寝室の工事されてませんでしたっけ……)
そっとアレクを見やると、彼は何も言わずに目だけで「気にするな」と返してきた。
ーーこうして、公爵様の"理想の寝室"づくりが再び始動したのである。
◆
数日後。
「リナ、次はこの香油を試してみよう。セレナに合うか確認してほしい」
「かしこまりましたっ!」
「それと寝台の高さも再調整だ。彼女が楽に昇り降りできるように」
「わ、わかりましたっ!」
(……え、寝台ってそんなに細かく調整するものだったっけ……)
汗だくになりながら、リナは次々と運ばれてくるクッションや香油、試作品のシーツを抱えて走る。
その隣ではアレクが冷静に使用人へ指示を飛ばし続けていたが――
(公爵様はもともと何でもご自分でなさるから細かいことは気にしなかったのに。奥様が来てから、こんなに細やかな気配りを……)
内心でしみじみと呟いた。
「アレク様……公爵様、本当に張り切っていらっしゃいますね」
「ああ。……だが、それでいい」
アレクの目がふっと細まる。
「表には出にくいが、あの方は……誰より奥様を大事に思っている。昔を知る者として、今の姿が見られるのは、嬉しいことだ」
リナは感極まったように荷物を抱きしめた。
「はいっ……! セレナ様も、とても素敵な方ですもの!」
アレクはうなずき、呼吸をひとつ整えて再び声を張る。
「よし、次は暖炉だ。夜冷えないよう温度管理を徹底する」
「は、はいっ!」
(がんばるぞ……公爵様とセレナ様のために!)
こうして、ふたりの従者による改装作業は着々と進んでいった。
◆
そして、数日後。
改装を終えた寝室の扉の前に、セレナがリナに手を引かれて立っていた。
「セレナ様……どうぞ、開けてください」
促され、セレナは息をのみながら両手で取っ手に触れた。
扉が静かに開いたその先には――
「……わぁ……」
思わず感嘆の声が漏れる。 そこには、まるで夢のように柔らかで温かな空間が広がっていた。
優しい色合いのカーテンが陽光を和らげ、壁には品のある装飾布。
広く取られた窓からは、夜には月がきれいに見えるに違いない。
部屋の中央には、大きくふかふかの寝台。
周囲には柔らかそうなクッションが並び、サイドテーブルには可憐な花が飾られていた。
「……すごい……」
「寝室の両側には、直接それぞれのお部屋につながる扉を設けました」
ふと、香りがふわりと鼻先をかすめる。それは、セレナが好む香り。
「気に入ったか?」
振り返ると、少し照れたような顔で立つレオンの姿。
「……これ、全部……レオンが考えてくれたの?」
「ああ。君が、安心して過ごせるようにしたかった」
ほんのり耳まで染めながら視線を外す。 その不器用な優しさに、セレナの胸がじんと温かくなった。
視線を向けると、アレクとリナがそっと控えている。
「……アレクさん、リナ。たくさん頑張ってくれたんだよね……?」
セレナの言葉に、リナの顔がぱっと明るくなり、隣でアレクも柔らかく微笑む。
「セレナ様……!」
「い、いえ、私たちは指示に従っただけで……でも、あの……」
アレクが言葉を探しながら、少しだけ目を伏せる。
「公爵様がこんなに楽しそうなのは初めてで……奥様のおかげだと、心から思っております」
「……ふたりとも、ありがとう」
セレナは深々と頭を下げた。
(こんなふうに優しくされるなんて……昔の私じゃ、想像もできなかった)
じんわりと胸が熱くなるのを感じながらも、彼女はふと顔を上げ、レオンに向き直る。
「本当に素敵。ありがとう……でも、レオンと一緒ならきっとどこでも幸せ」
その一言に、レオンの目がわずかに見開かれ、すぐに穏やかな笑みが浮かぶ。
「……セレナ」
やわらかな声に、深い愛が込められていた。
「けど、どうせなら最高の場所で。君のために、できる限りのことがしたかった」
そっと手を握りしめる。
セレナもそれに応えるように手を重ね、優しく微笑んだ。
ふたりは、あたたかな寝室の中でそっと寄り添った。
まるで、互いの存在を大切に確かめ合うように。
アレクとリナは、静かにふたりを見守りながら、そっと扉を閉めた。
「……ふう。ようやく報われたな」
「はいっ……ほんとに、幸せそうで……!」
従者たちもまた、心からの笑みを交わしていた。
そして、夜がゆっくりと訪れる。 新しい寝室で、ふたりきりの甘い夜が――静かに、始まろうとしていた。
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