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第17話 公爵家の呪いと、聖女の運命

※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。

以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。


基本糖分高めで甘やかされます♡

淡い朝の光が、カーテンの隙間からそっと差し込んでいた。

セレナはゆっくりとまぶたを開き、ぼんやりと天井を見つめる。


(……いつの間に、眠っちゃったんだろう)


ふわりとしたシーツにくるまれながら、ここがレオンの部屋だと今さらのように実感する。

身を起こそうとしたその時、すぐ隣から静かな寝息が聞こえてきた。


「……っ」


レオンが、安らかな表情のまま、こちらに顔を向けて眠っている。


(えっ……!? 同じベッドで寝てたの!?)


気づけば彼に少し寄り添うような体勢になっていて、セレナはそっと息を殺す。


「……夢じゃなかったんだ」


気持ちが緩み、彼が昨日くれた「好きだ」という言葉が、何度も胸の奥に響いた。

頬がじんわりと熱くなる。

恥ずかしいのに、嬉しくて――このまま彼のそばにいたいと、強く願ってしまう。


そっと、セレナは彼の銀色の髪に手を伸ばす。


さらさらとした感触を確かめるように撫でると、次の瞬間、青く澄んだ瞳がゆっくりと開いた。


「……おはよう、セレナ」


「っ……!」


目が合った瞬間、セレナの心がどくんと跳ねた。

まだ眠たげな声には、どこか安心感のあるぬくもりが混じっていた。


「髪、触ってた?」


「……ご、ごめんなさい……綺麗で、つい……」


「ふふ。怒るわけないよ。君に触れられるの、嬉しいから」


そう言いながら、レオンの手がそっとセレナの頬に触れた。

その優しい手に、セレナは目を伏せつつも、自然と微笑みを浮かべる。


やがて、彼の手が頬から離れていく。

二人の視線がふっと重なり、しばらく言葉がなかった。

だけど、沈黙さえも穏やかで心地よかった。


しばらくして、レオンが静かに言葉を紡いだ。


「……セレナ。支度が済んだら……話しておきたいことがあるんだ」


「え……?」


「いや、話さなければならないこと、だな」


真剣な眼差しを向けるレオンの瞳には、それでも優しさがにじんでいた。



ほのかに漂う、やさしい香り。


――自室で身支度を整えてからレオンの部屋へ戻ると、彼は紅茶を自ら淹れながら、セレナの到着を待っていた。


ゆっくりと彼の隣に腰を掛けた。


「やっぱり君と触れていると……身体が楽になる。まるで、長年纏っていた痛みや苦しみが、少しずつ溶けていくみたいに」


「……私も、そう……感じました。……とくに、昨日、く、唇が……触れた時……」


俯きながら頬を染めたレオンが、そっと私の頭を撫でる。


(……照れていたのは、私だけじゃなかったんだ)


少しの沈黙の後、レオンは考え込むように視線を落とし、静かに語り始めた。


「昨日の発作はね、以前話した“呪い”の影響なんだ。――代々、公爵家に受け継がれてきた呪い……」


彼の瞳が伏せられ、静かに語りが続いていく。


「それがいつ始まり、誰の手で何の目的でかけられたのか、詳しいことは何もわかっていない。ただひとつ……“公爵家の男子は皆短命で、先代が死ぬと次の代へと呪いが移る”という事実だけが、ずっと続いてきたんだ」


セレナは小さく息を呑む。


「俺も……その例外じゃなかった。父が亡くなったあと、体調に異変が出始めて。腰のあたりに、痣のような模様が浮かんだんだ。父の亡くなった晩、突然現れてね」


そう言って、レオンはシャツの裾を持ち上げ、背をこちらに向けた。


黒く滲む模様――まるで呪符のような、禍々しさを宿す痣が、そこには刻まれていた。


「……成長とともに悪化していったよ。熱は下がらず、手足は力が入らないし、内臓は焼けるように痛む。昨夜みたいに発作が起きることもある……。君と触れていない時は、いつも身体のどこかに異常を感じてる」


セレナの瞳に映るその痣が、彼の苦しみそのもののように見えた。

思わず手を伸ばしかる

しかし、指先はそっと空気の中で止まった。


「……呪いについての噂は広まってるけど、体調が悪いことは誰にも悟られないようにしてきた。公爵として、この家を守るためにね」


「……レオン……」


小さな声が、静かに胸を締めつける。


「以前セレナに尋ねられた時、黒髪と黒い瞳を持つ”者”が災いを祓うと話したけど……本当は、黒髪黒瞳の”聖女”が災いを祓うという伝承なんだ」


(……聖女……?)


まっすぐにこちらを見つめるレオンの眼差し。


「……君を初めて見た瞬間、不思議な気持ちがしたんだ。すぐにわかった。きっと、君こそが俺の希望だって。でも――」


ふっと言葉を切り、静かに低く呟いた。


「君を……利用するような形になってしまったこと、本当に、申し訳なく思ってる。……心から、すまない」


セレナは驚きに目を見開き、その言葉を胸の奥で繰り返す。


「……でも、君への想いだけは、ずっと変わらず――本物だよ」


レオンの青い瞳が、まっすぐに彼女の心を射抜く。


「……利用、だなんて……」


そう言いかけて、セレナはふと声を呑み込んだ。

代わりに、そっと彼の手を握る。


大きくてあたたかいその手には、どこか頼りなさもあって。

その弱さが、胸を締めつける。


小さく、心に波紋が広がる。


ずっと“不吉な存在”として生きてきた。

黒髪、黒い瞳。

家族からさえ目を逸らされていた私が、“聖女”だなんて――


(……そんな、こと……ありえるの?)


否定しかけたその瞬間、セレナの胸に浮かんだのは、あの時ベルとリナに触れた記憶だった。

傷が、触れただけで消えていった。

そして、レオンの苦しみが和らいだという事実。


(――あの瞬間、私の中から何かが流れ出ていった……)


小さく震える指先に、じんわりと宿る温かさ。

“何者でもなかった自分”という意識が、少しずつ形を変えていく。


(……私は、不吉なんかじゃない……?)


初めて芽生えた“存在の意味”。

目の前の彼が、私を必要としてくれている――ただそれだけで、胸が張り裂けそうなほど苦しく、愛おしく、温かかった。


ゆっくりと顔を上げ、セレナはレオンの青い瞳を見つめる。


「……こんな私に“役目”があるのなら。あなたのために、その力を使いたい」


一歩、そっとレオンに寄り添い、彼の胸元に額を当てる。

自分でも驚くほど自然に出てきたその言葉――


「……レオンのことが、好きだから」


その告白に、レオンは何も言わず、ただセレナを抱きしめた。

彼の腕の中で、もう彼女は震えていなかった。


(この手であなたを救えるのなら、私はもう、“いらない子”なんかじゃない)


静かに、心の中で呟いた。


(私は、あなたのために生きたい)

お読みいただきありがとうございます♡


公式サイトにて先読みとイラストギャラリー公開中♡

☞ https://serenitee-tp.com/


※お手数ですがコピペでお願いします!

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