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第11話 特別な力を再び実感した日――癒しと想いを紡ぐ刺繍

※こちらは全年齢向けに甘さ多めで改稿した作品です。

以前の作品を読まれている方は、内容が重複する部分がありますのでご注意ください。


基本糖分高めで甘やかされます♡

セレナは、公爵様へのその気持ちの正体がまだ分からずにいた。

ただ、静かに日々を重ねていく。


ベルと一緒に屋敷を歩き回ったり、リナと庭で穏やかな日差しのもと日向ぼっこをしたり。


夜になると、いつものようにレオンが部屋を訪れ、優しく手を握ってくれる――そんな毎日が当たり前のように続いていた。


そんなある日のこと。


開け放たれた窓から差し込む陽光の中で、セレナは自室の机に向かい、小さな首飾りを手に取っていた。


「ベルにも、何かお揃いのもの……つけてあげたいな」


そう呟きながら、針と糸に手を伸ばしたその瞬間、近くでお茶を淹れていたリナが驚いた様子で声を上げる。


「セレナ様、刺繍なさるのですか?」


「うん。家では身の回りのことは自分でやってたの。ドレスの裾も髪飾りも、全部自分で縫ってて……多分、手先は器用な方かも」


糸や首飾り、そして無地のハンカチを並べて、色合わせに悩むセレナ。


「……公爵様にも、何か贈りたくて」


ふと、指先に視線を落とす。


(もらってばかりだから……今度は、私から何か届けたい)


「まあ……素敵です!」


目を輝かせるリナに微笑みながら、セレナは声をかける。


「……よかったら、リナもどう?一緒の方が楽しいから」


「はいっ!」


ソファに場所を移したセレナの隣に、リナもお茶の準備を終えてすぐ腰かけた。


針を運ぶセレナの手は滑らかで、小さな首輪には淡いブルーの糸で、風に揺れる草花のような刺繍が丁寧に施されていく。


――心安らぐ昼下がり。


出会って日は浅いものの、年の近いリナとの距離は自然と近づいていた。


無言で作業を続ける間も、気まずさはなく、心地よい静けさが流れている。


「はい、これはリナに」


差し出されたハンカチには、蔦模様とリナの頭文字が丁寧に縫い込まれていた。


「えっ……私に? こんなに素敵な……一生大切にしますっ」


目を潤ませながらハンカチを受け取り、胸にぎゅっと抱きしめるリナ。


「私もセレナ様に何か作りますね!あまり得意ではないのですが……」


そう言って針を持った、そのときだった。


「……あっ!」


針先が指をかすめ、赤いしずくがじんわりとにじむ。


「大丈夫? 見せて」


すぐに手を取ろうとするセレナに、リナは慌てて制止する。


「だ、だめですっ。汚れていますし……セレナ様に触れていただくなんて」


だがセレナは、優しくその手を包み込むように握った。


「そんなことないよ、見せて」


穏やかだけれど芯のあるその声に、リナも逆らえず手を差し出す。


セレナの細い指が、リナの傷にそっと触れた瞬間――


ふわりと、金色の光が指先からこぼれ、花びらのように広がって消えていった。


「……え?」


リナが目を見開く。

ほんのさっきまで血がにじんでいた指は、跡形もなく綺麗に治っていた。


「うそ……」


「…………」


セレナはしばらく自分の手を見つめる。


そこから、優しい温もりが流れ出したような、不思議な感覚が残っていた。


「セレナ様……今のは……?」


「わからない。でも……助けなきゃって思っただけ。痛みはもう、ない?」


「はい……ありがとうございます。お水で流してきます、すぐ戻りますね」


リナは感謝の言葉を残しながら部屋を出ていく。


(驚かせてしまったかも……気味悪がられないかな……)


リナに触れた瞬間傷が消えた――


「……やっぱり、私って……何か、不思議な力があるの?」


ベッドに腰を下ろし、セレナは静かに両手を見つめる。


リナもベルも傷が治った。

でもーー


(公爵様に触れたときだけ、私の身体まで楽になる……あれは、なんでだろう)


他の誰に触れても、そんな感覚はないのに。


ただ、公爵様だけは――


(どうしてかわからないけど、触れたいと思ってしまう……もっと)


胸に広がるのは戸惑いと、どこか甘い期待。


そのとき、ノックの音がして、リナが戻ってきた。


「セレナ様、先ほどはありがとうございました」


ぴしっと姿勢を正して、まっすぐ見つめてくるその瞳に、セレナは小さく問いかける。


「……怖くなかった? 私、普通じゃないのかもって……」


不安げな視線を落とすセレナに、リナは力強く微笑んだ。


「怖いなんて、とんでもありません。セレナ様の力は――特別なものです」


「特別……?」


「はい。だから、これは秘密にしましょう。このセレナ様の力が公爵様に届くように、セレナ様のそばで、私が守ります。……こう見えて私、力強いんですから!」


冗談めかしながらも真剣なその言葉に、胸の奥がじんわり温かくなった。


「ありがとう、リナ……」


その声は震えていた。


嬉しくて、安心して……どこか救われたような、そんな気持ちに包まれていた。


(……私のことを、怖がらない人がいる。そばにいてくれる人が、いる)


――それだけで、どうしてこんなに心が満たされるのだろう。

最後までお読みいただきありがとうございます♡

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