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第15話:嘘から始まる、本当の未来

 町の集会所には、奇妙な静けさが満ちていた。

 照明が落とされ、ステージの上には理事長・椎名重人が立っていた。


「では、本日の講演は——」


 司会が口上を述べようとした瞬間、ドアが開いた。


 その音に、場の空気が震えた。

 入ってきたのは——千歳と、俺。


 その顔を見て、椎名の眉がわずかに動く。


「久しぶりですね、理事長。……いえ、“父を殺したかもしれない人”としてお会いするのは、初めてです」


 千歳の声は、静かだった。だが、その中に込められた怒りと悲しみが、会場全体に響いた。


「失礼ですが、なんの話ですか?」


「父が残した研究資料。竹原先生の証言。あなたが後援会の圧力で父を孤立させ、……最後には口を封じようとしたこと。全部、証拠があります」


 椎名は笑った。乾いた、何かを見下すような笑み。


「証拠? そんなものは幻さ。お父上の妄執にすぎない。……亡くなった人間を英雄にするのは、もうやめたらどうだね?」


 その言葉に、千歳は一歩踏み出した。


「じゃあ、あなたはこの町の“歴史”を守るために、誰かが死んでも構わないと? 未来を潰してでも?」


 沈黙が走る。

 椎名は、ステージの上で何かを口にしようとしたが——


「もう……いいよ」


 千歳がぽつりとつぶやいた。


「あなたに真実を認めさせたいわけじゃない。私は……自分の中の嘘を、終わらせたかっただけ」


 


 千歳は小さな紙袋を取り出した。

 中には、父の手帳と、最後に書かれていた一言。


 


──『娘には、未来だけを見ていてほしい』──


 


「私は、過去に縛られたくなかった。けど……目を背けたら、前に進めない気がしてた」


 千歳は理事長に背を向け、俺のほうへと振り返った。


「……私、前に進んでいいのかな?」


 その問いに、俺はうなずいた。


「当たり前だよ。過去を乗り越えた君なら、どこへでも行ける」


 千歳は、ふっと笑った。

 やっと、笑えたのかもしれない。


 


 講演会は中止となり、会場の空気はざわめいていたが、そんなことはもうどうでもよかった。


 外に出ると、夕焼けが町を染めていた。


「ねえ……私さ、大学、東京にする。歴史を学び直したい。……今度は、誰かを“守るため”に知識を使いたいの」


「いい夢だね。じゃあ、俺も……東京の大学、受けるよ」


「え?」


「同じ大学とは限らないけどさ。でも、近くにいたい。……そばで、支えたい。君を」


 言葉が、止まらなかった。

 初めて、俺は自分の気持ちを口にした。


 千歳が、そっと俺の袖を引っ張った。


「……ありがとう。最初は“嘘の恋人”だったのにね」


「でも、今は?」


「……好き、だよ。嘘じゃなくて」


 夕日が、彼女の横顔を赤く染めた。


 


 嘘から始まったふたりの物語は、

 本当の未来へと、歩き出したのだった。

 ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。


 この物語は、「嘘から始まる関係」が、「本当の想い」へと変わる過程を描くラブミステリーとして構想しました。

 ミステリーの要素とともに、「等身大の高校生たちが、自分たちの心と過去にどう向き合うか」を軸にしています。


 主人公・相原は、誰かを“守りたい”と思えるようになることで変化していきました。

 ヒロイン・千歳も、“強さ”とは何かを、自分なりに問い続けた結果、過去を乗り越える力を手にしました。


 ラブコメ的なスタートに見えて、後半では少しシリアスな展開に舵を切りましたが、最後は「心に光が射すようなラスト」を目指しました。


 物語の中で、誰かひとりでも「自分と重なる部分」を見つけていただけたなら、それ以上の喜びはありません。


 またどこかで、このふたりに再会できる日があれば、幸いです。


 


それでは、また次の物語でお会いしましょう。


――作者より

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